アンドロイドの存在意義
カグラさんの質問に、私は答えることが出来るのだろうか。もちろん、私がご主人様を愛していることは間違いないから、それを伝えればいいだけだということは解っている。
それでも、カグラさんが私の答えに満足してくれるかは解らない。私は、カグラさんにもこの気持ちを解ってほしい、だって、カグラさんにも板長さんと仲良くしてほしいから。
「えっと、『愛し合う』というのはですね、何と言うか、ご主人様とお話ししていると何だか胸の奥が熱くなって、頭がボーッとして、ご主人様のこと以外何も考えられなくなって……」
ダメだ、こんなんじゃカグラさんには解ってもらえない。もっと簡潔に、解りやすく、ハッキリとした答えを出さないと!
「ゴメンなさい、カグラさん、私には上手くこの気持ちを説明することができません。それでも、ひとつ言えるのは、『いつまでもずっと一緒にいたくなる気持ち』を共有することを、『愛し合う』というのだと思います。解ってもらえますか?」
私の言葉を聞いたカグラさんは、目を細めて、満足そうに微笑んだ。よかった、こんな私の下手くそな説明でも解ってくれたんだ!
そう思っていた私の考えは、カグラさんの答えを聞いて間違いだったことを知る。
「ありがとう、アミィちゃん。こんな答えにくい質問に答えてくれて。でも、やっぱり私には今のアミィちゃんの気持ちはちょっと解らないわ、ゴメンなさいね。それでも、私がアミィちゃんにした質問に対する、私が聞きたかった答えとしては、百点満点よ」
「どういう意味ですか? カグラさん」
カグラさんは私の顔を見つめながら、私の質問に答えてくれた。その表情はとても穏やかで、目には薄く涙を浮かべている。
「遠い昔に、生前の奥様にもアミィちゃんにした質問と全く同じ質問をしたの。そして、帰って来た答えは、今アミィちゃんが答えてくれた答えと同じものだったの。だから、百点満点、花丸よ」
そう言って、カグラさんは私をフワリと抱き締めた。お香の香り、ふくよかな胸、カグラさんから感じる熱、全てが心地いい。
「やっぱり私が思った通りだった。アミィちゃん、貴方は特別。少なくとも、私が今まで過ごしてきて、貴方のような考え方をするアンドロイドには会ったことはないわ。とても羨ましい、私もアミィちゃんみたいに旦那様と『愛し合う』ことができたなら、どんなに幸せか」
このままずっと、カグラさんの胸に抱かれていたい。でも、ダメ。私はカグラさんの手を振りほどき、カグラさんに向けて叫んだ。
「だったら! 今、カグラさんが感じている気持ちを板長さんに伝えてあげてください! ちゃんと! 言葉で! それだけでいいんです! カグラさんが板長さんのことをどう思っているかを伝えるだけでいいんですよぉ……」
私はもう、もどかしくて、悲しくて、つい、また泣いてしまった。そこまでカグラさんが板長さんのことを考えているならそれでいいのに!
「泣かないで? アミィちゃん。解った、私、旦那様に今の気持ちを打ち明けてみるわ。自分の言葉で、正直に。それで私達の関係がどうなるかは解らないけど、やってみる。ありがとう、アミィちゃん。これで私、真っ直ぐに旦那様と向かい合うことができそうよ」
カグラさんの言葉が意味するのは、やっぱりカグラさんはこれまでに板長さんに言葉で自分の気持ちを伝えたことがないということだ。
15年、そんなにも長い間、お互いの気持ちを知らずに過ごしてきたなんて、板長さんも、カグラさんも、あまりにも可哀想すぎる。
「はい……そうしてあげてください……大丈夫です、板長さんは絶対にカグラさんのことを受け入れてくれますから……」
カグラさんは、泣いている私をただ見つめながら、静かに正座をしている。そして、私が泣き止んでから、カグラさんはもうひとつ、私に質問をしてきた。
「アミィちゃん、私、この質問をするのはちょっと怖いのだけれど、聞いてくれるかしら」
「はい、大丈夫ですよ、何でしょうか、カグラさん」
この質問で、私は自分が何者なのかを改めて考えることになった。それは、今まで私がご主人様と一緒にいたことそのものに関わることだった。
「アミィちゃん、貴方はなぜ、恭平さんと一緒にいるのかしら」
なぜ? そんなの決まっている。私がご主人様と一緒にいたいからだ。何でカグラさんがそんなことを聞くのか、私には解らない。
「それは! 私はご主人様のことを愛しているから……」
「そう、そこなのよ、私がこの質問をするのが怖かった理由は」
なんだろう、カグラさんの顔が、何だか少し険しくなった。そして、カグラさんは難しい顔のまま、私に不思議そうな視線を向ける。
「私達アンドロイドは、元々は人間の生活の補助をするために作られたの。私の場合は、旦那様と奥様のような労働力を必要とする方々の補助をするために。でも、アミィちゃんはそうじゃない。本来なら、私の質問の答えに、アミィちゃんの場合なら、『ご主人様に遣えて、身の回りの世話をするため』といった類いの答えを返すのが普通なのよ」
「そんな……だって私、ご主人様のことが……」
「もちろん、それが悪いことというわけではないのよ? その気持ちはこれからも大切にしてほしいわ。ただ、やっぱり貴方は他のアンドロイドとは違う、それだけは間違いないわ。余計なお世話だとは解っているけど、やっぱりアミィちゃんの素性が気になってしまって……」
「私……私は……」
そんな、私はそんなにおかしな存在だったなんて。そんなこと考えたこともなかった。
アンドロイドが人間と愛し合うことはそんなにもおかしいことなのだろうか。
それでも、私がご主人様を愛していることは間違いないことだ。私の頭のなかは、ご主人様に対する気持ちと、カグラさんの話がごちゃ混ぜになって、何だか妙な気分になってしまった。
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