恋愛解禁!
俺達が展望台から戻ると、ちょうどカグラさんが入り口の前で箒をかけていた。
カグラさんはこっちに気づいていないみたいだ。俺はカグラさんの手の動きが止まるタイミングを見計らって話しかけた。
「ただいま戻りました、カグラさん」
そんな俺の声に、カグラさんは手首で汗をぬぐい、笑顔でこちらに顔を向けた。その顔は何だかスッキリしたような、清々しさを感じるものだった。
「あら、お帰りなさいませ、響さん、アミィちゃん。お見苦しいところを見せしてしまいましたね、申し訳ありません。展望台からの景色はいかがでしたか?」
「今日は人が少なかったので、アミィと二人きりの時間を過ごすことができました。楽しかったよな、アミィ」
「はい! 本当に夢のような時間でした! お弁当もとっても美味しかったですよ!」
「それはよろしゅうございました。旦那様もそれを聞いたら喜びます」
そんな俺達を、カグラさんは溢れるような笑顔で交互に見る。なんだろう、カグラさん、何かいいことでもあったのかな。それに、旦那様ってどういうことだろう。
「あの、カグラさん、旦那様って……」
俺の言葉に、カグラさんはハッとする。でも、すぐに元の笑顔に戻り、カグラさんはアミィの方に目をやり、目を細めた。
「アミィちゃん、アミィちゃんの言う通りにしてみたら、ぜ~んぶ上手くいったわ。本当に、アミィちゃんには感謝しないといけないわね」
カグラさんの言葉を聞いたアミィは満面の笑顔を浮かべ、カグラさんに駆け寄り、胸に飛び込んだ。
「よかったです……! 板長さん、解ってくれたのですね……! 私、自分のことみたいに嬉しいですよお……!」
「ありがとう……ありがとうね、アミィちゃん……」
アミィはカグラさんの胸にグリグリと顔をこすりつけながら喜んでいる。
俺にはこの状況はよく解らないけど、雰囲気的に何かとてもいいことがあったみたいだな。
アミィを抱き締めながら頭をポンポンと叩くカグラさんは、まるで母親のようだった。そんな二人を、俺は邪魔にならないように息を潜めて見守り続けた。
…………
旅館の部屋に戻った俺達は浴衣に着替えて、テーブル向かい合ってアミィからアミィとカグラさんの間に何があったのかを聞いた。
その話は俺も少なからず気になっていたことだったからわずかに疎外感を感じてしまった。
「それにしても、板長さんとカグラさんがなぁ……」
「私は、私の話でカグラさんと板長さんが仲良くしてくれたのが嬉しくって嬉しくって! それに、私もこれでご主人様が大好きなんだって自信をもって皆さんに言えます!」
そうだな、そろそろ潮時か。もちろん親しい間柄に限った話だけど、これからは俺達が愛し合っていることはオープンにするのもいいだろう。
「それじゃあアミィ、改めて言うよ。これからは俺達が愛し合っていることは、アミィがいいと思ったら誰かに言ってもいいよ。今日まで我慢させちゃってゴメンな、アミィ」
俺の許しの言葉に、アミィは満面の笑顔を浮かべて、その場から立ち上がり、俺の真横までトテトテとやってきてガバッと抱きついてきた。
「ありがとうございます! これで皆さんにも私達が愛し合っていることを解ってもらえるのですね……! 私、嬉しいです……! やっと私達、結ばれるのですね……!」
「おいおいアミィ、何も泣くことないだろ? でも、そこまでアミィは他の皆に解ってほしいのを我慢してたんだよな。本当に、ゴメン」
さぁ、これからが正念場だ。これからは俺達の関係を知り合いに話さないといけないな。
昌也あたりは解ってくれるかもだけど、あまり積極的に話す話でもないのは事実だから、話す相手は慎重に選ばないといけないな。
アミィもむやみに話したりはしないだろうけど、アミィは自分達だけしか愛し合っていることを認識していないこの状況は、本当の意味で『付き合っている』とは言えないと思っていたんだな。
アミィの気持ちは俺にもよく解る、俺だって同じ気持ちだ。さて、この選択が吉と出るか凶と出るか、どっちにしても俺達なら乗り越えられる。
祝福されなくてもいい、俺はアミィと一緒なら何があったって後悔しない、俺はアミィの笑顔を見ながら、そう心に固く誓った。
…………
さて、時間も経ちそろそろ運命の時がやってきた。ちょっと大袈裟かもしれないけど、実際俺の心臓はバクバクしっぱなしだ。多分アミィも俺と同じ様なことを意識しているはずだ。
いや、こういうことは男の俺から言うべきだ。俺は唾をゴクリと飲み込んだ後、意を決してアミィに話しかけた。
「アミィ!」
「ご主人様!」
完全に同時。俺もアミィもお互いの顔を凝視する。そしてしばらくの沈黙の後、俺から話を切り出した。
「何だい、アミィ。何か言いたいことがあったら言ってごらん?」
あぁ、やってしまった。ついとっさとはいえアミィに話を振ってしまった。こんなだから俺はダメなんだ、自分でも情けなくなる。
そして、アミィはコクリと頷き、顔を真っ赤にしながら少しうつむいて答えた。
「ご主人様……! 今日は、私と一緒に、温泉入りませんか? いえ! 一緒に入りましょう! ダメですか? ご主人様」
久しぶりの上目遣い、改めてアミィのこの表情の破壊力を思い知った。情けないけど降参だ、俺にはこんなにいじらしいアミィに対して答えてあげないという選択肢はない。
「ゴメン、アミィ。本当に情けないけど、俺も同じことを言おうとしていたんだ。一緒に温泉、入ろう、アミィ」
俺の答えを聞いたアミィは、見たこともないようなとびっきりの笑顔を浮かべ、目をキラキラさせながらもう一度抱きついてきた。
「ありがとうございます……! ご主人様……!」
少し前に背中を流してもらうのを断ったりしたけれど、これでやっとアミィの願いを叶えてあげられる。しかし、これから先は俺にも未知の領域だ。
俺の心臓はさっきにも増してバクバクと鳴っている。そして、俺とアミィはそんな状態でゆっくりと、二人並んで、手を繋ぎながら露天風呂へと歩いていった。
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