気迫満点です!
俺達は一様にキッカさんの気迫に呑まれてしまう。目の前にはまるで親の敵かのように力一杯肉だねをこね続けるキッカさん。俺は思わず、椅子に座りながらその様子を見る昌也に尋ねた。
「おい、昌也。キッカさん、いつもあんな風に料理してるのか? あれはちょっとやりすぎっていうか……」
「いや、実は俺もキッカさんが料理をする姿は滅多に見たことないんだよ……大体俺が仕事から帰ったらもう食事の準備は済んでるし」
俺に返事をする昌也も、キッカさんの様子を見て目を見開いて驚いている。そんななか、紫崎が恐る恐るキッカさんに話しかける。
「あの~ キッカさん。ちょっといいですか?」
紫崎の声に、肉だねをこねる力を全く緩めることなく、ボウルに視線を落としたままキッカさんがつまり気味の声で答える。
「何でしょうかっ……! 紫崎様っ……!」
「いや! 何って、キッカさんちょっと力が入りすぎじゃないですか!? 皆も多分そう思ってますって!」
確かに、キッカさんを見る皆の顔は心配そうでもあり、恐ろしそうでもあり、おおよそ料理をするものに向ける目ではなかった。
それは対戦相手のジュリさんも同じだった。ジュリさんもキッカさんの姿を見て思わず叫んだ。
「おいキッカ! いくらなんでもやりすぎだろ! お前だってそんなにこね続けたらどうなるかってことくらい……」
紫崎とジュリさんの問いに、キッカさんはただひとこと、さも当然であるかのように答えた。
「必要なっ……! 工程っ……! ですのでっ……!」
そう言って、しばらく肉だねをこね続けたキッカさんは、ジュリさんのハンバーグが焼きあがるタイミングになってようやく手を止めた。
「ふうっ……まぁ、今日のところはこれくらいにしておきましょうか。それでは、わたくしは成形と焼成の準備を致しますので、皆様は彼女のハンバーグを試食してはいかがでしょう」
作業を終えたキッカさんからは、さっきまでの覇気は消え失せて、何事もなかったかのようにハンバーグの成形にかかった。
そんなキッカさんの様子に、たまらずジュリさんが食らい付く。
「おいキッカ! 何がお前にそこまでさせるんだ! オレとの勝負のためか? 気合いのアピールか? そんなもん出来上がりにはなんの関係もねぇじゃねぇか! 答えろよ! キッカ!」
キッカさんに問い詰めるジュリさんの口調は、本当にキッカさんがここまでやった理由を知りたいようで、いつもキッカさんに突っ掛かっていく勢いがない。
そんなジュリさんの質問に、キッカさんはハンバーグを両手で行き来させながら答えた。
「先程も申した通り、必要な工程でしたのでそうしたまでです。更に言わせて戴くなら、今のがただのパフォーマンスだとお考えのようであれば、勝負は既についたようなものですね」
その冷淡な口調に、ジュリさんはたじろきながらも反論する。
「ど、どういうこった、そりゃあ!?」
そんなジュリさんの反論に、キッカさんは答えることなく作業を続けながら言った。
「そんなことよりも、貴方の仕事はまだ終わっていないでしょう? 余熱で火が通り過ぎないうちに、さっさと試食してもらったらどうです?」
「た、確かに……それじゃあ皆、オレのハンバーグの試食をしてくれや! ちょっと待っててくれ、今盛り付けるからよ!」
そう言って、ジュリさんは今しがた焼きあがったハンバーグをオーブンから取り出す。
すると、部屋中にこんがりと焼けたハンバーグの食欲をそそる香りが漂ってきた。時間もちょうど昼飯時、俺達の空腹も最高潮だ。
やがて、テーブルについた俺達の目の前に、ソースがかかった俵型のハンバーグが乗った皿が並べられる。
付け合わせはハンバーグと一緒に焼かれたポテトとブロッコリー、なかなか本格的なたたずまいだ。
「さ! 冷めないうちに食ってくれ! これがオレ特製のハンバーグだ! あ! チーズで舌を火傷しないようにな!」
「それじゃあ、いただきます!」
俺達はそれぞれ食べる前の挨拶をし、ハンバーグを口に運ぶ。
まず始めに感じるのはハンバーグにかかったソースの香り。幾つになってもこの香りには心をくすぐられる。
次に俺達を迎えるのは表面のドッシリとした噛み心地。これはオーブンで焼く前にしっかり表面を焼き固められている証拠だ。まさに『肉を食ってる!』って感じだ。
そして、ハンバーグを噛み締めた瞬間口のなかに広がる肉汁とチーズの二重奏。この重厚な味はチーズがあってこそのものだ。とろける舌触りがまたたまらない。
そして、その味に畳み掛けるようにハンバーグにかかったソースの濃厚な味が舌の上に広がる。これは市販のソースとフライパンの上に残った肉汁を合わせたものだろうか。
もちろん、ハンバーグの付け合わせのポテトも香ばしく、ブロッコリーの茹で加減も完璧。何一つ文句のないハンバーグだった。
こうして、皆それぞれジュリさんのハンバーグを食べ終えた。さて、皆の反応はどうかな?
「いや~ 美味しかった! これなら進君が好物ってのは納得だよ。いつもこんな美味しいハンバーグが食べられる進君は幸せものだな!」
「うん! ジュリお姉ちゃん、今日もお姉ちゃんのハンバーグ、おいしかったよ!」
そんな進君の賛辞に、ジュリさんは胸を張っている。
「そうだろうそうだろう! これがオレの実力よ! アミィはどうだった!? オレの作ったハンバーグはよ!」
「スゴいです! 私、こんな美味しいハンバーグを食べたのは始めてです! 外はふっくら、中はトロ~リ……私もこんなハンバーグが作れたらいいのですが……」
「大丈夫だって! また解らないことがあったらオレが教えてやっからよ! これくらいなら軽いもんよ!」
皆の反応は上々、やっぱりジュリさんのハンバーグはかなり高いレベルにあるのは間違いなさそうだ。
しかし、気になるのは昌也の反応。さっきから黙々とハンバーグを食べ続け、一口食べる度になにやら妙な顔をしている。
「どうした、昌也、そんな顔して。何か変なところでもあるのか?」
俺の質問に、昌也は難しい顔をし、その隣では紫崎も何だか悩ましげな顔をしていた。
「いや、旨いよ? 旨いんだけど、な~んか一味足りないっていうか……」
「実は、僕も同じことを考えていたんですよね……美味しいんですけど、ちょっともの足りないっていうか……僕の場合は、母のハンバーグと比べてしまっているからだとは思うんですが……」
「何だ何だ、お前ら、オレのハンバーグになんか不満でもあるのかよ」
二人の浮かない表情に、ジュリさんが問い詰めた。その表情は怒っているというか、何だか少し不安そうだった。
「さあ、それでは私もそろそろ肉だねの焼成に入りますので。紫崎様、こちらへ」
そう言って、キッカさんが冷蔵庫で休ませていた肉だねを取り出し、ハンバーグの焼き上げに取りかかった。
俺はさっきジュリさんが見せた不安げな表情に若干の違和感を覚えつつ、キッカさんの調理の様子を見に行った。
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