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王女と従者


 俺達(ハヤト&ルナ)は、『ビナール王国』第一王女、『ユリカ・ビナール』に挨拶され、少し呆気に取られたながら、自己紹介した。

まさか、本当に王女様だったとは思っていなかった。

良いところのお嬢様程度に考えていたので、少し不意をつかれていた。

ユリカ王女は、背丈は160cmぐらい、その黒髪は背中の真ん中ぐらいまであり、砂漠を移動していたとは思えないほど艶やかで、肌はこの辺の人種よりかなり白い肌で、コスセット付きの胸元の開けたドレス姿も相まって、只でさせ豊かなバストが更に強調され、思わず目がそちらに行ってしまっていた。

そんな俺の目線にルナが「むぅ!」と少し膨れた様子で、俺を睨んだ後、自分の慎ましやかなバストを見た。


いや……ちょっと目が行ってしまっただけだよ?

男だからね……大きめバストはどうしても気になってしまうのは仕方がない。

でも、女の子の胸には貴賎は無いよ?

だから、俺はルナの小ぶりな胸も大好きだからな。

と、心の中で呟いた。


そして、俺は、凝視してしまった態度に少しバツの悪さを感じ、一旦、呼吸を整え、王女に向き直って、自己紹介を行った。


「私は、旅の魔法医、石動隼人イスルギ・ハヤトです。

こっちは助手のルナ。

生憎、私どもは、王侯貴族様との付き合いがありませんので、敬語や礼儀作法には目を瞑ってくれると助かります」


俺が普通の人と話すように立って挨拶を終えた頃、『ギガント・ナイト』のハッチを開けて女性の操縦士が飛び出してきた。

その王女の従者らしき操縦士が王女の斜め後まで来た所で、指差して俺の挨拶に対して声を荒げた。


「貴様!王族に対して不敬であるぞ!

臣下の礼とまで行かなくとも、礼を持って接して然るべきだぞ!

それに、何故平民が『ギガント・ナイト』を所有している?!

何処かの国の兵士では無いのか?」


その質問に俺が顔を顰めると、ユリカ王女が、従者の女騎士を諌めた。


「ローラ!口を慎みなさい!仮にも命の恩人に失礼ではありませんか?!」


ローラと呼ばれた女騎士は、憮然とした表情をしたが、王女に言われて思い直したのか、渋々ながら俺に謝罪した。


「くっ……失礼した。

危いところ、ご助力頂き感謝する。

私は、ビナール王国近衛騎士、『ローラ・アッカーマン』だ」


ローラと言う騎士は、渋々頭を下げた後、顔を上げて自分の名を告げたのだった。

ローラは、薄茶の髪をポニーテールで結んだ、茶色い目の背の高い(170cmぐらい)、スラッとしたキツイ目のスレンダーな女騎士だった。

服装は、騎士服に鋼鉄の胸当てと手にガントレッド、足にシンガードをつけていた。

俺は、王女にした自己紹介を繰り返した。


そして、どういった理由にしても、ここに何時までもいるのは拙いだろうと、移動を提言した。


「なぜ、自軍に追われているのか知りませんが、

ここに留まるのは拙くはないですか?」


王女は、俺の質問にニッコリと笑顔で答えた。

何処か、緊張感の欠ける王女だな~と思わず思ってしまったのは仕方ないだろう。


「はい。そうですね。

私達は、ここから東にある『ロマネス公爵領』に向かう途中なのですが……

先ほどの戦闘で、『ギガント・ナイト』が故障してしまったようなんです。

困りましたわ」


王女は、頬に手を当ててそう応えた。

どうも今一緊張感が掛けるお嬢様である。


俺は、白い機体を一瞥し、ルナに問いかけた。


「ルナ、あの機体の損傷具合はどんなもんだ?

こっちで直せそうか?」


ルナは、白い機体を数秒凝視した後、解析結果を告げてきた。


「はい、マスター。

あの程度の損傷ならば、修理は『次元収納ディメンション・スペース』にある修理ユニットで修理可能です。

次元収納ディメンション・スペース』に保管して、指示すれば、30分程度で修復可能でしょう」


「そうか」


俺はそれを聞き、王女に向き直る。


「と、言う事なんですが、一旦こちらでそちらの機体をお預かりして宜しいでしょうか?」


俺と、ルナのやり取りに呆気に取られていた王女と、女騎士だったが、

女騎士の方が驚愕の声を上げた。


「こんな、砂漠の真ん中で修理が可能なのか?」


俺は肩を竦めて応える。


「まあな。で、どうする?

俺としては、一旦そっちの機体を預かって、直ぐにでもここを移動したいところなんだが?」


女騎士が考えこんでいると、王女は進み出て、お願いしてきた。


「それは、願っても無い事です。

修理代は、後でお支払いいたしますので、どうぞよろしくお願いいたします」


俺は、頷き、「解った」と言いながら首肯すると、白い機体に手を触れた。

すると、巨大な魔方陣が上空に現れ、ゆっくり降下すると、白い機体を飲み込んでいった。

後には、『ギガント・ナイト』があったであろう窪みを砂の上に残して。


それを見ていた女騎士と王女は驚愕の表情のまま固まっていたが、急に女騎士が声を荒げた。


「き、貴様!今、何がどうなった?!」


「『次元収納ディメンション・スペース』に保管しただけだ。

心配するな。

修理が終わったら返す。」


俺はそういった後、膝部分を破壊した『ギガント・ナイト』と捕虜を見る。

さて、こっちはどうするか?


俺は、王女に向き直り、対応を確認した。


「ユリカ王女殿下、捕らえた兵と、『ギガント・ナイト』はどうなさいますか?」


「そうですね?出来れば殺さないでおいて上げてください。

彼等も上役の命令で行動せざるえなかったでしょうから」


その言葉に女騎士が憤る。


「何をおっしゃいます。姫様!この者達こそ王家にあだ名す反逆者ども!極刑に処すのが当たり前です!」


「ん~そうは言いますが、ローラ。彼等も家族がいますでしょう?

家族を人質に取られた状態で、軍部を掌握している『レガード将軍』には逆らえないしょう?」


「騎士が、自身や家族の保身の為に主家を裏切るなど言語道断!

それこそ騎士の名折れ!死んで詫びるのが当たり前です!」


『ギガント・ナイト』の操縦士マスターの対応を巡って、

女騎士は王女を説き伏せようと長々と講釈をするが、王女との意見は平行線で、決着が付きそうになかった。

俺は、しばらくしてから、仕方なく、一つ妥協案を提案する事にした。


「お話中、すみません。私から提案させて頂いて宜しいでしょうか?」


俺の言葉に王女が振り向いて、「はい、なんでしょう?」と問いかけた。


「今、捕虜に張っている結界は最大24時間維持できます。

ですので、捕虜はそのまま放置し、『ギガント・ナイト』の核を抜き取って保管する事をお薦めします。

核が無ければ、『ギガント・ナイト』は動かせません。

捕虜達は、拘束が解けても部隊への連絡も行えませんし。

追ってもこれないでしょう」


そこで女騎士が口を挟んできた。


「貴様、核を抜き取ったとして、どうやって運ぶのだ?

お前の『ギガント・ナイト』で運ぶにしても、直径1mのデリケートな球体なのだぞ?

見たところ、貴様の『ギガント・ナイト』にそういったものを運ぶスペースや貨物など無いではないか?」


俺は肩を竦めて溜息を吐く。


「さっき、あんたの機体を格納した『次元収納ディメンション・スペース』で運ぶんだよ。

まあ、こっちは親切で言ってるんだ。

必要無いなら、破壊する。

その方が、俺としては後腐れないからな。

おたくらの国にとって、『ギガント・ナイト』が貴重品だろうから、提案してやっただけだ。

核があれば『ギガント・ナイト』の再建は可能だからな」


『ギガント・ナイト』は全てが解析不可能なアーティファクトという訳では無い。

人工精霊が治まっている核はまったくの解析不能、複製不可能なアーティファクトではあるが、それ以外は結構、備品として発掘されりしている。

また、各種パーツの一部は現在の技術で再現可能であった。


俺の言い分に、女騎士は俺を睨む。

すると、俺と女騎士の間にユリカ王女が入り、俺の手を取った。


「ほんとうですか?!

イスルギ様、とても助かります!是非お願いします。」


「ひ、姫様!」


「ローラも良いですね!これは命令です!」


「っ……畏まりました」


「ああ!でも何て幸運なんでしょう!こんなに頼りになってお優しい『アルカナ・ナイト・マスター』様に出会えるなんて!これも『アマテラス』様のお導きでしょうか?!」


その言葉に俺は少し驚き、女騎士は驚愕の表情になった。


因みに、ここで王女が言った『アマテラス』とは、国際ステーション『アマテラス』を指すのだが、一部の地域ではこの『アマテラス』は神格化し、神と崇められていた。


それは、『アマテラス』の管理者である『ザ・スター』が偶に、『ナノ・エナジー』などの物資を地上に送ったりしていたのが、要因で、一部で『アマテラス』が救済の女神扱いされたといった経緯があったからだ。


そして、『ビナール王国』も過去にその恩恵に預かり、現在も『アマテラス』を信仰していた。


「ひ、姫様!今なんとおっしゃいましたか?」


「?何か私、可笑しなことを言いました?」


「い、今、『アルカナ・ナイト・マスター』と!」


ユリカ王女は今、気づいたという風にポンと両手を合わせる。


「あら?ローラは気づいて無かったの?

あの黒い機体の胸の紋章を見て解らない?」


ユリカ王女はそういうと、『ザ・タワー』の胸元の『塔』の紋章を指差した。


「それに、あの砂丘を一気に飛び越えた性能。

見たことも無い魔砲?兵器。

何より、イスルギ様の『次元収納ディメンション・スペース』。

これが伝説の至高の22体の一機『ザ・タワー』とその操縦者マスターなのかと!

私、興奮してしまいましたわ」


それを聞いた女騎士は、今一度、『ザ・タワー』を見た後、

改めて俺に向き直る。

すると、その顔が見る見る青くなった。

女騎士は、脱兎の如く俺の前までくると、方膝を付いて頭を垂れた。


「……知らなかったこととはいえ、『アルカナ・ナイト・マスター』様に対しての暴言の数々。

誠に申し訳ありません。

かくなる上は、どのような処罰もお受けする所存です。

どうか、どうか平にご容赦いただきますよう……お願いいたします」


俺は女騎士の態度の急変に呆然とするが、溜息をついて、女騎士に声を掛けた。


「まあ、構わないさ。

だけど、平民だろうが、騎士だろうが、まして、『アルカナ・ナイト・マスター』だからと言って態度を変えるのはどうかな?

その穿った考え方は直した方が良いと思うぞ?

まあ、余計なお世話かもしれんが?」


「は、ははぁ!誠にもって仰る通り!

弁明させて頂けるのであれば……我々は『ルビーナ王国軍』に追われる身。

どんなやからが罠を張ってくるか解らず、助けるふりをして、襲ってくるのでは?

と戦々恐々としておりました。

一騎当千の『アルカナ・ナイト・マスター』様であればそのような姑息な手段など用いずに指先一つで我々など消し飛ばせるというのに……

まったくもって、不遜な考え。

誠にもって申し訳ございませんでした」


俺はそれを聞き、納得する。

状況から考え彼女らは、急に自軍から攻撃を受け、命かながら逃げてきたのだろう。

王女は王城で着ているようなドレス姿であるのも急襲を受けて、着替えなど持ち出せなかっただのだろうことがうかがい知れる。

そんな逃避行中に、見知らぬ『ギガント・ナイト』が自分達を助ける……

何かしら裏があるのでは?と思わなくもない。

それも、自分しか王女を守る者がいないとなれば、気張ってしまうのは仕方が無いか。


それにしても『指先ひとつで消し飛ばすって……』?

……ありえるのか?

アルカナ・ナイトに遠隔で操作して、『バズター・ライフル』を撃つ……ありえてるな……

俺は自分の考えに冷や汗をかく。

言われてみればかなり規格外の存在だったと再認識した。


「ま、まあ、あんたの立場なら、俺達を疑うのはわからなくも無い。

だが、ここは信じて欲しいな。

どうにかするなら、俺は最初からあんたらを助けたりしないよ。

少なくとも、俺は窮地に陥っている女子供を見捨てる気はない。

安全なところまで、送っていく事を約束するよ」


◇◇◇◇◇


 俺は、『ザ・タワー』で捕獲した『ギガント・ナイト』の核を高周波ブレードを使って、背後から瞬時に装甲を円形に切り取り、そこから核を抜き取ると『次元収納ディメンション・スペース』から長さ6m、幅1.5mの緩衝材入りの簡易コンテナを出現させ、それにしまい、それを再度、『次元収納ディメンション・スペース』にしまった。


あまりにも一瞬で、核を切り取った『ザ・タワー』に女騎士と王女は再度驚愕する。

そして、『ザ・タワー』を降り、『ザ・タワー』を『次元収納ディメンション・スペース』にしまった俺は、これからの移動方針を説明した。


「では、行きましょうか。

後、『ギガント・ナイト』での移動は行いません。

目立ちすぎますからね」


その俺の言葉に女騎士こと、ローラが異を唱える。

「ま、まってくれ、イスルギ殿。

姫を見ていただければ解るが、姫はドレス姿だ。

砂漠をこの姿……しかも足元はハイヒールだ。

とても、砂漠を歩かれる装備ではない」


「ああ、問題ない。

俺達は、『ラウンド・バード』を連れている。

殿下には、そちらに乗ってもらおうと思う。

まあ、乗れて二人までだろうから、俺と、あんたは歩きだが。

構わないだろ?

仮にも砂漠の王国の騎士なんだ、砂漠の行軍も問題ないだろ?」


「そ、それであれば……私は問題無い……です」


ローラは渋々納得していた。

俺は、そんなローラを一瞥した後、指笛を「ピィー」と鳴らす。

すると、砂丘を越えて、俺達が騎乗していた、『ラウンド・バード』が走ってきた。

俺の側までくると、顔を摺り寄せてくる。

この一週間でかなり、俺達に懐いてくれていた。


俺は、ルナに手綱を握らせ、ユリカ王女をルナの後に乗せさせた。

そこで、ふと思いつき、ウィンドウの装備欄を検索する。

俺はそこにフート付きのカーキ色マントがある事確認し、人数分取り出し、皆に渡した。


これは、俺やルナが着ている制服と同じように『ナノ・エナジー』の布で造られている。

防刃、防弾、耐熱、耐寒素材なので、下手な鎧や防具などより余程頑丈で軽く着心地が良い。

それを渡された羽織ったユリカ王女はその着心地と、体感に感嘆の声を上げた。


「まあ!このマント、何て軽くて涼しいのかしら?!」


それに同意するように、女騎士のローラも声を上げる。


「こ、これは!どうなっているのだ?濡れてもいないのに涼しいとは?!」


「ああ、そいつは特殊素材で出来てる、魔法や刃物なんかも防ぐから、身につけといてくれ」


俺がそう言うと、ユリカ王女は恐る恐る聞き返してきた。


「イスルギ様、もしやこのマント、アーティファクトでしょうか?」


「ああ、そうなるな、現在の技術じゃ再現不能だろう。

でも、この砂漠を移動するには便利だろうから、着といてくれ」


「イスルギ様、何から何までありがとうございます」


「それと、王女殿下、俺の事は『ハヤト』でいいですよ」


「あ!それならば、私の事も『ユリカ』と御呼びください」


それを聞いた女騎士が慌てて諌める。

「姫!それはあまりに……」


「いいえ、暫くこれから共に行動して頂くのですから、他人行儀は良くないと思うのです。

それに、伝説の『アルカナ・ナイト・マスター』様ですよ?

本来ならこちらが敬意を持って接して然るべきなのに、ハヤト様から気兼ねせず接してくださるのだから、願ってもない事です」


「……は!た、確かに!その通りです!では!ハヤト殿!私の事も『ローラ』と御呼びください!」


否定しかけた女騎士、ローラが王女の言を受け、俺に勢い込んで呼び名を告げる。


「あ、ああ、解った、ローラ……」


そうして、俺達は一路、東の海岸沿いにあるロマネス公爵領の中央都市『ジン』に向かうのだった。


◇◇◇◇◇


 俺達は、足早に移動し、昼過ぎに休憩を取った。

ユリカ王女と、ローラは『ギガント・ナイト』に常備されていた携帯食で、この3日を何とか食いつないでいたそうで、

俺が提供した、古代に生息していた動物の肉の缶詰と何か貝類の魚介スープをお礼を言いながら嬉しそうに食していた。

まあ、5000年前のものだが……俺も食べてるから問題ないだろう。

あえて、言うつもりもないけどね。

そして、ついでとばかりにユリカ王女には、着替えてもらう。

ルナにサイズをサーチしてもらい、ウィンドウからルナと同じ制服を出して、着てもらった。

他の服もあるのはあるのだが、古代の流行の街中で着る様なもので、

この砂漠では、あまりに場違い。

後、ましなのは作業用のツナギか、迷彩柄の戦闘服……。

どちらも王女に着せるには忍びなかったので、取合えずルナと同じものにしておいた。

王女は、普段、ここまで足を出した服装をしたことが無かったので、俺の前で仕切りにスカートの裾を気にしていた。

俺が、そんな恥らう王女に萌えた視線を向けてしまったのは仕方が無い事だろう。

多少、ルナとローラに咎めるよな目を向けられてしまったが……


そして、夜になり、結界とテントを張って、野営の準備をし、夕食を終えた所で、俺は、王女達の詳しい現状を聞く事にした。


「で、掻い摘んでは聞いていたが、王都で『レガード将軍』とか言うのがクーデターを起こしたとか?

何で、そんな事になったんだ?」


俺は食後のコーヒーを飲みながら尋ねた。


「それは……」


ユリカ王女が言い淀んだのをみて、ローラが後を引き継ぐ。


「ハヤト殿、それはどうやら『オーランド帝国』が『レガード将軍』を唆したようなのです」


「?『オーランド帝国』が!!

帝国はここからかなり離れているのに?」


「はい、大陸中央部の山脈の端は、我が『ビナール王国』の草原地帯に接しております。

シルヴァ大樹海やビナ砂漠を通らずとも、我が国は『オーランド帝国』」と国交を結び、交易していました」


「そうだったのか、俺がいたシルヴァ共和国はどちらとも国交が無かったから知らなかった」


「そうなのです……両国とも交易はそこそこあるのです。

しかし、ここ近年、『オーランド帝国』は東の海の調査を行いたいとして、探索部隊を多く派遣するようになっていました。

あ、もちろん、軍事的な物資の持ち込みは禁止していましたが」


俺はそれを聞いて冷汗を流す。

東の海……どう考えても『ザ・タワー』が在ったと言う遺跡の調査だろう。

『オーランド帝国』がどうやって、その遺跡を発見したかは知らないが、『ビナール王国』を経由して調査をしていた事がこれで解った。

俺は、さりげなくその調査について聞いてみた。


「東の海の調査?ってどんな事を調べてたんだ?」


「詳しい事は解りませんが、何らかの遺跡を発掘していたらしいです。

何でも、帝国で発見された古代の文献にその遺跡の事が記載されていたとか……。

詳しく国家機密だとして我が国にも内容は知らされておりません。

まあ、その代わり、調査協力費として、我が国に多額の援助金が送られたらしいです。

我が国は海産と遊牧が主な産業ですので、国庫はそれほど潤っておりません。

帝国からの援助はかなり助かったようです……。

ですが、帝国はそれを足がかりに、国の警備主任である『レガード将軍』に近づいたのです。

近年の軍部は殆どお飾りで、南は砂漠、その先は樹海、北は昔から良い関係にあるエルフの部族、東は海、西は国境は接しているとはいえ、都市とはかなり離れている『オーランド帝国』です。

唯一の敵国のなりえた、『オーランド帝国』と交易を結ぶ事ができ、『ビナール王国』の軍部はその存在を王国内部で軽視されておりました。

『レガード将軍』はそれにかなり憤りを感じていたのは確かです。

ですが、だからと言って、『オーランド帝国』と組んで、クーデターを起こすとは!!」


ローラは其処まで話すと、自分の拳で膝を叩いた。

その様子をユリカ王女が悲しそうな眼差しで見つめた後、話を引き継ぐ。


「そう、『レガード将軍』は3日前の『オーランド帝国』の外交官を招いた晩餐会の会場で、突如、お父様を殺害し、軍部によるクーデターを行ったのです。

『レガード将軍』は、『オーランド帝国』の部隊と連携し、王都を制圧し、新政府樹立を宣言しました。

私は、そこからローラを含む近衛騎士団によって、王都を脱出したのですが、足止めを行った他の騎士と騎士団の『ギガント・ナイト』は……」


ユリカ王女はそこまで言うと、俯いてしまった。

ローラやユリカ王女の悲しみは相当のものだったのだろう。

父王と多くの近衛騎士達が犠牲になり、自分達が生き延びたのだから。


そして、再度、ローラが話しを続ける。


「我々は辛くも王都を脱出し、国王の弟君である。

ロマネス公爵を頼る為、ロマネス領の中央都市『ジン』に向かう事にしたのです」


「その、ロマネス公爵は頼りになるのか?

『レガード将軍』にユリカ様を引き渡したりしないだろうな?」


「それはありません。仮にも王族!王位継承権第三位は伊達ではありません!

必ずや、反乱軍の鎮圧を行ってくださるはずです!」


俺は、この国の事を詳しくしらない……『レガード将軍』にしても『ロマネス公爵』にしても。

ならばその判断は、ユリカ王女とローラに任せるしかないだろうと腹を括る。

俺達は不測の事態に対応できるようにすれば良いと判断した。


「……ああ、ローラがそう言うのならそうなのだろう。

だが、もしもという事態があった場合、手を貸すのは吝かじゃない。

遠慮なく言ってくれ」


それを聞いてユリカ王女が頭を下げる。


「ハヤト様のお言葉。

ありがたく思います。

もし、不測の事態があった場合、ご助力頂ければこんなに心強い事はありません。

どうかよろしくお願いいたします」


俺は、ユリカ王女に頷き、了解の意を伝える。

どうやら、俺はどうあっても『オーランド帝国』とは対決する運命にあるようだ。

俺は『オーランド帝国』との因縁の深さを感じずにはいられなかった。


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