展望台でのひととき
俺達の目の前に広がるのは、こぢんまりとした展望台とその周囲に生い茂る木々。
そして展望台の向こうに見える俺達が昨日一緒に歩いて回った温泉街。更にその向こう側には赤と緑が混じった山々を望むことができた。
やっぱり平日なだけあって、展望台には俺達しかいないようだ。これなら気兼ねなくアミィと話すことができるだろう。
俺達はひとまず展望台に据え付けられた長椅子に並んで座り、水筒の中のお茶で一服した。
そして、俺はアミィに例の話について切り出した。アミィが旅館で話すことができなかった話。いよいよその内容を知ることができるとあって、俺は何だか心臓がドキドキしていた。
「それじゃあ、早速アミィが俺にしようとした話、聞かせてくれないか? 多分、カグラさんとアミィが俺に内緒で話していたのと関係あるんだろうけど」
そんな俺の質問に、意外にもアミィはその場でうつむきながら質問で返した。その質問は、俺が全く想定していなかった質問で少々面食らってしまった。
「ご主人様、ご主人様は、私のことを本当に愛してくれていますか?」
「いきなりどうしたんだ、アミィ。何でそんなことを聞くんだ?」
アミィは困惑する俺の方を見ながら、目に涙を浮かべている。昨日のアミィからは想像できないその泣き顔に、俺はますます困惑してしまう。
そして、アミィは絞り出すように俺の質問に答える。その顔は、これまで見てきたアミィのどんな顔よりも辛そうで、苦しそうで、見ているだけで胸が締め付けられそうだった。
「昨日、カグラさんから聞いてしまいました。詳しい内容はカグラさんとのお約束でお話しすることはできませんが、人間とアンドロイドが愛し合うことはおかしなことなのですよね? だから、ご主人様は他の方々に私達が愛し合っていることを話さないようにしていたのですよね?」
そうか、ついに、アミィに知られてしまったか。いつかは話さないといけなかったことだけど、こんな形で知られることになるとは思わなかったな。カグラさんは悪くない、今まで言い出せなかった俺の責任だ。
アミィはうつむいて、涙を長椅子に落としながら、涙声で言葉を紡ぐ。
「私はご主人様のことを愛しています。それは間違いありません。でも、それは本当はおかしなことで、ご主人様は優しいので私に気を遣ってくれていて、私がご主人様にご迷惑をおかけしているんじゃないかと思うと、私、胸が苦しくって、それで……」
またやってしまった、俺は自分の保留癖にほとほと呆れてしまう。もっと早くアミィにこのことを言ってあげていたら、少なくとも楽しい旅行中にアミィにこんな無用な心配をさせることはなかったはずだ。
でも、俺の胸のうちはもう決まっている。夏樹ちゃんとの一件で揺らぎはしたけど、昨日温泉の中でふと妙な考えが浮かんだりもしたけど、アミィのこんな姿を見たら、言わないわけにはいかないよな。
「そんなことないよ、アミィ。俺がアミィのことを好きなのは、人間とかアンドロイドとかは全く関係ない、アミィがアミィだから好きなんだ。だから、アミィは何も心配せずに、これからも俺と一緒にいてくれればいいんだよ」
俺はアミィの頭に手を置いて、アミィの反応を待つ。そして、アミィは涙目のまま勢いよく俺の方を向き、俺の胸に顔を埋めた。
「申し訳ありません! ご主人様! 私はご主人様からの愛情を疑ってしまいました! 本当はそんなわけないって解っていたはずなのに! ゴメンなさい! ゴメンなさい! ゴメンなさい!」
大声で泣くアミィを、俺はただ背中に手を回して抱き締めた。そして、俺はアミィにわずかな懺悔の念を込めて語りかけた。
「それは俺だって同じだよ、アミィ。アミィだって俺が夏樹ちゃんと会っていたときも俺のことを疑わずに待っていてくれたじゃないか。だから、これからも少しずつ、お互いを許しあいながら歩いていこうな、アミィ」
「はい……! ありがとうございます、ご主人様……!」
…………
それからしばらくすると、アミィも落ち着いてきたようで、泣き止んで俺の方を申し訳なさそうに見つめてきた。
「本当に申し訳ありません、ご主人様。せっかくのピクニックなのに、こんな話をしてしまって……」
「いや、いつかはこんな日が来るんじゃないかと思っていたんだ。今までハッキリさせなかった俺が悪いんだよ。だから、もうこの話をするのは止めて、残りの時間は二人で楽しい時間を過ごそうよ、アミィ」
俺の言葉に、アミィは少し頬を染めてボーッとしている。そして、アミィは俺に予想外のお願いをしてきた。
「では、ご主人様、急なお願いで申し訳ないのですが……私と、キスをしてくれませんか?」
そのアミィのお願いに、俺は力強くうなずいた。
「もちろん、アミィのお願いなら何でも聞くよ。それじゃあ、こっちにおいで、アミィ」
そして、俺はアミィを自分のすぐ近くまで抱き寄せる。そして、どちらからと言うでもなく、目を閉じて唇を寄せあった。
アミィの吐息が俺の唇にかかる。アミィの唇はもうすぐそこ。しかし、その時だった。
俺の腹から盛大な音が鳴る。おいおい、何もこんなときに鳴らなくてもいいじゃないか。その音に、俺もアミィも目を開けてしまった。
そして、お互いをしばらく見つめ合い、これもどちらからと言うでもなく笑いあった。
「ハッハッハ……ゴメンなアミィ、雰囲気壊しちゃって」
「フフッ……よいのですよ、ご主人様。それではちょっと早いですがお昼にしましょうか」
そして俺達は、カグラさんが持たせてくれた弁当を並んで食べた。弁当の中身は例に漏れず、豪華かつ繊細なものだった。
そして、弁当を食べ終えた俺達は、展望台から遠くの景色を眺めながら、ゆったりとした時を過ごした。
誰もいない、二人だけの時間。俺達は並んで語り合い、笑い合い、そして二人の愛を確かめ合うかのように、肩を寄せ合い、お互いの熱を感じあった。
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