一人だけの露天風呂
一旦部屋に戻ってきた俺とアミィは、お互い背を向けて畳の上に座る。まさか、今時混浴の露天風呂があるなんて、想定外もいいところだ。
しかも、アミィが変に意識をするようなことを言うもんだから、ますます顔が赤くなってしまう。
しかし、いつまでもこうしてはいられない。俺はアミィの方に向き直る。
「アミィ、ちょっといいかい?」
俺の問いかけに、アミィは勢いよく俺の方を向いた。その顔は、温泉街で見たときよりも真っ赤で、恥ずかしそうに目を伏せている。
「は、はい! 何でしょうか、ご主人様……」
ここまで来たら他に言うことは無いんだけどな。俺は意を決してアミィに話しかける。
「その、お風呂なんだけどさ! アミィが先に入ってきなよ! 俺は後でいいから! な! アミィ」
そんな俺の言葉に、アミィは少しの間放心して、すぐに慌てながら手を突きだしパタパタと振った。
「いえ! そんな! メイドがご主人様より先にお風呂を戴くなんてとんでもありません! ご主人様こそ先に入って来られてください!」
やっぱり、アミィはまだ自分がメイドであることを捨てきれていないみたいだな。
もちろんそれが悪い訳じゃないけど、俺はもうあまりアミィをメイドとしては見ていないんだけどな。
しかし、このままだと押し問答にしかならないだろうな。俺はアミィの言う通り、先に露天風呂に入りに行くことにした。
「解ったよ。それじゃあ先に入ってくるから、アミィは俺が上がるまで待っていてくれよな!」
そう言って、俺は立ち上がり露天風呂へと向かおうとした。すると、少し声を張ってアミィが俺を呼び止める。
「あの! ご主人様、私、やっぱり……」
俺はアミィの方に振り向いて、アミィの言葉を待つ。しかし、アミィはそのまま顔を伏せ黙ってしまった。
そんなアミィを背に、俺は部屋の襖を開き、廊下へと出ていった。
…………
俺は脱衣場で服を脱ぎ、露天風呂へと入っていった。俺の目の前には、予想を遥かに凌ぐ光景が広がっていた。
露天風呂の広さはそこまで広くないけど、一人で楽しむには十分過ぎる広さだ。
もうもうと湯気が立ち昇る自然のままの石造りの浴槽からは、白濁した温泉がこんこんと湧き出て、周りにお湯が溢れ出ている。
その周りを、竹で組まれた壁が囲い、壁の外からは木々の紅葉が顔を覗かせる。
正直、最初に行こうとしていた旅館の写真の何倍も綺麗だ。俺は、裸のまま目の前の景色に見とれてしまった。
しかし、このまま突っ立っていてもしょうがない、アミィだって待っていることだし、俺は体を流し、湯船へと身を沈めた。
…………
俺は露天風呂の縁に頭を預け、しばらく目の前に広がる風景をただ眺め続ける。
遠くに見える夕日に、散っていく紅葉が照され、その紅葉が温泉の上へとヒラヒラと落ちていく。
文句無しのシチュエーション、それでも、何かが足りない。いや、何が足りないかは本当は解っている。隣に、アミィがいないんだ。
本当は、アミィが俺を引き留めた理由は解っていたんだ。やっぱり、アミィは俺と一緒に温泉に入りたかったんだよな。
でも、俺は気恥ずかしくてつい、アミィを突き放すような言い方をしてしまった。後悔している。俺だって本当はこの景色をアミィと一緒に眺めたかった。
それでも、俺にはその踏ん切りがまだつかないでいた。愛し合う人と一緒に並んで過ごす。それ事態は何もおかしいことはない。
ただ、アミィはあくまでアンドロイド、それもまた変えがたい事実だ。男と女、二人きりの旅行。
俺はアミィを意識しすぎて一線を越えてしまわないかが不安だった。ふと、俺の脳裏に今まで考えないようにしてきたことがよぎってしまう。
『もし、アミィが人間だったら』
ダメだ! 俺はそれを納得した上でアミィを愛すると決めたはずだろう! 俺はそんな考えを振り払うように顔を湯船に沈める。
そして、俺は体を洗い、脱衣場で浴衣に着替え、露天風呂を後にした。
大丈夫、まだ明日がある。明日は思いきってアミィをお風呂に誘おう。
俺は部屋まで戻る間に、さっきまでの考えを振り払うよう、自分に言い聞かせた。
…………
「お待たせ、アミィ。いや~ いいお湯だったよ、景色も最高、何も言うことなしだ! さぁ、アミィも行ってきな!」
俺は自分でも解るほどの空元気で、アミィに話しかける。アミィのことだ、俺の態度の不自然さには気付いているだろう。
「はい! 私も行ってきますね! もしかしたら、景色に夢中になって遅くなってしまうかもしれませんが、出来るだけ早く上がりますからね!」
それでも、アミィはいつも通りの笑顔を俺に向ける。本当は、そんな気分じゃないんだろうけどな。ゴメン、アミィ。
「いや、急がなくてもいいかららゆっくり浸かってきな。あ、でも、お湯に浸かりすぎて、のぼせないようにね」
「大丈夫ですよ! アンドロイドはのぼせない……ということはないですね。熱がこもるとよくないので、あまり長く入らないよう気を付けますね!」
何だ、アンドロイドも本当にのぼせるのか。俺は冗談のつもりで言ったんだけど、このことは頭の中に入れておこう。
それにしても、アミィはどんなことにでも真面目に答えてくれるな。そんなアミィが俺は好きだ。
俺は部屋を出ていくアミィの背を、黙って見送った。
その一瞬、ほんの一瞬。振り向き様のアミィの残念そうな表情に、俺は気付いてしまった。
ここまで読んで頂き有り難うございます!
もし気に入って頂けたら、感想、評価、ブックマーク等宜しくお願い致します!





