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ルナ

 イスルギ・ハヤトは、駐在兵達をオーランド帝国の飛空艇の墜落現場へと案内していた。

俺が現場を離れてから4、5時間は経っているだろう、現場再度到着したのは、昼を少し回った程度の事だった。


 現場には俺が倒したヘルハウンドの姿は無く、食い荒らされた帝国兵の死体が散乱しているだけだった。

気がかりだった、魔獣の姿は俺が感覚強化魔法【インダクション】で確認した所、確認できない。

この調査部隊には、身体強化ぐらいしか出来るものはいなかったので、

付近の気配察知は俺がやらされていた……

お役人に良い様に使われるのは、はなはだ不本意だったが、

こんな辺境だ、人員不足なのだから仕方が無い……


 この村の駐在している兵は30人、その中で魔術師は3名しかいない。

一人は本部、二人は二箇所で行っている開拓現場に出払っていて、

後は一般兵と騎士が二名しかいない。

騎士は隊長の『近藤 直行コンドウ・ナオユキ』と副隊長のハーフエルフ『ハーガス・ラトクリフ』の二人しかいない。


通常こんな調査だと良くても副隊長ぐらいしか来ないのだが、

オーランド帝国の飛空艇と『巨人騎士(Giant Knight)』の情報が本当だったら、こんな辺境だけでは無く、国を揺るがすような大事件になりかねない。

結果、隊長は自分の目で状況を確認すべく、調査隊の指揮を自らとっていた。


そして、現在、墜落現場で、

隊長以下、調査隊の面々が墜落現場の『巨人騎士(Giant Knight)』を見上げて驚いていた。


副隊長のハーガスが『巨人騎士(Giant Knight)』の装甲に触れながら呟いた。

「……これは……確かに見事な『巨人騎士(Giant Knight)』です。

共和国や帝国にある一般的な物とはかなり違うようですね」


『巨人騎士(Giant Knight)』を式典でしか見たことの無いリョウジが副隊長に聞き返す。

「副隊長、そんなに通常の『巨人騎士(Giant Knight)』と違うんですか?」


「そうだな……一番大きな違いは、このフォルムだな。

一般的な『巨人騎士(Giant Knight)』はもっと、角ばって重装甲なのが一目で解るが、この機体は余りに細身で、流麗な装甲だ。

一般の『巨人騎士(Giant Knight)』が鎧を幾重にも着込んだものとしたら、

この機体は皮鎧程度の装甲しか無いように一見見える。

だが……この触れた感触……どんな金属なのか検討もつかない……

ほのかに暖かさのようなものも感じる……一番近いのは甲殻魔獣の外殻の感触ににているな。

仮に甲殻魔獣系のものだとしたら、魔力での強化率はかなりなものの筈だ。

それと、この機体は恐らく、魔力を回りから吸収している……

こんな事は通常の『巨人騎士(Giant Knight)』ではありえない……

それで、今、この周りの魔獣達が、あまり寄ってこないのだろうな」


そう言うと、副隊長は、俺に顔を向け確認してきた。

「イスルギ君、君がここを発見した時もこの機体は魔力吸収をしていたかな?」


「いいえ……そんな感じは受けませんでした。

今は、確かに意識的に抵抗していないと、魔力を吸収されてしまいそうですが……」


「そうか……まあ、今ここにいるメンバーで魔力感知ができるのは、

私とイスルギ君ぐらいなものだからな……

だが、この分だと、ここに長時間留まるのは魔力の枯渇を招く恐れがある。

調査は、早めに終わらせた方が良いな……」


副隊長は、そう言って少し考えた後、隊長のコンドウに向き直り進言した。

「隊長。

取り合えず、この機体を調べるものと、飛空艇の残骸を調査するものに分かれて、調査は1時間程度で終わらせる事を進言いたします」


隊長のコンドウは、副隊長の進言に頷き、調査開始を指示した。

「わかった!副長と佐々スズキ真部マナベの三人は、『巨人騎士(Giant Knight)』を調べろ。

他の二人は私と共に飛空艇の残骸と付近の調査だ。

イスルギ君は周辺の警戒に当ってくれ。

何か異変を感じたら、私に声を掛けてくれ。

では、調査開始!」


隊長の指示で隊員は返礼した後、それぞれ調査に向かったのだった。


◇◇◇◇◇


 調査隊は飛空艇の墜落現場の調査を1時間で切り上げた。

副隊長のハーガスの予想通り、微量ながら『巨人騎士(Giant Knight)』による魔力の吸収が見られ、部隊内で魔力が少ないものに目眩などの変調を来たす者が出始めた。


 部隊は、墜落している飛空艇が『オーランド帝国』の物である事と『巨人騎士(Giant Knight)』が特殊な機体である可能性がある事、それと、『巨人騎士(Giant Knight)』の胸部装甲に、『塔に雷が落ちている』レリーフがある事を確認した。


 このレリーフは、墜落現場に程近い場所で発見された棺にも刻まれていた為、何らかの関連性があるだろうと結論ずけて、一旦、ジャハト村に戻り、

棺の中にいた少女にも意識が戻りしだい事情聴取をする事にした。


なお、事情聴取の如何に関わらず、早急に一番近くにあるチツバ街にある『ディスティ砦』に報告し、今後の対応を仰ぐ事にするようだった。


そして、イスルギ・ハヤトが道案内を終え、治療院に戻ったのはもう日が沈みかけた夕方近くになっていた。

案内後、俺も事情聴取を受けたからだ。


俺は悪態をつきながら、今、家路についていた。

「まったく……墜落現場は見たままの状況だっつーの!

あの現場の状況と、棺の少女しか居なかったって言ってるのに、こんなに時間を取られるとは!

はぁ……今日一日まるまる予定が潰れちまった」


俺は肩落としながら、治療院のドアを開ける。

「じっちゃーん、今帰ったぜ!」


祖父のソウウンが、サンダルをペタペタとさせながら家の奥から現れる。

「おう、ハヤト。

随分時間が掛かったたな?

出たのは昼前だったはずじゃが?」


俺は近くの椅子に腰を下ろしながら椅子の背もたれに体を預けながら話をし出した。

「ああ、調査事態は其処まで時間が掛からなかったんだ。

本格的な調査は、チツバ街にある『ディスティ砦』に指示を仰ぐとか言ってたよ。

俺がこんなに遅くなったのは、事情聴取に時間を取られたからさ。

調査隊が現場を確認したんだから、俺の調書なんぞいらんだろうにさ!」


「ハヤトよ。

役人なんぞ皆そんなもんだぞ?

いやちょっと違うか、普段なら其処まで拘わんじゃろうな?

今回の事は、かなり上の方まで報告が行くと踏んで詳しく調書をつくっとるんじゃろ」


「……やっぱり、あの『巨人騎士(Giant Knight)』か?……

なんか、普通の物と違うとか言ってたしな……」


「まあ、そこら辺はもう軍に任せるべきじゃろ。

お前は、あれに下手に近づくなよ?

いらん厄介ごとに巻き込まれるぞ」


「ああ……俺もそう思うよ。

まあ、『巨人騎士(Giant Knight)』の事は、良いとして、あの娘はどんな感じだ。

じっちゃん」


「あの娘なら、まだ意識が回復しとらん。

儂は、今、夕飯をつくっとるから。

お前が、様子を見て来い。

意識が戻ってるようなら、消化の良さそうなものでも作ってやるでな」


「そっか。

じゃ、ちょっと、様子を見てくる。

まだ、診療室だろ?」


「そうじゃ。

くれぐれもイタヅラなんかするなよ?」


「するか!

相手はまだ子供だぞ!」


祖父は俺の返事に「カッカッカ」と笑いながら夕飯の支度をするべく台所に向かっていった。

俺は、そんな祖父を少し睨んだ後、診療室に向かった。


診療室内は夕日が差し込み、室内は赤く染まっていた。

俺は、ベットに寝ている少女を覗きこんで、様子を覗う。


少女は薄い布団を掛けられ、静かに胸を上下させて呼吸をしている。

改めて少女を見てみるとその顔の造型の美しさに見ほれてしまう。

『こんな娘がいるんだな……エルフはみんな美人だっていうから、

もしかしたらこの娘はエルフの血が流れてるんじゃないかな?

でも耳は普通の人族の耳だがら、駐在部隊の副隊長みたいにハーフエルフなのかも……』


俺がそんな事を思って覗き込んでいると、少女が不意に少し呻いた。

「……う……うん……」


これは、意識の戻る前兆かと思い、そのまま様子を窺う。

少女の瞼がぴくり、と震える。

スッと、瞼が持ち上がる。

少女は徐々に目を開け、焦点の合わない瞳を彷徨わせた。

その下から現れたのは澄んだ空を思わせるスカイブルー、所謂、碧眼へきがんだ。

ふと、その彷徨っていた視線が、ベットの脇の椅子に腰掛けて様子を覗っていた俺の顔で止まり、不思議そうに見つめてきた。

その潤んだ瞳の虚ろな表情に俺は我知らずドキリとする。


『イカン、イカン、何を俺は動揺してるんだ。

相手は子供だぞ』


俺は、心の焦りを隠すように一度「ゴホン」と咳払いして、

少女に話しかけた。


「や、やあ、目は醒めたかい?」


少女は俺の呼びかけに小首を傾げた。

どうも、まだ意識がはっきりしていないようだ。

俺は、取合えず現在の状況を話す事にした。


「えっと……俺の名前は石動隼人イスルギ・ハヤト

ここは俺の祖父がやってい治療院だ。

君は、オーランド帝国の飛空艇の墜落現場に居たんだけど、

そのままじゃ、魔獣とかに襲われかねないから、取合えず、

ここまで運んできたんだ。

君は、どうして飛空艇に乗っていたんだい?」


其処まで話しても、少女はボゥーと俺を見つめるばかりだ。

俺は次第に焦りだす。

『あれ?もしかして言葉が通じてないのかな?

この大陸の共通語(イーシェン語)じゃ通じないとか?

オーランド帝国も同じ言語を使ってたはずだけど……』


そんな事を考えていると、少女は不意に目線を落とし呟いた。

「……何も思い出せないんです……」


俺はその言葉に驚き、聞き返す。

「……何も思い出せないって……名前も思い出せないかい?」


そこで、少女は少し思案するような仕草をした後、ポツポツと呟いた。

「……ル……ナ…ァ……?」


そこまで呟いて、急に頭を抱えて苦しみ出す。

「うぅ……頭が……痛い……」


俺は焦って、少女近づいて、頭に手を翳して、回復魔法【ヒーリング】を掛けた。

「だ、大丈夫か!

無理に思い出さなくていい。

多分、墜落のショックかもしれない。

その内思い出すさ。」


少女は暫く呻いていたが、ヒーリングが効いたのか暫くして何とか落ち着くと、済まなそうに、俺に顔を向けた。


「……すみません……何か思い出そうとしたら急に頭が痛くなって……」


「気にする事は無いよ。

ゆっくり思い出せばいい。

まあ、なんなら暫くここで養生すれば良いさ」


「そんな……でも……悪いです……」


「気が引けるんなら、祖父の手伝いでもしてくれ。

最近、看護士をしてくれていた人がここに居た兵士と結婚して、

旦那の移動に合わせて、この村を出ていっちゃたんだ。

ちょうど、新しい看護士が欲しいって言ってたから」


そこまで、言って、

俺は彼女が『オーランド帝国』の飛空艇に乗っていた事を思い出し、

軍から何か拘束染みた事がもしかしたらあるかもと懸念に思った。

でも同時に、牢に閉じ込めるとかはしないのではないかとも感じていた。

この少女はどう見ても兵士には見えないし、

武芸者などの特有の所作も感じられない……

一般人にしか見えなかったからだ。


まあ、うちの治療院はここ(ジャハト村)では軍関係の治療も任されている関係上、発言力があるし、軍関係に弟子が何人かいるらしいから、祖父が責任を持って預かる言えば、否は無いだろう。


少女は暫く思案していたが、恐る恐る俺を上目仕えに見ながら遠慮がちに肯定の言葉を発した。

「……それでは、記憶が戻るまで、厚かましいと思いますが、ご厄介になりたいと思います……

えっと……イスルギ様」


「ああ、そうすると良いよ。

後、俺の事は『ハヤト』で構わないから」


「いえ、それは、ご厄介になるのですから……」


「『イスルギ』だと、祖父も『イスルギ』だから呼びずらいと思うよ?」


「では……ハヤト様と……」


「『様』は…よしてくれ」


「わかりました。

では、ハヤトさん、よろしくお願いします。」


「ああ、こちらこそよろしく。

で、君の事は何て呼ぼうか?

さっき、『ル…ナ』?って呟いていたけど『ルナ』が名前なのかな?」


「……多分、正式な名前?では無いようですが、そんな単語を含んだ名前のような気がします」


「そっか。

じゃあ、当面、君の事は『ルナ』と呼ばせてもらうよ。

記憶が戻ったら、本当の名前を教えてくれ」


少女改め、『ルナ』は、眩しい微笑みを浮かべ

「はい!」

頷いたのだった。


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