人工精霊
投稿遅れました(^^;
ジャハト村の南門……ジャハト村の南門は、村から南方にあるチツバ街へと続く街道にその門を開けている。
このジャハト村には基本的に北側の大樹海へと続く北門と南門しかない。
その他は、5m程の木の柵で村の住居は囲まれていた。
田畑は、柵の外である。
今、その南門には、樹海への道の整備に借り出されていない老人や女子供が集まっていた。
どうやらみんな北側のキャンプや北門付近の宿舎が攻撃を受けている為、
南門からチツバ街に避難しようと集まっているようだ。
南北の門の前は、緊急事態の際に集まれるように開けた広場となっていて、南門の前にジャハト村の住人達が集まっていた。
しかし、集まったいた村人達は、南門を出て、チツバ街へ移動しようとしていなかった。
儂はそんな村人達を訝しみ、近場に居た村人の女性に訪ねた。
「どうしたんじゃ?
何故、チツバ街に非難しないんじゃ?」
「え?あ!ソウウン先生。
何でも、南門から出た少し先の街道に帝国の『巨人騎士(Giant Knight)』がいるらしいんです……」
「何!『巨人騎士(Giant Knight)』じゃと!」
「はい……それで……チツバ街に逃げようとした何人かが既に攻撃されて亡くなったとか……
私達は、何処に逃げればいいか解らず、皆困っているところです……」
「うぅーむ……帝国兵は儂らを一人も逃がす気は無いと言うことか……
ヤツらも『巨人騎士(Giant Knight)』の回収に手間取っていれば、チツバ街からの追撃が来てしまうからのう……」
「そ、そうなんですか?」
「じゃが、抵抗しなければ、無抵抗の者を襲うような事は無いじゃろう。
お主達は、下手に抵抗せぬようにな」
「は、はい……」
「所で、村長は無事かの?」
「は、はい。
南門近くに、生き残っている兵隊さん達と話をしているはずです」
「そうか、すまんの」
儂は、それを聞くと、一旦その場をルナを連れて離れた。
儂らは手頃な石造りの民家へと入る。
その民家には既に人影は無い。
恐らく、広場に集まっているのだろう。
念の為、民家に入る前に感覚強化魔法【インダクション】で気配を探ったので間違いない。
儂は、適当な小部屋に入るとその窓から南門前の広場が確認出来る事を確認した後、地属性掘削魔法【ディギング】で人が入れる深さ1m程の円筒状の穴を掘る。
そして物質強固魔法【ハードニング】で周囲を固め、掘削した土で頑丈な蓋を作った。
中から持ち上げる事が出来るように取っ手も二箇所付ける。
その作業を怪訝な顔で見ていたルナが不安そうに声を掛けてきた。
「……あ、あの……ソウウン先生、何をされているんですか?
村の皆さんと合流するんじゃないんですか?」
儂は、作業をしながらルナに答える。
「その予定じゃったが……状況が変わってしもうた。
チツバ街への街道が封鎖されているようじゃからな。
チツバ街へ逃げる事は最早できんじゃろう。
そして、民間人しかいない今の状況では皆、投降するしかなかろう。
じゃが、そうなるとお主は帝国に引き渡されるじゃろうな……」
ルナは驚いた表情になって、両手を口に当てる。
儂は話を続ける。
「だから……じゃな、お前さんはここに隠れて、帝国軍をやり過ごすのじゃ」
儂は、今掘った穴を指差した。
ルナは怪訝そうにこちらを見つめる。
「……ソウウン先生……何故私はオーランド帝国に狙われているんでしょうか?
やっぱり、樹海に落ちた『巨人騎士(Giant Knight)』に関係があるんでしょうか?」
儂は、ルナの目を見つめ返し……
諦めたように深く溜息を一息ついた。
「そうじゃな……
お主はまだ過去の事はなにも思いだせんか?」
「……はい、思い出そうとすると、頭痛が起きるんです」
「そうか、では儂が知っている事を話しておこうかの。
これからどうなるか解らぬしな……
まず、これから話す事を心して聞くのじゃ」
ルナは黙って頷きで答える。
「儂の見立てでは、お主は……アルカナ・ナイト『ザ・タワー』の人工精霊で間違いなかろう。
樹海に落ちた『巨人騎士(Giant Knight)』は紋章から考えて『ザ・タワー』で確定じゃろうからの」
その言葉にルナの両目が見開かれる。
「お主が人工精霊である事を確信したのは、お主の胸の中央にある”円形の黄色い石”じゃ。
儂は故あって、以前それと同じものを見たことがる。
その石を付けていたものはその石を『絆石』と言っておった。
アルカナ・ナイトの人工精霊にのみ付いているそうじゃよ」
ルナは両手を祈るように組んで、胸の中央を抑えた。
「……そ……それじゃ、私……人間じゃないんですか?」
「厳密に言えば人ではないのじゃろう……
じゃがな、この世界には人や亜人、魔物など様々なものがおる。
例え、人工的に作られた人であっても其処に意思や理性や知性があれば”人”たりえると儂は思っておる。
体の創りが多少違っていてもな。
もっとも、人の形をしていても、とても理性や知性が有るとは思えないやからもおるのじゃ。
儂には、よほどお主の方が”人”に見えるがのぅ。
それも飛び切りの美人じゃしの」
儂はそう言うと「カッカッカ」を笑った。
ルナは儂の笑いに何処と無く安堵の顔になる。
「……ソウウン先生……お気遣いありがとうございます。
後……その『アルカナ・ナイト』って何ですか?
『巨人騎士(Giant Knight)』とは違うんですか?」
「これも、その人工精霊とその主から聞いた話なのじゃがな。
『アルカナ・ナイト』とは古代文明の全盛期に開発された『巨人騎士(Giant Knight)』と言っておった。
最初の『巨人騎士(Giant Knight)』が『アルカナ・ナイト』で、
通常の『巨人騎士(Giant Knight)』は量産型の劣化版との話じゃ。
通常の『巨人騎士(Giant Knight)』は汎用性には富んでいるが、その能力は基本となった『アルカナ・ナイト』には遠く及ばないとの話じゃ。
そして『アルカナ・ナイト』は22体存在し、それぞれ特殊能力が付随しているらいのぅ。
因みに、そやつが使っていたのは『ザ・フール』と言う『アルカナ・ナイト』じゃったな……
詳しい能力などは教えてくれなんだがな」
「そうなんですか……」
「じゃからな……そんな特別な機体をオーランド帝国もみすみす見逃すはずが無いのじゃ。
たとえその奪取に多大な犠牲が出てもな……
そして、アルカナ・ナイトには人工精霊が不可欠なのじゃよ。
通常の『巨人騎士(Giant Knight)』の人工精霊は『巨人騎士(Giant Knight)』と一体化しており、場合によっては他の機体からの移設が可能と聞くが、アルカナ・ナイトの人工精霊はその機体にしか符合しない特別な存在じゃ、自分の意思も持っておるしのぅ」
「で、でも私……アルカナ・ナイトの人工精霊だと言われても何もできません」
「今はじゃろ?
記憶を取り戻せば……いや、おそらく覚醒すれば自ずと自分の存在がわかるじゃろう……
じゃが、今は戦うすべを持たない一般人じゃ。
帝国にしても共和国にしても、人工精霊の存在は『巨人騎士(Giant Knight)』のパーツとしてしか思っておらんじゃろうからお主が人工精霊と解れば是が非でも回収しようとするじゃろう。
無論、人間扱いするとは到底思えないのじゃがな。
儂としては、本当は『巨人騎士(Giant Knight)』が共和国軍に回収されて、機体の調査している間に、お主を逃がすつもりじゃったが……帝国の行動の方が早かったようじゃ。
こうなってしまっては、今は隠れて、逃げる機会を待つ他、無さそうじゃ」
「せ……先生やハヤトさんはどうするんですか?」
「ハヤトのヤツはこれから儂が助け出してくるから心配無用じゃ。
助けだしたら、ここに戻ってこよう。
そしてその後は……あヤツは、お主に付けるとしようかの?
あヤツにはこのシルヴァ共和国以外の世の中を見て回る良い機会じゃろう。
以前から、諸国を見て回りたいと言っておったしのぅ」
そう言った後、儂は自分の鞄の中から幾つかの魔法石をルナ渡す。
この魔法石はハヤトのガンソード用の魔弾に加工する為に持っていたものだが、
このままでも魔法名と発動命令があれば魔法が発動可能なものだ。
円錐形の弾丸の形をしており、付与されている魔法名が横に刻まれた、長さ4cm、径は1cm程度の物が6個だ。
爆発系、強化系、麻痺系がそれぞれ二個づつあった。
その魔法石の使用方法を(術名を言った後、発動指令『オーダー』と叫ぶ)教える。
そして、儂は、避難用に作った穴から決して出てこないようにルナ言った後、民家を出て行こうとし、ふとルナに振り返った。
「そうそう、言い忘れておったが、
もし、万が一、儂やハヤトが帰ってこなくとも、
そこから出てくるでないぞ。
お主がアルカナ・ナイトと共に帝国に渡れば、要らぬ戦乱が起こる事は確実じゃ。
お主の存在はそれだけ危険だという事を忘れないでほしい……
必ず逃げ延びるのじゃぞ。
では、またな」
その言葉を聞いたルナは不安そうに儂の預けた魔法石を両手で握り締めた。
「先生!お気をつけて!必ず帰ってきてください!」
儂はその声に振り返らず片手を上げて応えて、民家を出て行った。
◇◇◇◇◇
儂は、民家を出た後、一路、南門の村長らが集まっている所に向かった。
このジャハト村の村長、『ギーベック・アラウンド』は、数人の男達とこれからの行動について話合っているようだった。
ギーベックは茶色の髪に白髪がかなり混ざってきた60前後の中肉中背の男だ。
儂が近づくと、村長が儂に気がつき、声を掛けてきた。
「ソウウン先生!ご無事だったんですね?!
心配しました」
そして、儂が一人なのに気がつき、怪訝な顔をする。
「先生……ハヤト君とあの少女……ルナでしたか、二人はどうしたんです」
「……ハヤトは帝国兵に掴まったようじゃ。
ルナの方は行方がわからん。
騒動のあったとき、あの娘は外出していたのでな、無事ならここに来るじゃろう」
儂はしれっと、ルナの事を誤魔化した。
村長がルナが人工精霊で
帝国軍に狙われていると解れば、住民の事を考えて、引き渡しかねないと考えたからだ。
「そ、それは……大丈夫なんですか?」
「まぁ……そこで、儂がこれから救出に向かおうと思っておる」
村長と相談をしていた男達が驚愕の顔をする。
「ソ……ソウウン先生!幾らなんでもそれは無茶すぎるんじゃないですか?!」
「お主も儂の事は知っておろう?
これでも一時期は武術教官としても、兵士の指南役を勤めた事もある。
そんじょそこらの兵では儂の相手にはならんよ」
儂はそういうと「カッカッカ」と笑った。
村長達の顔は何処か引きつっていたようだったが……
そして、儂は笑い終わると真剣な顔で村長を見て、忠告する。
「で……儂等の事は、儂等で何とかするから心配無用なのじゃが……
おぬし等は大人しくしておるのじゃぞ?!
もう、既に南の街道は封鎖されておるようじゃからな。
こんな大半が老人や女子供ばかりなのじゃ、下手な抵抗はせぬことじゃぞ。
下手をすると村民が全滅することになる。
ここで、敵の出方を待つ方が今のところ賢明じゃろう……
儂は、ハヤトとルナを見つけたら、何処かに隠れるとする。
儂等は見ていない事にしておいてくれると助かるのぅ」
儂は鋭い目で少し威嚇しながら忠告する。
村長は少し怖気好きながらも了承した。
「わ……解りました」
儂は、それだけ言うと踵を返し、街中へと足早に進んで行く。
それを村長等は呆然と見送るのだった。
◇◇◇◇◇
儂は、村長に忠告した後、感覚強化魔法【インダクション】を最大発動し、ハヤトの所在を探す。
儂がこの魔法を最大に発動すれば、その探索範囲はこの村の中を超えて柵の外まで感知出来た。
それにより大体の人の分布が解る。
見知らぬ気配は帝国兵のものだろう、気配を消そうとしているものもかなり要るが、儂にとってはそれこそが周りとの気配との違和感を生んで、敵兵を特定出来た。
敵はこちらの兵の殲滅を粗完了して、村の中央に集結すようとしているようだった。
ハヤトの気配も気薄だが感じられ、何人かの敵兵と共に村の中央に向かっているようだった。
恐らく、ハヤトは何らかの結界に捕らわれていて、気配が気薄にしか感じられなのだろう。
だが、この間々敵の本隊に合流されるのは流石にまずい。
本隊に合流する前に助け出す必要があった。
儂は舌打ちして、【縮地】を連続で発動し、ハヤトの気配を追って移動するのだった。
『ハヤトめ、しょうがないヤツじゃ。
助け出したら説教せんといかんの』
儂は一人ごちて救出に向かうのだった。
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