お料理勝負です!
次の土曜日、紫崎への料理講習の名を借りたキッカさんとジュリさんの料理勝負の日がやってきた。
会場はスペースの都合で進君の家、俺達五人は台所の隅に椅子を並べて、二人が調理をする様子を眺められるよう準備をする。
しかし、一般的な台所とは比べ物ならない程、進君の家の台所は広い。しかも調理設備もよく見たことがないようなものばかりだ。これだけの調理設備を使いこなすのは至難の技だろう。
「さぁ~て! 今日はお前らにオレのハンバーグ、存分に味わってもらうから、楽しみにしてろよな!」
そう言って、ジュリさんが流しの前で腕をグルグルと回しながら材料や調理器具を準備していく。その材料は、オーソドックスなものの他に、チーズの塊がデンと鎮座している。
どうやらジュリさんはいわゆるチーズインハンバーグをつくろうとしているようだ。そういえば、前にメリーさんが食べていたのもチーズインハンバーグだったな。
ひき肉や野菜なんかは公平を期すため、二人とも同じものを使うことになっているんだけど、ジュリさんはアレンジで差をつけようとしているようで、これは期待ができそうだ。
「まったく、騒がしいったらありませんね」
一方、キッカさんはというと、いつものロングヘアを後ろでまとめ、なにやら普通はハンバーグには使わない材料を持ち込んでいるみたいだった。これはキッカさんにも何かしらの秘策がありそうだ。
こうして、二人は着々と調理の準備を進めていく。手持ち無沙汰な俺は、ちょっと昌也に話を振ってみる。
「なぁ、昌也。お前、キッカさんの作るハンバーグって食べたことあるんだよな? どうなんだ? 実際のところ」
そんな俺の耳打ちに、昌也は自信たっぷりに答える。
「そりゃあ何度かあるけど、旨いぜ、キッカさんのハンバーグ。ぶっちゃけ外で食うのの何倍も旨い。それは俺が保証するぜ!」
まぁ、何にでも調味料をドバドバかけて食べる昌也の言うことだから話半分に聞いておくかな。そして、俺は隣に座るアミィの様子を窺う。
その目線は真剣そのもの、まだ準備中にもかかわらずアミィは食い入るように二人の動きを追っている。アミィにとっても今日は勉強だ、この様子は無理もないかな。
「今日はアミィも二人のハンバーグを食べて勉強して、俺にもアミィの作ったハンバーグを食べさせてくれよな」
俺の何気ない言葉に、アミィはこれまた真剣に返事をする。
「はいっ! お弁当のレパートリーを増やせるよう頑張りますから、楽しみにしておいてくださいね! ご主人様!」
しかし、アミィが実際ハンバーグを作るとなると俺も一緒に作ることもあるわけだから、今日は俺もしっかり勉強しないとな。
そんななか、粗方準備を終えたキッカさんが辺りを見回り、進君の元へやってきた。そして、進君の目の前で屈んだキッカさんが進君に尋ねる。
「進君、ちょっとお願いしたいことがあるのですが」
「なに? キッカお姉ちゃん」
そして、キッカさんは進君にゴニョゴニョと耳打ちをし、それを聞いた進君がキッカさんを戸棚まで案内する。
「確か、ここにあったと思うんだけど……」
そして、案内されたキッカさんは戸棚を探り、なにやら大きなボウルのようなものを取り出した。
「これなら……大丈夫そうですね、ありがとう、進君。私の作るハンバーグ、楽しみにしていてくださいね」
「うんっ!」
キッカさんと進君は顔を見合わせて笑いあっている。いつもは見せないキッカさんの柔らかい笑顔。俺はその表情に思わずドキッとしてしまった。
それも束の間、そのやり取りを見ていたジュリさんが、キッカさんの元へバタバタとやってきた。頼むから調理前にゴタゴタするのは止めてくれよ。
「おい! ズルいぞキッカ! 進に懐柔しようったってそうはいかねぇぞ!」
そんなジュリさんを、キッカさんはため息まじりであしらう。
「何を言うかと思ったら……そんなことを気にする暇があったら自分の作業に集中したらどうです? 私、今日は一切手加減をする気はございませんので、準備をし過ぎるということは無いかと思いますよ」
「うるせぇ! そっちこそ余裕ブッこいて足元掬われないようにするこったな!」
「お心遣い、ありがとうございます。それでは」
「ケッ! 本当に癪に障る言い方しやがるな……」
こうして、喧嘩別れのような形でそれぞれが割り当てられた調理台へと戻っていく。そして、二人の準備が済んだのを確認した紫崎が立ち上がった。
紫崎は調理台の方へと歩いていく。今日紫崎は基本的には二人の周りで調理の様子をつぶさに見て回る予定だ。その顔はいつになく真剣みを帯びている。
「それじゃあ改めて、皆さん本日は僕のために貴重な時間を割いてもらいありがとうございました。本日学んだことを生かして、メリーに最高のプレゼントができるよう僕も頑張りますので、キッカさん、ジュリさん、本日は宜しくお願い致します!」
そう言って、紫崎は二人に向けて深々と頭を下げる。何が紫崎にここまでさせるのか、俺は少し紫崎のことが心配になってきた。
「その心意気やよし、そうまでされるのであれば私も全力でお答えしますので、調理中はなんなりとご質問くださいませ、紫崎様」
「いやいや、固いって! 坊っちゃんよ! それじゃあ早速、調理にかかるとするかな!」
そのジュリさんの声と共に、キッカさんとジュリさんが一斉に調理をスタートさせた。
そして、スタートと同時に紫崎はメモ帳を取り出し、メモを取る準備をした。これは紫崎も大概本気だぞ。
「アミィ、アミィも何か聞きたいことがあったら行ってきな。二人も追い返したりはしないだろうからさ」
「はいっ! 実は私もメモを取る準備をしてきていますので、勇気を出していってみますね!」
こうして、キッカさんとジュリさんの料理勝負がスタートした。さて、俺も邪魔にならない程度に二人が調理する様子を見て回ろうかな。
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