対決1(暗殺部隊)
俺達は『サンド・ワーム』の20体前後の群れに囲まれていた。
通常、『サンド・ワーム』は群れで襲って来ない。
獲物が大物で残り物を巡って結果的に群れる事はあっても、通常は単独での狩りを行う。
こんな連携を持って獲物に襲う事は無い。
明らかに何者かに調教された固体達だ。
俺は、周回している『サンド・ワーム』に注意を払いながら、ルナ達に指示を出した。
「ローラ!『ラウンド・バード』の近くに!
ルナ!『ラウンド・バード』を中心に結界を張ってくれ!
俺は結界外で敵を迎え討つ!」
ローラが俺に指示に異議を唱える。
「そ!それは!いくらハヤト殿でもあの数は!」
「いいから!これから広範囲魔法を使う!あんたは邪魔だ!」
「っ……解りました」
「ルナ!任せたぞ!」
「はい、マイ、マスター!」
不安そうにユリカ王女が、俺に声を掛ける。
「ハヤト様、どうかお気をつけて!」
俺はその言葉に頷きで応えた。
ルナは俺に指示通り、ローラが『ラウンド・バード』の近くまで下がった所で、『ナノ・エナジー』のハニカム構造の結界を張る。
俺は、それを確認後、周囲の『サンド・ワーム』の攻撃のタイミングを測った。
やつらは何らかの訓練を受けた魔獣なのは確かだ。
ならば、敵を逃がさない為に一斉に攻撃するはず。
一番脅威で、結界も張っていない俺を狙うのは明白だ。
必ず、俺に攻撃を集中させると俺は踏んだ。
まあ、直ぐ後のルナ達を狙っても対応可能だが、出来れば一斉攻撃して欲しいところだ。
俺がそんな事を考えていると、魔獣たちの動きが一瞬止まった。
攻撃を仕掛ける為に力を溜めているのが魔力の増加でわかった。
『来る!』
一瞬の静寂の後、周りの砂が爆発した。
20匹近い『サンド・ワーム』が一斉に俺目掛けて踊りかかったいた。
『サンド・ワーム』達の顎門が俺を捕らえる瞬間、俺は魔法を放つ。
「アース・ニードル!」
俺の声に答え、一斉に俺を中心に(ルナの結界を除いて)全長5m程の鋭い鉄の針、もとい、杭が聳え立つ。
その数、数千本!
砂から飛び出た、10mの巨体の魔獣達は悉く杭に穿たれ、全身を貫かれた。
それでも、魔獣の生命力は強く、所々で、ビタン、ビタンともがき、「ギシャャーー」といった叫びを上げていた。
王女とローラはその光景に呆気に取られる。
通常の地属性魔法の『アース・ニードル』は5mの大きさで出すのなら、精々出せても2、3本といった所なのに、数千本……それこそ、魔術師500人が一斉に放つ程の魔力量なのだから、一人の魔術師が行使できる度を越えていた。
まあ、ハヤトの場合、魔力よりエネルギー変換率が良い『ナノ・エナジー』を『アルカナ・ナイト』から引き出していたので、この威力だったのだが……実際、使ってみて、思ったより杭が出現してしまって、俺は内心、少し焦った。
『ヤバ!出力がでか過ぎた、完璧にオーバーキルだわ』
俺がそんな事を考えていると、結界内のローラが驚きの声を上げた。
「ハ、ハヤト殿!こ、これは!」
俺は、その質問に手を上げて静止を掛ける。
「静かに!まだ終わってない!魔獣の向うに何かいる!
ルナ!王女達を結界ごと砂の中に!
そうしたら、こっちに来てくれ!『ザ・タワー』を出す!」
「はい、マスター!」
ルナは、間髪いれず返事をすると、ラウンド・バードを飛び降り、こちらに駆けてくる。
その間に結界は徐々に砂の中に沈んで行く。
結界の中で、ローラが何か騒いでいたが、俺は無視して、砂地に手を翳し、『ザ・タワー』の召還を行おうとした瞬間、辺りに轟音が響き渡ったのだった。
◇◇◇◇◇
暗殺組織『ケルベロス』の部隊長『ファイゼル』は、敵の男の魔法に呆気にとられていた。
「なんだ……あの馬鹿げた魔力量は?人間業とは思えん」
そんな呟きに応えるように通信機から部下の獣人『リカルド』通信が入った。
「た、隊長!なんすかあの化け物は?!」
「うろたえるな!いかに化け物でも所詮は人間だ、『ギガント・ナイト』には敵わん!
予定通り、後詰めの攻撃を仕掛ける!
俺の合図で一斉に魔砲を発射!装填魔弾は氷系魔法『アイス・エイジ』!」
俺有無を言わせない指令に二人の部下の応答の声が響く。
「「了解!」」
俺はその声を確認し、カウントダウンを行った。
「5!4!3!2!1!発射!!」
その号令と共に俺達三人の『ギガント・ナイト』から一斉に氷系魔法『アイス・エイジ』が発射された。
『アイス・エイジ』は、着弾後、半径50mを氷塊にする大規模魔法で、人間が使うなら10人以上で発動する広域魔法の一つだ。
魔弾は狙いたがわず、敵の男に突き進み、接触したと思った瞬間、辺りに轟音が響き渡った。
辺りに気温差と爆発で靄が立ち込める。
暫くして靄が晴れると其処には、50mほどの氷塊が聳え立っていた。
『ギガント・ナイト』よりさらに高い位置に氷塊の頂きが光り輝いて見える。
人間相手には正にオーバーキル。
敵の近衛騎士の『ギガント・ナイト』用に用意したものであったが、念には念を入れて使用したのだ。
その氷塊を見上げ、部下の獣人『リカルド』が声を上げた。
「隊長!やりやしたね!これなら幾らあの化け物でも脱出出来ないっすよ!
凍り漬けの窒息死、間違いなしっすね!」
その軽口に赤毛の女『アリシア』が諌める。
「油断するんじゃないよ!喜ぶのはアイツが確実に死んでるのを確認してからだよ!」
そんな二人の会話に耳を傾けながら俺は、氷塊を睨みつけていた。
あの男が何の手出しも出来ずに魔砲を受けるだろうか?
王女達の結界を砂の中に沈めたのは確認したが……
多分、俺達の攻撃を予測して、王女達を守った……だが、それだけか?
そんな事を考えていると、氷塊にビキビキとヒビが入る音が聞こえだした。
俺は咄嗟に叫んで指示を出す。
「何か出てくるぞ!迎撃体制!『バーニング・フレイム』を次弾装填!!」
俺は叫びながら、魔砲に魔弾を装填し、氷塊に狙いを定める。
敵が氷漬けから出てきた場合、かなり冷えているはずだ、冷えたものを急に温めると、物質は壊れやすくなる。
あの男が何らかのもの……魔法障壁で攻撃を防いだとしても、魔法障壁もまた急激な温度差で壊れやすくなるは解っている。
俺は注意深く、氷塊を見つめた……
すると、突然、氷塊が轟音を立てて爆発した。
辺りが一面、真っ白な靄に包まれる。
俺は『ギガント・ナイト』の左腕のタワールドを構え、油断無く右手の魔砲を構える。
そして、突然、靄の向うから真っ黒い機体が白金の眼光を放ちながらこちらに向かって飛び出してきた。
まさかとは、思っていたが、飛び出してきた黒い物は『ギガント・ナイト』と思われる。
今まで何処に隠していたのか?それは不明だが、実際、目の前に現れているのだから、対処するしかない。
俺は呆然としそうな頭を瞬時に切り替え、咄嗟に、魔砲の引き金を引いた。
だが、有り得ない事に、魔砲から発射された魔弾を黒い機体は、『ギガント・ナイト』とは思えない挙動で、軽く横に身をかわし、避けた。
まるで生身の武芸者様な信じられない挙動に一瞬唖然とするが、
俺は即座に魔砲の次弾装填を諦め、魔砲を投げ捨て、腰に備え付けられた剣を引き抜く。
敵がこちらのタワシールドに攻撃した瞬間のカウンターを狙ったのだ。
読みどおり、敵の機体は、機体の腰の剣に手をかけ、攻撃態勢を取って突っ込んできた。
この間々ならばこちらの読み通り、タワーシールドで敵機の剣を防げる配置だ。
俺が衝撃に備えた瞬間、「バシュ!!」という空気が噴出する音と、「ブゥゥゥゥン」といった重低音の音が鳴り響いた。
だが、衝撃らしい衝撃が、来ない……。
俺は訝しみ、機体を動かそうとした瞬間、「ガクン」と機体が傾く感覚が俺を襲った。
俺はその次の瞬間、無重力間に襲われる。
『ギガント・ナイト』の核の人工精霊が、警告を発した。
「機体損傷大。
腹部機関断絶。
脚部伝達不可。
上体部維持デキマセン……。
本機ハ、倒壊シマス。
搭乗員ハ、速ヤカニ。
脱出シテクダサイ」
俺は、そのアナウンスに絶句する。
どうもこの機体は腹からまっ二つにされ、上体部分が崩れ落ちる状態らしい。
一瞬でタワーシールドごと、敵機に機体を切り裂かれたのだ。
俺は、搭乗部分(胸部)が落下する無重力感を感じなながら、叫んでいた。
「バ!バカな!そ、そんな事がありえるのか!!」
◇◇◇◇◇
俺が、『ザ・タワー』を召還した瞬間。
敵機の魔砲の攻撃が炸裂していた。
攻撃はどうやら、『アイス・エイジ』らしい。
轟音が鳴り響いた瞬間、辺りが氷塊に埋め尽くされていた。
だが、『アルカナ・ナイト』の召還時には、召還魔方陣に沿って、障壁が張られる機能が付いている。
その結果、見事に『ザ・タワー』を囲む形で氷塊が辺りを埋め尽くしていた。
真昼の光を反射したその空間は一種幻想的では有ったが、今はそんなものに見とれている場合ではない。
障壁内にいた、俺とルナはすぐさま、『ザ・タワー』に乗り込み、敵機への反撃に移る事にした。
操縦席に乗り込み、『ザ・タワー』で辺りの状況を観察したルナが状況説明を開始した。
「敵『ギガント・ナイト』三体を確認。
十二時、四時、八時方向です。
敵装備は、魔砲、剣、大型シールドを確認。
本機への脅威度『低』です」
「よし。
じゃ、先ずは正面の敵から排除する。
これだけ近いんじゃ、高周波ブレード『月風』だけで十分だな?」
「はい、マスター。
本機の機動と『月風』だけで対応可能と判断します」
俺は標準装備の腰の刀、『月風』を確認し、正面を見据える。
「いくぞ、『ザ・タワー』発進!」
俺の掛け声に応じるように、『ザ・タワー』の眼に白金の光が点った。
『ザ・タワー』を身体を低くし、右腕を左腰の『月風』の束に添える。
左手は鞘に付いているトリガーを握った。
抜刀専用高周波ブレード『月風』。
それは、鞘と一体型の『アルカナ・ナイト』専用の太刀である。
鞘部分には高圧縮空気で刀身を射出する機構が付いており、
鞘に付いたトリガーを引く事で、圧縮空気で刀身を射出する事が可能となっている。
そして、刀身はタングステンで作られ、刃の部分は高周波振動を起こす事であらゆる物を切り裂く事が可能となっていた。
その射出力と高周波振動は、『アルカナ・ナイト』のナノ・エナジー障壁をも切り裂く優れものとなっていた。
俺は小手調べとばかりに眼前の氷塊を目標にし、『月風』のトリガーを引いた。
「バシュ!」という射出音と「ブゥゥゥン」という重低音が鳴り響いた。
俺は五連撃抜刀術『五月雨』を発動する。
瞬時に引く抜かれた太刀は、縦横無尽に五回氷塊を切り裂き、氷塊はその衝撃で一瞬で爆散した。
因みに、この抜刀術なるものは、太古の日本の剣術で、この『ザ・タワー』に記録されていた情報から再現したものだ。
俺自身も刀があれば生身でも再現可能だが、いかんせん肝心の生身用の刀が無いのは残念だ。
俺は、太刀を鞘に修めると飛び散る氷塊に機体を走らせ、正面の敵機に肉迫する。
敵機は、待ち構えていたらしく、油断無く魔砲を放って来たが、俺は難なく機体を半身にずらす事で魔弾を避けた。
通常の『ギガント・ナイト』ではこんな急激な挙動は出来ないが、『アルカナ・ナイト』であれば通常の生身の体と遜色無く動かせる事ができる。
よって、日頃、石動流魔古武術で鍛えている俺としては何てない動作だ。
敵は、一瞬驚いたようにその動きを止めたが、瞬時に魔砲を投げ捨て、剣を抜き放った。
なかなか思い切りが良い判断の操縦者だ。
だが、残念ながら、機体性能が違い過ぎる。
俺は、構わず『ザ・タワー』を敵機に肉迫させ、抜刀範囲に収める。
敵機は大型のタワーシールドでその機体を隠していたが、構わず俺は鞘のトリガーを引き、最大、最速の抜刀術、『一閃』を放った。
抜刀術『一閃』とは、発動瞬間速度最速の一撃必殺の横一文字切りだ。
その初速は、秒速30000m、音速が、秒速360mなのだから、優に音速を超えている。
正に眼にも止まらない一撃だ。
太刀が引く抜かれた状態で、止まっている……
そして、気が付いてように、空気が放たれた「バシュ!」という音と「ブゥゥゥン」と言った振動音が鳴り響いた。
俺は、振りぬいた太刀を鞘に収めると、残りの敵機に機体を向ける。
背後で、敵機が上下に別れ、轟音を立てて崩れ落る音が聞こえた。
俺は、振り返らず、残り二体に向かって『ザ・タワー』を走らせるのだった。




