石動家
年末で忙しく、投稿が少し遅れました。
ルナが目を覚ました翌日、駐在部隊の副隊長が早速、聞き取り調査に、
治療院に来たが、ルナには治療院で目覚める前の記憶が無く、
オーランド帝国やシルヴァ共和国での一般的な常識も知らない事が判明した。
しかし、読み書きや計算などは普通に出来、生活する分には問題無い事もわかった。
駐在部隊としては、『巨人騎士(Giant Knight)』と同じように、首都の軍本部への移送を主張したが、祖父が明確にオーランド帝国の軍部との関係が解らないのに捕虜扱いをするのは、共和国精神からも反するとして、ルナを軍部へ受け渡す事を拒否した。
因みに、『共和国精神』とは、『種族差別を行わず、理由無き拘束
しない事』だ。
ルナの拘束は理由無き拘束に当たると祖父は言ったのだ。
この共和国精神は、シルヴァ共和国発足時の初代大統領が掲げた精神で、異種族を纏め上げる為に説いたものだ。
その当時、平然と異種族を捕らえては隷属化していたので、
それを廃止する為のプロパガンダであったが、その精神は其のまま、国の第一条に掲げられたのだ。
副隊長自身も一般人にしか見えない少女を拘束するのは気が下引けたらしく、今後、オーランド帝国との関連性が明らかになった場合にのみ、身柄を拘束する事にし、後見人を軍医でもある祖父が請け負う事で、軍医預かりとして報告するに留めたのだった。
俺は予想していたとはいえ、ルナが軍に拘束されずにすんでホッとしていた。
そして、取調べの翌日から、ルナは治療院の看護士見習いとして、治療院で働く事となったのだった。
部屋事態は、以前いた看護士の部屋があったので其処を使う事になった。
取調べのあった翌日の朝、ルナが俺と祖父に挨拶した。
服などは俺の母……石動瑞穂の物があったので、
そこから適当に使って貰っている。
因みに今朝は簡素な白いワンピースだ。
胸の下辺りで服を絞る紐が付いているものだ。
「ソウウン先生、ハヤトさん、ご配慮ありがとうございます。
解らない事ばかりですが、一生懸命頑張ります!
よろしくお願いします」
「気にせんでもよい。
家も丁度、人手が欲しかったところじゃ」
「そうそう、薬草取りや薬品作り、それに助手までやらされてこっちは大変だったんだ。
これで少しは楽になるよ」
「何を言っとる!そんなもの修行の一環じゃ」
「む……それにしては魔術医以外の事も結構やらされたぞ!
治療院の修繕や草むしりや、魔物の討伐なんかも……」
「家計を助けるのは男子足るもの当たり前じゃ!」
我が家である治療院は祖父の道楽的な部分が強い。
開拓村というのは、他の職であぶれたものが多く参加している。
貧しい者が多いのだ。
それに僻地の環境は厳しいし、開拓は重労働だ。
当然、病気や怪我をするものが多く出てくるが、治療費を払えないものもかなり多い。
祖父はそんな人々をほぼ無償で、治療していた。
当然、祖父の軍医としての給金では薬品代には足りなく、かといって勝手に軍で支給されている薬を使うわけにもいかない。
そこで、俺が自作したり、作れないものは魔物の討伐料金などで薬を買い足していたりしていたのだ。
まあ、俺もそれに文句をつけるつもりは無いのだが、それにしては、手伝っている俺へのありがたみが感じられないでいた。
俺と祖父がムムム……
と睨みあっているとルナが「フフフ」と微笑んだ。
「お二人共、仲が宜しいんですね」
俺達はバツが悪くなってお互いそっぽを向くのだった。
◇◇◇◇◇
飛空艇の墜落事故があってから3日目、
チツバ街の『ディスティ砦』から『封魔部隊』の10名が先行して派兵されて来ていた。
『封魔部隊』とは危険な魔道具を魔封じの術で、封印する部隊である。
主に迷宮などで出土した呪いの魔道具などを封じて、保管するのが仕事であるが、今回は、オーランド帝国の『巨人騎士(Giant Knight)』が勝手に起動しないよう封印を施す為、輸送部隊に先行してこのジャハト村に訪れていた。
人手不足の為、俺も護衛として借り出され、封印の様子を遠めに確認した。
封印は、封印柱と呼ばれる黒い金属の柱を対象物を中心に六ヶ所(六芒星)の配置に設置し、呪術を施す事で、対象物の活動を無効化させるのだ。
封印は程なく完成し、隊員の一名と、警備として駐在兵からも六名が監視として墜落現場にキャンプを張って見張りを行うとの事だった。
俺が治療院に戻ると、ルナが出迎えてくれた。
「お帰りなさい。ハヤトさん」
俺はルナの姿を見て驚く。
ルナは真っ白い半そでの白衣、所謂ナース服を着ていたのだ。
頭にはやはり白のナースチャップ、ナースチャップと左胸には救急医療のマークの赤の十字のエンブレムが縫い付けられていた。
長い髪は邪魔にならないように纏めて一本の三つ網に編んでいた。
ちなみに足には白タイツを履いていた。
「……ルナの背丈に合うナース服なんてあったんだ……」
俺が少し呆けた感じでルナをスゲシゲと見ていると、ルナは少し頬を赤く染めて俯いて、上目使いな感じで見返してきた。
「……あの、あの……ソウウン先生がこの服を着ろって……
あの……似合ってませんか?」
俺はその言葉でハッとして、両手を振って否定した。
「いや、いやいや!
そんな事ないよ!似合ってる!」
その言葉を聞いてルナはホッと息をつく。
「……よかったです。
実は、私もこの服、結構可愛いなって思ってたんです」
そんな事を良いながらルナは少しモジモジした。
その姿はかなり可愛らしいものだった。
其処に祖父が待合所まで出てきた。
「おう、ハヤト帰ったか?!
どうじゃ、その服はその娘に似合っておるじゃろう?
儂の娘……お前の母、『石動瑞穂』がまだ小さい時に使っていたものじゃ」
「……母さんが……」
「ああ、そうじゃ。
もしかしたら、使う事も有るかもしれんと取っておいたんじゃ」
それを聞いてルナが畏まる。
「そんな、ハヤトさんのお母様の思い出の品を私が使って良いのでしょうか?」
「かまわん、かまわん。
タンスの肥やしにするより誰かに使ってもらった方が、ミズホも喜ぶじゃろう」
ルナは少し逡巡したが、決意したように頷くと、宣言した。
「……わかりました!
私、ハヤトさんのお母様に恥じないようにお仕事がんばります!」
◇◇◇◇◇
ルナが治療院に看護士として手伝いを始めるて、三日もすると普段は其処まで繁盛していないはずの治療院は人で賑わっていた。
幾ら無料で治療してくれる治療院とはいえ、村人達は、少しの怪我ぐらいで診てもらうのは、遠慮していたのだが、どうもルナ見たさに男どもがちょっとした怪我でも治療院に来るようになっていた。
この村は、男女比率が男性の方がかなり高い。
適齢期の女性は既婚者ばかりで、若い男はあぶれている。
それは、開拓村という観点から、自分の土地を得ようと、家督が継げない次男、三男や、既婚者で借地で無い土地を得ようとくる家族が多い為だ。
それに僻地なので、女性の人気が悪い。
子供は結構多いのだが、この村は若い夫婦が多いので、皆子供は、10歳未満だ。
兵士や独身の開拓民は若い女性に餓えているのだ。
そこに適齢期には少し届かないが、若い女性が、それも美少女が来たとなれば、少しでもお近づきになりたいと思うのが男心だろう。
俺もそれは解る……
解るが、たかが擦り傷程度で、治療院に来るのはどうかと思う。
今も、一人の俺と同年齢の村人が祖父に怒鳴られ追い返されていた。
「ばっかもん!
この程度の擦り傷、唾でも付けとけば治るわい!」
そう怒鳴られたで診察室から追い出されていった。
俺は、薬草を採って帰ったところの待合室でその光景を見てため息をついた。
「……はぁ……今日もわけのわからない患者が多いな……」
そんな俺の独り言に合いの手をいれるヤツがいた。
「ほんと!そうそう!ちゃんとした怪我じゃないと治療を受けにきちゃだけだよな!」
俺はそう言った、隣のヤツをジト目で睨む。
「そう言うお前は、どうしたんだ?
怪我をしている風には見えないが?」
そう言って、駐在兵の『佐々木亮次』に問いかけた。
「俺は、も・ち・ろ・ん。
ルナちゃんを昼食のお誘いに……」
「か・え・れ!」
「そんな事言うなよ、ハヤト!
俺とお前の仲じゃないか」
リョウジは馴れ馴れしく俺の肩に手を回して来たが、
俺はその手を振り払う。
「見て解らないのか?
今、治療院は忙しいんだよ!
外食してる暇なんかないぞ?」
「そこを何とか!」
「何ともならないな!」
そう言って、俺はそっぽを向く。
そんな俺達のやり取りに気付き、ルナが笑顔で入口にいる俺に駆け寄って来た。
「お帰りなさい!ハヤトさん!
薬草は取れましたか?」
俺は、持っていた袋を掲げ答えた。
「ああ、そこそこ取れたよ。
それより、もう昼だ、じっちゃんも休憩に入るだろ?
食事にしようぜ」
「でも、まだ患者さんが……」
ルナはそう言って待合所の自称患者の面々を見る。
見られた男共は、笑顔でルナに手を振ったりしていた。
俺はその男どもに少しイラッとくる。
「……ああ、それなら今、済ますよ」
俺はそう言って俺は深呼吸を一つついて、体内の魔力を活性化させた。
両手を合わせた状態で手のひらに魔力を溜めて、待合室の男共に向けて両手を翳して、言葉を発する。
「我の魔力を用い我が同胞に癒しの光を与えん!レンジ・ヒール!」
俺は、範囲回復魔法【レンジ・ヒール】を発動させた。
光が待合室内に溢れかえる。
光が収まると、待合室の男共はあっけにとられているようだった。
ぽつぽつと自分の怪我をした箇所を見て、治っている事を確認する。
俺はそんな奴らに言い放つ。
「治療は終わったぞ!
さあ、みんな帰った、帰った!」
男共は何か抗議しようとするが、自分達の怪我は治っているので、
強く言い返せない。
俺はそんな男共を有無を言わさず追い出した。
リョウジが最後まで、一緒に昼食を取ろうと、抵抗して外に出ることを拒んだが、それも追い出す。
ルナがそんな俺の行動を少し不安そうな顔で見つめていた。
「あのう……良いんでしょうか?」
「?ん?ああ、大丈夫。ここにいたヤツは外に出す前に軽く怪我が完治したか確認したから問題ない」
その俺の答えにルナはホッと息を吐く。
「もう、ハヤトさん。
少し強引すぎませんか?」
「良いんだよ。
あいつらは、ルナ目当てなんだから、本当に治療が必要な人が来たら困るだろ?
それにちゃんと、俺が治療したんだから、文句は言わせないよ。
ここは治療院であって、ナンパする場所じゃないからな」
俺は少し拗ねたように顔を反らしながらそう言った。
「フフ、でも助かりました。
皆さん悪気は無いのは解りますが、質問攻めで私も少し困っていたので……」
「まあ、あんな連中は適当にあしらっておけばいい。
それより昼飯にしよう、帰り際に惣菜を買ってきたから」
「ハヤトさん、用意がいいんでですね。
じゃ、ソウウン先生を呼んで来ますね」
ルナはそういうと、治療室に祖父を呼びに行く。
俺はその後ろ姿を眺めながら、
まだしばらく、治療院に押し掛ける男共が増えるんだろうなと辟易としていた。
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