プレゼントです!
露天風呂から戻った俺達は、しばらく部屋でゆっくりと過ごし、やがて夕食の時間がやって来た。
その豪華さときたら昨日の五割増しくらいに感じて、それは宿泊料金の上乗せを心配をしてしまうほどだった。
そして、夕食を終えた俺とアミィは旅館での最後の夜を楽しんだ。
もっとも、話すことは温泉街での思い出や展望台での話しかないんだけど、それだけで俺達には十分だった。
さて、話の種も尽き、そろそろ明日に向けて休もうかといった雰囲気になってきた。でも、その前に、旅行の最後の思い出のために準備していたことがあるんだ。
「アミィ、ちょっといいかな?」
「はい、何でしょうか、ご主人様」
俺の少し改まった態度に、アミィは軽く首をかしげて不思議そうな顔をする。
そんなアミィを尻目に、俺は隠していたものを備え付けの引き出しから取り出した。
「今回の旅行の最後に、アミィにちょっとしたプレゼントを用意していたんだ。はい、これ」
俺はアミィに絵付けがされたピンク色の和紙で包まれた縦長の箱を手渡した。
それを受け取ったアミィは、箱を見つめてながら少し惚けて、やがて俺に向き直る。
「そんな、ご主人様と旅行に来られただけでも十分なのに、プレゼントだなんて……」
「いいからいいから、開けてごらん、アミィ」
「はい、それでは……」
そう言って、アミィが和紙を止めていたテープを丁寧に剥がし、包みを開いていく。そして、現れた真っ白い箱のふたをパカリと開いた。
「あの、ご主人様。これは何なのでしょうか? 綺麗な刺繍が施されているようですが、私、このようなものは初めて見るので……」
「そうか、アミィはこれは初めて見るのか。そうだな、それじゃあ、取り出して、こっち側を覗いて、手元で横に回してみてごらん」
アミィは中に入っていたものを取り出して、俺が言った通りに片側を目の前に持ってきてクルクルと回し始めた。
「な、何ですか!? このキラキラとした模様は! それに、回す度に模様が変わって、あ! 色も変わりましたよ! スゴいです! まるで魔法みたいですよお!」
良かった、アミィは喜んでくれているみたいだ。俺がアミィに渡したのは万華鏡、アミィに内緒でコッソリ買っていたものだ。
やっぱり旅行に来たからには何か形に残るものをプレゼントしたかったんだ。
今まで女の子にプレゼントなんかしたことがなかったから喜んでくれるか不安だったけど、要らない心配だったかな。
俺はしばらく夢中で万華鏡を覗き込むアミィを眺めていた。
…………
ひとしきり万華鏡の美しさを堪能したアミィは、俺の方に向き直り、目を細めながら俺の方に微笑みかける。
「ご主人様、このような素晴らしいプレゼントを下さり、本当にありがとうございます。私、ず~っと大切にしますからね!」
「ああ、正直そこまで喜んでもらえるとは思っていなかったから、嬉しい誤算だったよ」
さて、いよいよもってそろそろ休まないといけないな。また布団を敷いてもらうためにカグラさんを呼ばないといけないし、仕方ない。
「さあ、それじゃあそろそろ寝ようか、アミィ。明日はあまり長くは寝ていられないから、少し早いけど」
「そうですね……もう、楽しかった旅行も終わりなのですよね……」
アミィは少しうつむきながら、とても名残惜しそうにしている。俺だって名残惜しいけど、時間は有限だ。
「そんな顔するなって、アミィ。あんまり頻繁にはこんな贅沢はできないけど、休みの日に一緒に出掛けるくらいならいつでもできるからさ」
「はい、解っています。それは解っているのですが……」
何だろう、アミィはただ旅行の終わりを惜しんでいるだけじゃなさそうだった。何か俺に言いたいことでもあるんだろうか。
「どうした、アミィ。言いたいことがあるなら遠慮なく言ってくれていいんだぞ?」
そんな俺の問いかけに、アミィは慌てて返事を返した。
「いえ! 言いたいことといいますか、何と言いましょうか……」
アミィは口をモゴモゴとさせながら歯切れの悪い物言いをする。そして、しばらくするとアミィは小さな声で俺に言った。
「私、こんなにご主人様によくして戴いて本当によいのでしょうか……」
アミィは申し訳なさそうに、更にうつむく。俺からしたらそんなこともう気にするまでもないことだと思っていたけど、アミィはまだそうじゃなかったんだな。
「いいも何も、アミィは俺の大切な……」
俺はそこで気づいた。俺は今日までアミィと過ごしていたけど、まだあのことをアミィに言ってあげていないことに。
「そうだな、この際俺も腹をくくらないとな。アミィ、君は俺の大切な恋人だ。恋人同士なんだから、そんな遠慮はいらないんだよ。解ってくれるか? アミィ」
そう、俺はこれまで恋人という言葉を避けてきた。もしかしたら、人と付くこの言葉がアミィを傷付けてしまうかもしれないと思っていたからだ。
それでも、俺は敢えてこの言葉をアミィに言うことで、これからの俺とアミィの関係を進展させたかった。
俺の言葉を聞いたアミィは、顔をあげて俺の目をジッと見つめる。
「恋……人……ですか?」
そして、アミィは何だか複雑な表情を浮かべた。やっぱり、アミィを傷付けてしまったのかな?
それでも一度口にした言葉は取り消せない、俺はアミィに向けてうなずいた。
「ああ、君は俺の恋人。俺とアミィは恋人同士、それじゃあダメかな? アミィ」
「あの、その、私、まだちょっと頭が付いていかなくって、申し訳ありません、ご主人様」
「ああ、それでもいいよ。これから少しずつ、恋人同士になっていこうな、アミィ」
それからアミィは、何だか考え事をするかのように黙ってしまった。さあ、こうなってしまったらもう俺にできることはないかな。
俺がカグラさんをベルで呼び出すと、早々とカグラさんがやって来て、テキパキと布団を敷き終えた。
「それじゃあ、お休み、アミィ」
アミィからの返事は返ってこなかった。俺はそんなアミィの態度に少し違和感を覚えつつ、電気を消して布団に潜り込んだ。
何だか胸がモヤモヤする、もしかしたら今日はあまり眠れないかもしれないな。
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