背中をお流ししましょう!
「あ! ご主人様、お待ちください!」
俺が湯船から出ると、それを追うようにバシャリとアミィが湯船から出る音がした。
そうだ、アミィは俺の体を流したがっていたことを忘れていた。ちょっと待て、つまり、今、アミィは……
「きゃあ!」
俺の背後からアミィの叫び声が聞こえ、俺は思わず振り返ってしまった。
そこには、一糸纏わぬアミィがこちらに倒れ込んできているところだった。そして、俺は胸に飛び込んでくる形になったアミィを支える。
「あ……申し訳ありません、ご主人様……」
どうやらアミィは慌てて湯船から上がったときに転んでしまったみたいだ。アミィの足がたたらを踏み、体が俺の方に倒れ込んでくる。
そして、気がつけば俺の手のなかではアミィが俺に包まれる形で顔を真っ赤にしていた。
俺の方を見上げるアミィ、その上目遣いに俺は吸い込まれそうになってしまった。そして、そのまましばらくお互いの目を見つめ合い、やがて俺は我に帰った。
「ゴ、ゴメン! アミィ! すぐにあっち向くから、早く、タオルタオル!」
「は、はい! 申し訳ありません! 少々お待ちください、急いでタオルを巻きますので!」
「いや! やっぱり慌てなくていいから! しっかり、しっかり巻いてくれよ! アミィ!」
俺とアミィはちょっとした混乱状態で慌てて離れ、すぐさまお互いに背を向けた。
俺はさっきまで肌で感じていたアミィの滑らかな肌触りと、フニッとした感触に、少し前屈みになってしまった。
…………
俺は何とか気分を鎮めて、鏡の前で椅子に腰掛ける。その背後で、アミィが必死にタオルで泡立てているのが鏡越しに見えた。
そして、アミィがニコニコと笑顔を浮かべながら俺に話しかける。
「お待たせしました! それでは、背中を流させて戴きますね! ご主人様!」
「うん、お願いね、アミィ」
「それでは、失礼しますね……」
アミィは俺の背中をソロソロと撫でるようにタオルでこする。その手付きが何だかくすぐったくて、俺は思わず笑ってしまった。
「どうされましたか!? 私、何かおかしかったですかね!?」
「いや、アミィのタオルがちょっとくすぐったくてね。もう少し強くこすってくれて大丈夫だよ、アミィ」
「解りました! ご主人様! それでは、よいしょ、よいしょ」
そう言って、アミィは少し力を込めて俺の背中をこする。いいぞ、一日の垢が落ちていく確かな感触だ。
俺はしばらくアミィにされるがまま、何とも言えない心地よさに身を任せた。
…………
あらかた背中をこすり終わったのか、アミィの手が止まる。そして、俺の背中に手を当てながら、アミィが背中越しにつぶやいた。
「やっぱり、男性の背中って広いものなのですね。この背中が、あのとき私を守ってくれたのですよね……」
恐らく、アミィは遊園地で暴走するアンドロイドからアミィを守ったときのことを言っているんだろう。あのときは夢中だったから、今思えば、俺はあまり痛みを感じていなかったのだと思う。
そのとき、俺はふと思った。あのとき、なぜ俺はアンドロイドからの攻撃に耐えられたのだろうか。海水浴場で見たアンドロイドのパワーは相当のものだったはずだ、あんなパワーをまともに受けて無事でいられるものだろうか。
個体差? それも考えられるかもだけど、何だかしっくりこない。もしかして、アンドロイドが手加減をしていた? もしそうなら、なぜそんなことをした? 解らない、俺の疑念は深まるばかりだった。
「どうされましたか? ご主人様。そのような難しい顔をされて、私、何か変なことを言いましたかね?」
「いや、何でもないよ、アミィ。それより、背中を流してくれてありがとうね。それじゃあ、前を洗うからタオルを貸してくれないか?」
「は、はい! そうですよね! どうぞ! こちらを!」
このアミィの慌てっぷり、もしかしてアミィは前も洗うつもりだったんだろうか。
それはさすがに俺の理性が持たない、ここは気持ちだけ受け取っておこう。俺はアミィからタオルを受け取り、早々と体を洗いにかかった。
…………
さて、あらかた体を洗い終えた俺は、アミィにシャワーで体を流してもらう。
順当に行けば、俺もアミィの背中を流してあげるべきだろうか。ひとまず俺はアミィに提案してみた。
「それじゃあアミィ、俺もアミィの背中を流そうか?」
俺の提案に、アミィは慌てて返事をした。
「いえ! 私は代謝もありませんし、湯船に入るだけで十分なので! それに、ご主人様に背中を流してもらうなんて申し訳ないですよお!」
アミィはこう言っているけど、俺達はもはやそういう関係じゃないんだ。ここは少し強引にでもアミィの背中を流してあげたい。俺はアミィを押してみる。
「まぁ、そう言わずにさ。俺はただアミィにお礼をしたいんだよ。それとも、俺に背中を流してもらうのは嫌か? アミィ」
「そんな言い方されたら断れないじゃないですかぁ……ズルいですよぉ、ご主人様ぁ……」
よしよし、俺の思惑どおりアミィが折れてくれたぞ。ちょっと意地悪な言い方だったけど、結果オーライだ。
俺は最初にアミィが俺の背中をこすったときのように、アミィの肌の上にタオルを滑らせる。
アミィの肌を傷付くないように、しっかりと泡立てて、力を入れずに、丁寧に。そんな俺の手付きに、アミィはウットリとしながら身を任せてくれた。
こうして同じ感覚を共有できることが何とも言えず、幸せだった。
そして、体の洗いっこを終えた俺達は再び湯船に浸かり、気が済むまで夕焼けに染まる空を楽しんだ。
さっき俺の頭の片隅に浮かんだ疑念は、温泉から立ち上る湯気と共に霧散してしまっていた。
そして、俺とアミィは旅行の終わりを刻々と感じながら露天風呂をあとにした。
明日の午前中にはここを立たないといけない。それまでの時間で、俺はアミィに何をしてあげられるかを考えながら浴衣に着替え、アミィが待つ大浴場の入り口へと向かった。
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