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死神(ザ・デス)[その一]


ハヤトは、倒した敵機から降り、捕虜になった敵兵の共へ戻った。

後手に手錠を掛けられた二人が俺を睨みつけてくる。

俺はそれを見ながらどうしたものかと考えていた。


数日前の敵兵のように結界に閉じ込めて放置するか?

だか、敵機を見てみると『ビナール王国』の機体とは違う姿をしていた。

『ビナール王国』のギガント・ナイトより軽量で王国の紋章も無い……

動きも『ビナール王国』の兵より洗練された動きを見せていた。

俺は訝しみながら、捕虜の二人に問いただした。


「おい、あんたら何で俺達を襲ってきた?

『ビナール王国』の反乱軍か?

それにしちゃ機体や装備が違うようだが?」


二人の捕虜はだんまりを決め込んで、答えようとしない。

俺は、仕方なく、ルナに耳打ちする。


「ルナ、向うの機体の人工精霊は破壊されていて、情報を引き出せなかったんだが、こっちの二機の人工精霊から情報を引き出す事は可能か?」


「はい、マスター。

人工精霊が破壊されていないのであれば問題ありません」


「そうか、じゃ一先ずそっちの機体を確認してくれ」


「はい、お任せ下さい」


ルナは了承すると、捕虜をナノ・エナジーの結界に閉じ込めた後、横たわっている敵機の一体に軽々と飛び乗り、操縦席に潜り込んだ。

俺はその様子を確認した後、俺は避難させていた王女達を呼び出す為、自分が戦闘中に出した『アース・ニードル』の林の中心に向かった。


王女達を包み込んだルナの張った結界は上位権限である俺には解除可能になっている。

もちろんその他、攻撃や防御機構も俺ならば操作や解除、レジスト可能だ。

これは、万が一人工精霊が暴走した場合の安全装置としてマスターに備わっているものだ。


俺は『アース・ニードル』の林の中心部の広場に踏み込むと、砂中に埋まっている結界を地上に引き上げた。

引き上げられた結界内で、王女はほっとした表情を見せていたが、近衛騎士のローラは腕組みをして憮然な表情で俺を睨みつけていた。


まあ、いきなり、結界に閉じ込めて地中に埋めたのだから言いたい事もあるだろうが、緊急事態だったのだから仕方が無い。


俺は取合えず、結界を解除する。

その途端、ローラが俺に詰め寄ってきた。


「ハヤト殿!いきなり閉じ込めるとはどうゆう了見なのだ!」


「まあ、落ち着け。

ギガント・ナイトの急襲だったんだ。

直ぐに対処するには俺の機体を出した方が早かったし、あんたの機体じゃ荷が重い数と相手だった。

緊急に王女を守るには説明している暇が無かったんだ」


俺がそう説明しても、ローラは納得しかねるのか、更に言い募ろうとしたが、

そこに王女が間に入ってきた。


「ローラ。いい加減にしなさい!!

ハヤト様の判断は正しかったと思いますよ。

それに済んだ事です。

まず現状をお聞きするのが先です。

いいですね?!」


王女はローラを黙らせてた後、俺に顔を向け、現状を聞いてきた。


「ハヤト様、失礼いたしました。

で、現状はどのようになっているのでしょうか?」


「はい、現状は……」


俺は、今までの経緯と現在、敵兵二人を捕虜にした事を伝えた。

ついでに一人逃がし、魔獣を操っていた術者も近くに潜んでいる可能性も上げておく。


「……そうですか。

急襲にも関わらず、素早い対応、流石、アルカナ・ナイト・マスターでいらっしゃいます。

ありがとうございました」


「いえ、偶々です。

それより、まだ敵兵が近くに潜んでいる可能性があります。

十分注意してください。

それと、今から捕虜の所に案内しますので、反乱軍の者なのか確認をお願いします」


「はい、解りました。

軍の者ならば、ローラが見れば解るでしょう」


俺は、頷き、前を歩いて、捕虜の場所に先導して移動を開始した。

その間、ローラは、少しふてくされた顔をしていたが、俺の後を歩き出した王女にしぶしぶ付いて行くのだった。


◇◇◇◇◇


『アース・ニードル』の林を出た瞬間、俺は圧力染みた違和感を感じた。

その圧力を発する方向……捕虜の方を見ると、ルナが掛けていたナノ・エナジーの結界が消えていて、捕虜の後に黒いローブのフードをふかぶかと被った、痩せた男が肩に大鎌を担いで、ニヤニヤとした顔で、俺達を眺めていた。


男の前の捕虜二人は青ざめた顔で、助けを求めるような半泣きの眼差しで俺を見ているが、声は上げようとしていなかった。

まるで声を上げようものならば、直ぐにでも殺されると言った感じの表情だ。


 ナノ・エナジーの結界は、掛けた本人かその主人で無ければ解く事は出来ない。

後は結界より強力、若しくは同等のナノ・エナジーでなければ無効化できない。

そんな事が出来るのは……アルカナ・ナイト・マスターか、ナノ・エナジーを使ったアーティファクトでなければ出来ない芸当だ。

だとするならば、あの男は、アルカナ・ナイト・マスターか、或いは強力なアーティファクトを持った存在だと解る。


 俺は、焦る気持ちを抑え、腰に差している『ガン・ソード』を右手で掴み、直ぐにでも引き抜ける体制で、王女とローラを庇うように前に立ち、王女達に『アース・ニードル』の林の影に隠れるよう手で促しながら、フードの男を睨み据えた。


「……あんた何者だ?

そいつらの仲間か?

それにしちゃそいつら、あんたの事を随分、怖がっているようだが?」


俺が声を掛けるとフードの男は、さも面白そうに返事を返してきた。


「はははは、まあそう警戒するなよ。

新人君!

君はそう言うが、俺はこいつらの上司でね。

まあ、部下が迷惑を掛けたようだが……これも仕事だ。

君には運が悪かったとしか言いようがないな。


そうそう、自己紹介が遅れたが、俺は『ザジ・ハワード』。

君と同じ『アルカナ・ナイト・マスター』だ。

まあ、今日は新人の君に挨拶に来たんだが……

どこぞの依頼で、君の同行者を始末する依頼を受けた俺の部下に先を越されてしまったようだ。

いや、いや、奇遇な事もあったもんだね?」


俺は自分が考えていた通り、相手が『アルカナ・ナイト・マスター』であった事で、結界が無くなっていた事に合点が行く。

『アルカナ・ナイト・マスター』であるならばナノ・エナジーの結界を破壊する事は容易だろう。

俺は相手の出方を注視しながら皮肉を込めた言葉を返す。


「それは、それは……。

俺としては、大した手間じゃなかったし、運が悪かったのはあんたの部下の方だろう?」


「まあ、そりゃそうだな?

幾ら訓練しているとは言え、普通のヤツが『アルカナ・ナイト・マスター』やましてや『アルカナ・ナイト』に勝てる筈がない。

『アルカナ・ナイト』に勝てるのは同じ『アルカナ・ナイト』で無いと勝てる訳ないからな。

そ・こ・で、だ!

ここで、俺が脚を運んだ理由に繋がるんだが……

挨拶代わりに『アルカナ・ナイト・マスター』である新人君に俺と『死合い』して貰おうと思って今日は来たわけだ!

何せ、現存するヤツラは、徒党を組んでいるヤツラばかりで、タイマン張ってくんねんだよな~。

幸い新人君はまだ他のヤツラと接触してないようだし!

相手してくれるよな!な!」


フードを深く被った男は嬉々として、そんな事を言ってきた。

俺はこの男が何を言っているのか理解出来なかった。

挨拶がてら殺し合いとか?頭が可笑しいとしかいえない言動だ。

出来ればこういうイカレタ手合いは相手したくないのだが……明らかに俺狙いなのが手に負えない。

俺は溜息を一つついてから返事を返した。


「はぁーー、何で理由も無く俺があんたとやり合わないといけないんだ?」


「?ん?そりゃ、俺の趣味としかいえないが?

強そうなヤツがいたら取合えず戦い(死合い)たいと思わないか?」


「……思わないな。

他を当ってくれ」


「そうか、そうか。

まあ、お前がどんな態度だろうと、俺には関係ないけどな!!

勝手にやらせてもらうぜ!!」


フードの男はそう言うと煙の用に姿を消した。

俺は凄まじい寒気を感じ、思考100倍を瞬時に発動した。

すると……眼前に大鎌の刃が迫っているのに気が付いた。

いつの間にか鎌の刃の刈り取り圏内だったのだ。

発動がほんの数瞬遅れていれば、俺の首が飛ぶところだった。

俺は、前に倒れるように刃を掻い潜り、前転して、振り返った。

振り返るとフードが肌蹴た驚愕の表情のザジの顔があった。

その顔は少し痩せぎすで、髪は長髪で白髪、灰色の目は狂喜の光を含んでいた。

そして、なにより、歩頬の端と、両腕には刺青のように青白く文様が輝き、

人工精霊とのフュージョン状態を示していた。


まずい!

ヤツはアルカナ・ナイト・マスターの能力を発動している!

この瞬間移動がヤツの能力か?!

俺は、一目でそう判断した瞬間、ヤツの姿が又、煙のように掻き消えた。


そして、今度は真横から鎌の刃が出現する。

今度は、首では無く、胴体に向けた一撃。

俺は避けれないと判断し、ガン・ソードを逆手に持ち直して、盾とした。

ギリギリ防御に間に合い、凄まじい、チュイン!と言う高い音が鳴り響いた。

ザジはその音と衝撃で、一旦距離を取る。

どうやら、ザジの鎌も俺のガン・ソードと同じ振動する刃のようだ。

普通の刃ならば、あんな衝撃音は出ないし、刃が持つわけが無い。


「はっはっは!

高周波ブレードか!

それにしても、よく俺の攻撃を退けたな!

感か?それともお前の能力か?

前のザ・タワーのマスターは硬かっただけだったが?

どうもお前の能力は違うようだな?

仕様変更されてるみたいだ!楽しめそうだ!」


俺は冷汗をかきながら睨みつける。

今の二撃……辛うじて防げたがかなりマグレに近い。

ヤツが瞬間移動をどのくらい連続でできるか知らないが、三撃以上となると思考加速だけでは、対応できない……体がついていないだろう。

早く、こちらもフュージョンして、雷化しなければ対応出来そうにない。


俺がそう感じた時、敵機から、ルナが顔を出して叫んだ。

「マスター!ご無事ですか?!」


その声にザジが敵機を横目で確認し、ニヤリと笑う。

「はっは!

人工精霊が居ないと思ったら、あんな所に居たとな。

どうすっかな?

今回は素の強さを試すか?

死んでも、生き返るしな!

次回、フュージョン状態を試すってことでいいか?!

完全消滅だと、復活に一週間ぐらいかかるけど良いよな!な!な!」


などと、ザジは勝手な事をのたまっている。

こちらとしては、わざわざ死んでやるなんてまっぴらだ。

傷つけば痛いんだから、殺される瞬間の苦痛はそうとうなもののはずだ。

なんとか、ルナと合流して、フュージョンしないと!


ザジが俺に向かって話をしていると、ルナが突如眩い光を放った。

『精霊化』の光だ!

一瞬、目をルナの方から背けると、体に柔らかい衝撃がかかり、ふわりと甘い匂いがした。

そう、いつも嗅いでいるルナの匂いだ。

ルナは俺に顔を埋めるように抱きつき、上目使いにニッコリと微笑んだ。

精霊化したルナが雷速で、瞬時に移動してきていた。


「お待たせしました、マスター」


俺は、応対するように頬笑み返した。


「いや、素早い判断だ。

これで戦える。

反撃返しだ!」


そして俺達は同時に叫ぶのだった。

「「フュージョン!!」」


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