いつもとは違う朝
次の日の朝、俺はあのあとすぐに寝てしまったようで、俺が目覚める頃にはもう既にアミィは俺の布団から出ていた。どうやら充電が切れる前に出ることができたみたいだな。
裸のアミィに抱きつかれたまま目覚めるなんて、絵面的にかなりいかがわしい。
それに、明るい状態でアミィを充電スタンドまで運ぶとなると、どうしてもアミィの裸を見ないといけなかったから、正直助かった。
俺がムクリと布団から起き上がりテーブルに目をやると、昨日と同じくアミィがお茶を淹れて俺が起きるのを待っていてくれていた。
でも、その顔は何だかほんのりと赤く、アミィはこちらを見ようとしなかった。
「おはよう、アミィ。昨日は自分で充電できたんだな」
俺の言葉に、アミィは何だか慌てながら答える。その手に握られた急須のふたはカタカタと鳴り、湯呑みからはお茶が溢れている。
「お、おはようございますご主人様! 昨日はよく眠っていらしたようでよかったです! はい!」
「ああ……昨日は……」
アミィの慌てっぷりに、俺も何だか少しずつ昨日の背中の感触を鮮明に思い出して、すっかり目が覚めてしまった。
冷静に考えたら女の子にあんなことをさせてしまったことを申し訳なく思ってしまう。
そんな俺を見て、アミィは少し表情を沈ませる。しまった、アミィにまた無用な心配をさせてしまったかな。
「ご主人様、昨日はあんなことをしてしまい、大変失礼致しました。昨日は私もどうかしていました、昨日のことはもう忘れてください……」
いや、アミィはこんな優柔不断な俺にあんなことをしてまで答えてくれたんだ、その気持ちはとても嬉しい。そのことだけは、今すぐに伝えてあげないと。
「まさか。アミィの気持ち、忘れるなんてとんでもないよ。昨日は嬉しかったよ、ありがとう、アミィ。それに、昨日アミィは『返せるものがない』なんて言ってたけど、そんなことないんだよ」
「どういう……ことですか?」
そうさ、アミィと出会って今日まで、俺はアミィと共に過ごしてきた。そして、俺はかけがえのないものを得られた。それは、与えるものでも、与えられるものでもないんだ。
「俺とアミィが一緒に過ごすだけで、お互いが幸せになる。それは『返す』とかそういう感覚じゃないんだ、アミィ。それが『恋人同士』ってもんだよ、解ってくれるかい?」
しかし、よくもまぁ言ったもんだな。俺だってこんなことを女の子に言うのは初めてで、自分の言葉に少し自信がない。
それでも、アミィは俺の方に体ごと向き直り、俺の言葉を真剣に聞いてくれた。
「そう……そうなのですね……それが『恋人同士』ということなのですね……」
アミィは少しうつむき、指を口に当てながら何かブツブツとつぶやき、やがて吹っ切れたように顔を上げる。
「解りました、ご主人様! これからはご主人様と私は恋人同士です! ですから、私はもう昨日みたいな弱音は言いません! これから何があっても私はご主人様が大好きです! これからも宜しくお願い致しますね、ご主人様!」
そう言って、アミィは直視できないほど屈託のない笑顔を浮かべながらこっちを見つめてきた。
そのまっすぐ過ぎるアミィの笑顔に俺は力強くうなずきながら答えた。
「ああ! こっちこそ宜しくな、アミィ!」
「はい! あ、それはそれとしてですね……」
何だ? 急にアミィがまた弱々しく顔を赤くしながらうつむいてしまった。俺はそんなアミィを見ながら次の言葉を待った。
「たまに、たま~にでよいので、昨日みたく、ご一緒に寝てもよいですか? ご主人様」
いやはや、上目遣いでこんなお願いをされたら断るという選択肢は潰されてしまったようなもんだ。俺はアミィに笑い掛けながら返事をした。
「ああ、もちろん。でも、一緒に寝るのは休みの日だけだからな、アミィ。それと、寝るときはちゃんと服を着て、な」
「はい! ありがとうございます! ご主人様!」
こうして、俺とアミィは改めて恋人同士としてのスタートラインに立った。お互いが出会ってから数ヶ月、早かったような、遅かったような。
さて、そんなこんなで時間はもう9時、チェックアウトの時間が近づいてきた。俺とアミィは荷物をまとめて、部屋を軽く片付けてからその時を待った。
…………
時間は10時、いよいよ別れの時間がやってきた。俺とアミィは荷物を持って旅館の玄関へと向かった。
すると、玄関にはカグラさんと板長さんの姿があった。
「お世話になりました、カグラさんと……」
俺が板長さんの方に目をやると、ごく薄く笑みを浮かべながら板長さんが俺の視線に答えた。
「……神楽 建夫だ」
その声は、とても聞き取りにくかったけど、ようやく板長さんと会話をすることができた。そして、建夫さんがアミィに視線を向け、話しかける。
「……ありがとうな、お嬢ちゃん」
この言葉、恐らくアミィとカグラさんの間で交わされた会話に関係してるんだろうけど、俺には何とも言えないな。そして、アミィが建夫さんに笑顔を向けながら答える。
「はい、これからもカグラさんと末長く、お幸せに」
それを聞いた建夫さんは、軽くコクリとうなずいた。そして、カグラさんと建夫さんが微笑みながら顔を見合わせた。
「それでは、建夫さん、カグラさん。また来ますよ、アミィと一緒に」
「それでは、お二人とも、お元気で」
俺達二人の別れの挨拶に、カグラさんが深々と頭を下げながら答える。
その横では、建夫さんが薄く笑みを浮かべながら手を組んでいる。
「はい、旦那共々、またお二人がいらっしゃるのをお待ちしておりますので、今後ともどうぞご贔屓に」
こうして、俺達は旅館を後にした。この調子なら、これからも『旅館 神楽』は何とかうまくやってくれるだろう。
もしかしたら、次来るときには案外昔みたいに『縁結びの宿』として盛り返してたりして。
俺とアミィは何度か振り返りながら旅館から離れていく。その間、建夫さんとカグラさんはずっと俺達を見送ってくれていた。
…………
俺達は帰りの電車に揺られながら俺達が住む街へと戻っていく。
会社と友人へのお土産で荷物が膨れ上がって運ぶのが難儀したけど、軽い荷物はアミィに持ってもらって事なきを得た。
そんなアミィは、時間が経つにつれてまぶたが下がり、やがて眠るように動きを止めてしまった。
やっぱり、昨日からの活動で充電が足りてなかったみたいだな。
こうして、俺とアミィの温泉旅行は幕を閉じた。
電車から降りた帰り道、俺はアミィをおぶって家路へとついた。
手には溢れんばかりの荷物、俺はアミィを落っことさないように、ゆっくりと時間を掛けて歩き続けた。
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