板長さんです!
それからも、俺とアミィは温泉街にある観光スポットを楽しんだ。とはいえ、狭い温泉街にはそうたくさんのスポットがある訳じゃなかったんだけど。
まずは疲労回復にいいらしい足湯、アミィにお湯の効能があるとは思えないけど、二人並んで足湯を満喫する。
やっぱり俺達を珍しげに見る視線はあったけど、お湯と俺達二人が触れ合った箇所の暖かさにまどろむ俺達にはどうでもよかった。
次に、今時珍しい射的場。そこは、棚に並んだ景品をコルク銃で落とす、昔ながらの射的場だった。
俺とアミィ、二人で何度か挑戦したけど、取れたのは小さい猫のキーホルダーが二つだけ。それでも、アミィは『お揃いですね!』と言って喜んでくれた。
そんなこんなで、時間はもう17時。温泉街のお店の閉店時間はだいたいこれくらいの時間らしく、行き交う人々も閑散としてきた。
俺達は、道の脇にある長椅子に座って、売店で買ったお茶を飲みながらゆったりと街の様子を眺める。
「さて、それじゃあそろそろ旅館に戻ろうか、アミィ」
「はい! 戻ったらどうしましょうか、ご主人様」
「そうだな、まずは温泉に入るか、それとも夕食が先か……まぁ、夕食にはちょっと早いから、温泉が先かな?」
アミィは俺の『温泉』という言葉に反応して、アミィの顔が赤くなる。顔だけじゃない、耳や浴衣の隙間から見える首筋まで真っ赤っかだ。
「どうした? アミィ、そんなに赤くなって、お茶が熱かったかい?」
「いえ! 何でもありません! 私、ご主人様と一緒に温泉に入りたいなんて全然考えてなんか……ああ!」
アミィは目を真ん丸にしながら、慌てて口を押さえる。アミィの口から飛び出した言葉に、俺まで興奮してしまう。
「申し訳ありません、ご主人様! 今、私が言ったことは忘れてください! 私、なんてことを言ってしまったのでしょう……」
頬に手を当てながら恥ずかしがるアミィは、とても可愛らしかった。しかし、今時の旅館は男女別々の浴場が普通だ、二人一緒に入ることは出来ないだろう。
「と、取り敢えず旅館まで戻ってから考えよう! もしかしたら、早めに食事の準備ができているかもしれないしさ!」
「は、はい! そうですね! 戻りましょう戻りましょう!」
アミィのせいで、何だか妙な考えが頭に浮かんでしまったな。俺達は、顔を合わせることができないまま、早足で旅館へと戻った。
…………
俺は旅館の引き戸を開け、玄関へと入っていく。すると、目の前に食材が入った大きなかごを持った、ものすごくガタイのいい割烹着の男の人がいた。
その男の人は、口を一文字に結んで、表情が解りにくい糸目で俺達の方を黙ってジッと見る。
「……」
「あの、こんにちは。俺達、この旅館に泊まらせてもらっている……」
男の人から放たれる近づきがたいオーラに、俺もアミィも萎縮してしまう。そんな俺達を見て、男の人は無表情のまま、フイッと顔を背け、旅館の奥まで入っていってしまった。
「今の人が、カグラさんが言っていた板長さんかな……」
「何だか、ちょっと怖そうな人でしたね……」
玄関で俺達が立ちすくんでいると、そこへカグラさんがやって来た。その様子は何だか慌てているようで、少し着物が着崩れていた。
「あぁ、お帰りなさいませ、響さん、アミィちゃん」
「ただいま戻りました。そんなに慌ててどうしたんですか? カグラさん」
「いえ、特にどうと言うことはありません。ところで響さん、もしかして、今うちの板長と会いませんでしたか?」
カグラさんは少し憂いをたたえた表情で俺に聞いてきた。ここで嘘をついてもしょうがない、俺は正直にカグラさんの質問に答える。
「はい、ちょうど俺達が戻ってきたときに鉢合わせになりましたけど、それがどうかしましたか?」
カグラさんは更に表情を暗くしながら申し訳なさそうに目を伏せる。
「そうですか、もしかしたらとは思いましたが、少しタイミングがよくなかったですね。響さん、アミィちゃん、気を悪くされないでくださいね? うちの板長は少し変わっておりまして……」
「いえ、俺達、全然気を悪くなんてしていませんから、心配しないでください。な、アミィ」
「はい、ちょっとびっくりしましたけど、気を悪くするだなんて、そんな……」
俺達の答えに、カグラさんの表情が出会ったときのものに戻った。そして、カグラは顔に笑みを浮かべながら俺達に尋ねる。
「それならよかったです。それでは、これからお二人はどうなされますか? お食事まではまだ少しお時間がございますが」
「そうですね、それじゃあ、食事の前に温泉にでも入ります」
「それはよろしゅうございます。それでは、お二人を当旅館自慢の露天風呂へとご案内しますので、私の後を付いてきてくださいませ」
そう言って、カグラさんはゆっくりと歩き出した。俺とアミィは、その後ろをカグラさんの歩調に合わせて付いていった。
…………
「ここが、当旅館が誇る100パーセント天然の露天風呂で御座います」
俺達の前に、露天風呂へと続くのれんが掛かったひのき作りの入り口が現れた。入り口は一つだけ、俺達を誘うようにポッカリと空いていた。
この光景に、俺の頭のなかには一つの考えが浮かんだ。もしかして、いや、まさか、そうなのか?
「あの、カグラさん、もしかして、この温泉って……」
「どうされたのですか? ご主人様、顔が真っ赤ですよ?」
俺の顔をうかがうカグラさんの顔に、次第に笑みが浮かび始めた。
「あぁ、そういうことでございますか。大変失礼致しました、ご説明が済んだものだと勘違いしておりました。響さんがお考えの通り、当旅館の露天風呂は……」
そして、カグラさんの口から俺が予想し、懸念していた言葉が発せられる。その顔には、何だか少しイタズラっぽい笑顔を浮かべていた。
「混浴、でございます」
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