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暗躍

今年初投稿です。

 ルナが石動家に来て一週間……

ジャハト村の人口は『巨人騎士(Giant Knight)』の回収の為、

一時的に倍増し、200人前後まで増えていた。

それは、『巨人騎士(Giant Knight)』までの道のりを確保する為の工兵部隊と、護衛役の騎士団2個小隊が駐留して居る為だ。

もちろん、村の兵宿舎だけでは足りず、門外にテントを張り、兵たちはこの村に滞在していた。

村の村民も一時的に開拓事業を中止し、樹海内への輸送用の道作りに借り出されていた。


そして、今日、村の大通りを『巨大な浮き板』……『フローティング・ボード』を20頭の黒く大きな鳥、通称『ラウンドバード』がそれを引いて通過していた。


イスルギ・ハヤトは、初めて見る『フローティング・ボード』を見て感嘆の声を上げた。

『フローティング・ボード』とは、幅8m長さ20m厚さ30cmの鉄板に浮遊魔法【レビテーション】が付加された輸送用の巨大な鉄板だ。

浮遊魔法【レビテーション】により、地面から30cm程浮いていて、乗せている物体の重さを殆ど感じる事は無いそうだ。

通常これを引くのは馬なのだが、今回は『ラウンドバード』という騎乗用の鳥を使っている。

コスト的に『ラウンドバード』の方が安いので、こちらを使用しているのだろう。


「……これが、『巨人騎士(Giant Knight)』を輸送する浮き板か……」


俺の呟きに隣にいた祖父イスルギ・ソウウンが答える。


「そうじゃ、『巨人騎士(Giant Knight)』を輸送出来る飛空艇は今の共和国内に5隻しかないのじゃからな。

首都と帝国国境の砦に配備するので精一杯じゃ。

当然、他の輸送方法で取れるのは、大型輸送用である『フローティング・ボード』ぐらいしか出せないじゃろうな。

だが、こいつを使うにしても、今、『巨人騎士(Giant Night)』がある場所は、ここから10km入った樹海の中……このフローティング・ボーッドが通れる道を整備するのに最低でも一ヶ月はかかりそうじゃな」


「ああ、そのせいで、ここの村人も道の整備に駆り出されているからな。

良い迷惑だ。

でも、何時までも『巨人騎士(Giant Knight)』がここにあると、

帝国が何時、取り返しにくるか解らない。

とっとと、持って行ってもらいたい所ではあるよな……」


「そうじゃな……だが、生半可な部隊では輸送の事もあるし、奪還は不可能じゃ。

だからといって、大部隊を寄越すにしてもこの辺境は帝国からも離れておる。

そうそう大部隊は回せんじゃろう。

まあ、部隊を送るよりも前にチツバ街の砦に運ばれては、尚の事、手はだせんじゃろうな。

……一番危険な時期はチツバ街への輸送される前のこの一ヶ月間じゃろう。

ハヤト、この期間、見知らぬ者が大勢行きかうじゃろうが、帝国の間者や尖兵が混じっているかもしれん、ルナにも接触してくる可能性がある……儂も気を付けるがお前もそれとなく怪しい者が居ないか気を配るのじゃぞ?」


「……ああ、肝に銘じとくよ」


そんな事を言っている俺達や村人の更に遠く……

建物の物陰から、フローティング・ボードとその他、輸送部隊を注意深く観察する黒い影がいた。

黒い影は、輸送部隊の規模や人員を事細かに確認すると、掻き消える用に樹海の中に消えて行った。


◇◇◇◇◇


村から離れた薄暗い樹海の一角に黒ずくめの一団……30名程が隊を成していた。

そこに先ほどジャハド村にいた黒い影が合流する。

黒い影は集団のリーダーと思しき男の前で、一人の黒衣の男へと変化していた。

リーダーと思わしき男が言葉を発する。


「相変わらず、見事な闇魔法だな……、で首尾はどうだ?」


黒衣の男が使用していたのは、闇魔法の認識阻害魔法【インビジブル】だ。

この魔法は人に認識されずらくなる魔法だが、

この黒衣の男の魔法は実際に目の前に術師が居たとしても、居ないものとして認識させてしまうほどの精度だった。


「はっ……輸送部隊の総数は80名、内20名は地魔法が得意な魔道師でした。

元からいる部隊合わせて兵力は110名程度かと……」


「ふむ……少し厄介になってきたな……

飛空船と『巨人騎士(Giant Knight)』の到着は明日以降……

向うの部隊が揃う前に仕掛けたかったが……輸送手段が確立していない中、

攻めてもあの『巨人騎士(Giant Knight)』の回収は出来んからな……

歯痒いものだ」


「ですが、我々『シャドウ・ウィップ』ならば、一般兵の100や200などどうと言うこともありません」


そうこの特殊先攻部隊『シャドウ・ウィップ』は、隊員全員が魔法剣士で構成され、特に闇魔法に長けた潜入工作部隊だった。

敵陣への奇襲に掛けては大陸随一と言われる部隊だ。


「そうかも知れんが、念には念をいれないとな……

兎も角、飛空船がくるまで、今日を含めて後、三日、奇襲の準備をするぞ。

目標は、敵宿舎と『巨人騎士(Giant Knight)』、それと人工精霊アーティフィシャル・スプリットだ。

人工精霊アーティフィシャル・スプリットはまだ覚醒前だが、油断はするなよ?!

この奪取には人員は避けない。

副隊長と他一名の2名で行ってもらう。いいな?」


これに副隊長と思わしき男が「了解しました」と答えた。

その後、隊長は全員を見回し、今後の行動予定を話すのだった。


◇◇◇◇◇


 輸送部隊がジャハト村に来て、3日……

村には更に輜重部隊が追加で到着していた。

100名以上の兵士の食料などとその他物資を運んできたのだ。

さすがにジャハト村にある食料だけでは追加の兵の分までは補えない。

村は、今や戦時下の軍の駐屯地のような状態だった。

そんな中、イスルギ・ハヤトはルナと連れ立って、買出しに出ていた。

ルナが武装した兵士が通る度に硬くなり、俺の袖を掴む手に力を込めていた。

今のルナは灰色のローブのフードを目深に被って、うつ伏せ気味に歩いていた。

ルナの金髪はここいら辺では少ないので、多少目立つ。

まったく居ないわけではないが、居たとしてもそれはエルフの場合が多く、

やはり目を引いてしまう。

その為、ルナは外出時には大きめの帽子やフードを被って髪を隠す事にしていた。

少しでも目立ちたくないという思いから……


「ルナ、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。

誰もルナの事を気にしてないさ」


「でも……ハヤトさん……こんなに急に兵隊さんが増えて、何だか怖いんです……」


「大丈夫、イザとなったら俺が追払ってやるよ。

これでも、日頃からじっちゃんに鍛えられてるからな。

そんじょそこらの兵士じゃ俺の相手にはならないさ」


実際、俺は格闘も魔術もかなりなものだ。

駐在兵の中で、俺とまともにやりあえるのはハーフエルフの副隊長のハーガスぐらいしか居なかった。

まあ、祖父の早雲は別格としての話だが……



そんな事をルナと話ながら歩いていると、誰かに視られてような気配を感じた。

俺は、祖父にも言われていたので外出時には必ず、感覚強化魔法【インダクション】を発動するようにしていた。

通常【インダクション】は気配を察知するものだが、石動流の【インダクション】は更に感情も多少読み取れた。


『?なんだ?この気配……殺気……ではないが……悪意を感じる』


俺は、振り返らずに後方に悪意を持った気配を感じていたが、あえて気づかないふりをして、相手を確認するタイミングを計った。


買出しを終え、治療院への帰り道でも気配は消えない。

仕掛けてくる様子は今の所無いが、どうにもきみが悪い。

俺は、治療院に戻ると、祖父にルナを任せ、気配の相手を確かめる事にした。


「ハヤトよ。

気を付けるんじゃぞ。

相手は恐らく帝国の手の者じゃ」


「ああ、無理はしないよ。

捕らえられないようなら深追いはしない」


俺はそういうと石動流の魔力操作で、自身の魔力と気配を最小にして治療院の裏口を出るのだった。


裏口から出た俺は、監視者と思われる男の背後に回りこむ。

男は治療院の様子を覗っていて、背後の俺にはまだ気づいていないようだった。

俺は監視者の男を注視した。

着ている服装は村人風だが、立ち回りも隙が無く、確実に一般人ではない事が遠目にも見て取れた。

予想通り、帝国の間者だと思われる。

ルナについも何か知っているかも知れない。

ここは、上手く捕らえて情報を引き出したいとところだと俺は思った。

そして俺は気配を消しながら男の背後に忍びより、後一息で手が届くと言うところで、殺気を感じ、その場から飛びのいた。

俺が飛びのくと俺の居た場所に黒いダガーが地面に突き刺さった。

その音に、監視していた男が振り向く。

監視していた男と俺に向けて声が掛けられた。


「ファンよ、迂闊だぞ……」


その声と共に壁の影から一人の黒装束が浮かび上がってきていた。


「少年よ……大人しくして貰おう、お前には人質になってもらう……」


俺はその黒装束を睨みつける。

明らかに、先の村人風の間者より実力は数段上。

しかも、俺の感知にも引っかからないほどの闇魔法の使い手だ。

一対一での格闘戦なら負ける気はし無いが、二対一なら明らかに不利。

俺は、そう判断すると、男達から反対の路地に向けて駆け出した……


……しかし、急に周りが暗闇に包まる。

足元を見ると、紫に怪しく光る魔方陣があった。

俺は罠に嵌った事を悟った。

まんまと路地に仕掛けられた魔方陣の罠に誘い込まれたのだ。


「くっ!こんな場所に結界魔法だと!」


俺は、黒い球体に閉じ込められた。

うっすらと外の様子が見てとれる。

黒装束がゆっくりと俺に近づく。


「くっくっく……まんまと我の罠に嵌ったな」


「くそ!ここから出しやがれ!」


俺は黒い壁を叩くが、俺の拳は柔らかい弾力で弾き返されるばかりだった。


「お前は、そこで黙って、この村が蹂躙されるのを見ているんだな……

これから、面白いショーが始まる……殲滅戦がな」


黒装束がそう言うと村の外の輜重兵のキャンプの方から

「ドドーン!!」

という轟音と爆風が吹き荒れた。

オーランド帝国の『巨人騎士(Giant Knight)』奪還作戦が始まったのだ……


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