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【旧】アミィ  作者: ゴサク
八章 心近づく温泉旅行
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「愛し合う」ということ

 私には何が起きているか解らなかった。揚げ油の香ばしい匂い、私の体を包み込む熱を帯びた旦那様の体、今まで聞いたことがないような旦那様の震え声。その全てが私の思考回路を満たしていく。


 私は困惑しながらも、旦那様にされるがままに身を任せ、旦那様の次の言葉を待つ。

 そして、しばらくすると旦那様は私にたどたどしくもいつものしゃべり方とは違う、張り上げた声で私に語りかけ始めた。


「俺も……今日までお前が俺の傍にいてくれたことを感謝している……! でも、俺、不器用だから、お前に言葉で伝えられないでいた……! それに、お前はアンドロイドだから、俺の気持ちを解ってくれないと思っていた……!」


 旦那様の言う通り、アミィちゃんから話を聞くまでは私にも自分の気持ちがよく解らなかった。

 それでも、アミィちゃんは言葉にして伝えることの大切さを教えてくれた。だからこそ、私は今こうして旦那様に抱かれているんだ。


「それに、妻がいなくなってから、お前の主人になったことに引け目を感じていたんだ……! 俺はお前を妻の代わりにさせていたのかと思って……! 俺は薄情で、自分勝手な男じゃないかって……! だから、お前に俺の気持ちを伝えるのが怖かったんだ……!」


 そんなことない、私は旦那様と奥様に遣える為にここにいる。

 それは奥様が亡くなっても関係ない、私はこの旅館に染み付いた旦那様と奥様の努力の結晶に敬意を持ってここにいるんだ。


「でも、俺もお前に伝えたい! 俺は! お前のことも妻と同じくらい大切だと思っている! お前は俺が自暴自棄になったときもずっと俺のことを支えてくれた! だから、これからも俺の傍にいてくれ! 俺にはお前が必要だ! 頼む!」


 旦那様は私を抱き締めたまま、手に力を込める。

 私が旦那様の傍にいることは当たり前なのに、従者が主人の傍にいることは当たり前なのに、なぜ旦那様は私に頼み事のような言い方をするのだろうか。


 これが人が誰かを必要とするということなのだろうか。命令でも義務でもなく、ただ必要としてもらえている。

 私は何だか旦那様のそんな懇願を聞いていると妙な気持ちになってしまう。


 何だか体の芯が熱くなるような、これまで感じたことがない心地よい気持ちだ。私はアンドロイドだけれど、これが『愛されている』ということなんだろうか。

 解らない、解らないけれど、今はこの気持ちに身を任せていたい。


「ええ、もちろんですよ、旦那様。先程も申した通り、これからも旦那様と奥様の為に精一杯尽くさせて戴きます。ですから、旦那様は私にこれからもなんなりとご命令くださいな」


 私の答えに、旦那様は更に声を張り上げる。


「違う! そうじゃない! そうじゃないんだ! 俺はお前のことが好きなんだ! 命令とかじゃなくて、これからは俺の隣で、並んで歩いてほしいんだ! 可笑しなことを言っているのは解ってる! ただ、俺にはこれ以上うまく言えなくて……! ああっ! クソッ!」


「旦那様……!」


 旦那様は真剣だ、それは間違いない。でも、私はアンドロイドなのに、旦那様は私のことをどうしたいのだろうか。

 もしかして、私のことを本当に奥様と同じくらい『愛して』くれているのだろうか。


 私の思考回路はこの気持ちを受け入れるよう出来ていない()()。それでも、旦那様の言葉を聞いた私の体の芯の熱は更に温度を上げていく。

 私は旦那様の気持ちに答えたい、答えてあげたい。


 それが仮初めのものであったとしても、主人からの命令に答えるといった形のものであったとしても、今の私のこの気持ちは旦那様に伝えるべきだ。


「解りました、旦那様。これからは、私も旦那様の隣で、言いたいように、感じたように、自分の気持ちを伝えさせて戴きます。それでも、私は到底奥様の代わりにはなれませんが、それでも宜しいですか?」


 そんな私の言葉に、旦那様は叫ぶように答えた。


「当たり前だ! 妻の代わりなんかじゃなくていい! お前はお前でいてくれればいいんだ! だから……これからも俺と一緒にいてくれ……!」


「解りました。それでは、これからも宜しくお願い致します、()()()


「あぁ……! あぁ……!」


 旦那様は、私を抱き締めたまま何度もうなずいた。私の役目は旦那様を支えること、それは今も昔も変わらない。

 それでも、今日の私の決心でその役目が持つ意味は大きく変わってしまった。

 私はこれからは旦那様のことを本当の意味での()()()として、共に歩いていくんだ。


 そんなことを考えながら、私は昨日の夜にアミィちゃんが教えてくれた、『愛し合う』というのがどういった気持ちなのかについて思い出していた。


 頭はボーッとはしないけれど、旦那様のことで頭がいっぱいにはならないけれど、胸の奥が熱くなるという気持ちは私にも感じることができた。


 それに、アミィちゃんが言っていたように、『いつまでも一緒にいたいと思う気持ち』も、私にも感じることができたし、旦那様だって同じように思ってくれている、それは間違いない。


 アミィちゃんの言ったことは本当だった。言葉にして伝えるだけでこんなにも世界が変わって見えるものか。

 私は今まで何をしてきたのか後悔せずにはいられなかった。でも、これからはもう大丈夫。


 結局のところ、アミィちゃんが教えてくれたのが本当に『愛し合う』ということなのかもハッキリとは解らないけれど、アミィちゃんから見たら、今、私は旦那様と『愛し合う』ことができているのかしら。ねぇ、アミィちゃん。

ここまで読んで頂き有り難うございます!

もし気に入って頂けたら、感想、評価、ブックマーク等宜しくお願い致します!

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