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王女


ルナとの濃厚な夜を過ごした翌朝。

ハヤトは、テントの外の明るさと鳥の声で目を覚ました。

俺は気だるい体を起こそうとして、左手に重みを感じ、顔を向けた。

其処には、プラチナブロンドの髪の美しくも愛らしい少女が小さな寝息を立てて俺の左手にしがみ付いていた。

俺は、その様子に思わず相好を崩す。

俺は、思わずルナの頭をいとおしげに撫でた。

ルナは、それに気づいたようで身じろぎした後、眠たげなまなこを徐々に上げ、大きな蒼い瞳で、俺を見つめ返した。

そして、嬉しそうに微笑み、挨拶をしてきたのだった。

「おはようございます。マイ、マスター」


挨拶をしたルナは少し頬を染めていた。

「ああ、おはよう。

その……身体は、大丈夫か?」


ルナは一瞬キョトンとするが、俺の言葉に通常の女性の身体の構造を思いだしたようだ。

「あ……はい、大丈夫です。

その人工精霊はマスターに対してそういった性的なケアも行えるように出来ていますから……

あ!ですが、そういった事が出来るからといって、同意が無ければできませんよ!

一応……人工精霊は、人格を認めれていましたから……」


微妙にずれた回答だけどまあいいか?

『処女膜』だの『初めての性交時は痛くないか』だの直接的な言葉も何かはばかれるし。

「そ……そうか?まあ、大丈夫なら良いんだ」


俺は焦りながら誤魔化した。

どうも、今までの人生で、女の子と付き合った事が無いと言うか性的交渉を持った事が無いので、どういった反応をすべきか困ってしまう。

魔法医として、人体の構造は熟知しているし、子供や大人な女性なら仕事上なら問題無く対応できるのだが……。


そんな俺の困った顔を見て、ルナはクスクスと笑った。

「そんなに気を使わなくても平気ですよ。マスター」


ルナはそういうと、腕を絡ませ、頬をつけてくる。

「女の子は好きな人に愛して貰うのを望んでいるものなんですよ。

身体を気遣ってもらうのは嬉しいですが、こういうのは熟れなので、問題ありません。

そ……それに、最後の方は……かなり……気持ち良かったです」


そう言うと顔を真っ赤にして、俺の胸に顔を埋めるのだった。


◇◇◇◇◇


それから数日……

ルナは、俺に対して、何かにつけてスキンシップを取るようになっていた。

何かにつけては腕を絡ませたり、抱きついたり、何だか親離れできていない子供を思わせる感じだった。

まあ、俺としてはそんな無邪気なルナも可愛いので良いのだけれど。


そして、ジャハト村を立って1週間……ハヤトとルナは、何とかシルヴァ大樹海を抜ける事に成功していた。


道なき道を木々の間を縫うように進むのは思いの他時間が掛かっていた。

当初は、5日程度で抜けられると思っていたのだが、実際、通ってみると、魔物や魔獣の密度も高く、コースどりも困難な渓谷があったり、絶壁があったりで、かなり時間が掛かってしまっていた。

魔獣は、狼系の『ヘルハウンド』が最も多く、樹海の中心地には上位撞の双頭の『ダブルヘッド・ヘルハウンド』も存在していた。

次に多かったのは昆虫系の魔物で『デス・マンティス』という体長1.5m近い巨大な蟷螂の魔物で、俊敏な動きと、風属性魔法を纏った鎌攻撃が厄介だった。

その他、昆虫系が盛りだくさん、体長1mの毒蜘蛛『ビック・ポイズンスパイダー』や麻痺のリン粉を振りまく『コールド・モス』。


そして、一番強かったのが熊の魔獣の『ブラッド・ベア』、コイツは熱攻撃系に態勢があり、急所でなければ、ルナの『高電圧粒子ビーム』に絶えたの体力には驚かされた。


まあ、結局、『ライトニグ』で麻痺させた後、俺のガンソードの振動剣で切り裂いたので問題なかったが。

その他、細かい魔物、魔獣を避けたり、撃破しながら、なんとか、1週間かけて、樹海を抜けたのだった。


俺は樹海が切れ、地平線の彼方まで砂丘で埋め尽くされた、『ビナ砂漠』見て、思わず呟いた。

「はぁ~、やっと樹海を抜けたよ!疲れた~」


「お疲れ様です。マスター」

『ラウンド・バード』に乗った俺の背中からルナが顔を出し、労いの言葉を掛けてくれた。


「ああ、でもルナは疲れて無いのか?」

「私は、殆どこの鳥さんの防御に徹してましたし、後は離れた場所から『圧粒子ビーム』を撃っていただけですから……それに肉体構造上、疲れとは殆ど無縁なんです」


「そうか……まあ、そりゃ便利ちゃ便利だな」


そう、戦闘に関しては、ルナには、この『ラウンド・バード』の防御に徹してもらっていた。

何せ、俺達の大事な足だ。

『アルカナ・ナイト』での移動は目立ちすぎる。

でも徒歩だと長距離移動はキツイ。

それを考えて『ラウンド・バード』を死守するのを最優先にしていた。


そして、俺達は改めて『ビナ砂漠』を見た。

見渡す限りの砂丘の連なり……ここからは、魔獣の出現もしく無いが、水や食料補給などまったく出来ない砂漠地帯が続くことになる。

しかし、俺達には『アルカナ・ナイト』の『次元収納ディメンション・スペース』があり、2人では食べきれないほどの水と食料があるのは幸いだった。


俺は『アルカナ・ナイト・マスター』の補助機能の包囲確認を行う。

これは、方向を視界の端に表示する機能だ。


俺は北をを確認すると、早速、『ラウンド・バード』を北に向け歩み始めたのだった。


◇◇◇◇


 『ビナ砂漠』を進み始めて1日たった。

ジャハト村より北に位置するこの『ビナ砂漠』は本当なら少し寒いぐらいのはずなのだが、日中は40度近い暑さになり、日が暮れると今度は氷点下まで温度が下がる過酷な環境だった。

初日から、その温度差を体感し、俺達は辟易としながら歩を進めていた。


本来、暑い所が得意でない『ラウンド・バード』は既にヘタリ気味だったので、俺達も『ラウンド・バード』に乗らずに、手綱を引く形で進んでいた。

その為、当初予定していた『ビナール王国』にはこのままだと、どのくらい掛かるか検討が付かない状態だった。

俺達は兎も角、『ラウンド・バード』がかなり疲弊していたので、砂漠二日目にして、進路を一路、東に取り直した。

東に進めば、大陸の海岸沿いとなり、そこそこ漁村なども点在しているし、海風によって、砂漠の真ん中を進むよりかなりましなはずだ。


まあ、漁村は、『シルヴァ共和国』とも交流があるので、あまり立ち寄りたくはなかったが、ここは背に腹はかえられない。

俺達は遠回りになるが、少しでも、進みやすいルートを進む事にしたのだった。


東に進路を取って、数時間……時刻はもうすぐ12時、そろそろ昼食を取ろうと日陰になりそうな場所を探していた時、突然、かなり前方から轟音が鳴り響いた。


俺とルナは、顔を見合わせると、即座に目の前の砂丘を登り、辺りを見渡す。

すると、数キロ先に『ギガント・ナイト』が失疾走をているのを確認した。

『ギガント・ナイト』は4機、3機の砂漠仕様の茶系の迷彩柄の機体が、1機の真っ白な機体を追っているようだった。

追っている3機の手に魔砲が確認できる。

恐らく、火系の魔法を放つものだろう。

それを確認すると、追っ手の1機から魔砲が放たれた。

白い機体は寸での所で、それをかわす。

途端、かわす前の地面が盛大に弾けて辺りに爆発音が再び鳴り響いた。


俺はそれを見ながら呟いた。

「……あれは、『ビナール王国』の『ギガント・ナイト』だな。

以前、じっちゃんと一緒に行った時に見たことがある。

白いのは近衛騎士団の機体だったはずだが……」


そんな事を言っている間に、白い機体の足元に魔砲が着弾し、機体が傾いた。

白い機体は、左腕に抱えた何かを庇うように、砂漠に膝を付きながら、

機体が転がらないようにその場に蹲る。


それに対し、追っていた迷彩柄の3機が取り囲んだ。


すると、ルナが「あっ!」と声を漏らした後、白い機体を指差した。

「マスター!あの白い機体、左腕に女性を抱えています!」


人工精霊の視力は、自在に望遠して見ることが出来る。

俺も言われて、『アルナナ・ナイト・マスター』の機能で、望遠を発動し、よくよく白い機体を確認してみた。

白い機体の左腕には確かに女性が抱えられていた。

女性はここが砂漠なのにも関わらず、青を基調としたドレス姿で、黒髪で黒目……そして耳が尖っていた。

恐らく、エルフかハーフエルフだろう。

だが、エルフは、色素が薄い者が多いので、あの黒髪は、十中八九、ハーフエルフだろう。

『ビナール王国』でハーフエルフと言えば、普通人の国王と第一夫人のエルフとの間に出来た、第一王女が有名だが……まさかな?


そんな事を考えているとルナが心配そうに、俺を見つけている事に気が付いた。

「……マスター、どうします?」


俺は、一瞬考えた後、立ち上がり、ルナに告げた。

「助けよう!理由は解らないが、どう見ても、追っている連中の悪そうだ。

『ザ・タワー』を起動してくれ」


ルナは、頷き、俺の横に立ち上がる。

「了解です。マイ、マスター」


ルナは直ぐに、砂丘から降りると、両手をその場についた。

すると、あっという間に魔方陣が出現し、『ザ・タワー』が魔方陣からせり上がってくる。

『ザ・タワー』は肩膝を付くと、右手を下げる。

俺と、ルナは、その手に飛び乗る。


俺は、『ラウンド・バード』に振り向いて、声を上げた。

「お前は、そこで待ってろ!直ぐ戻るから大人しくしてろよ!」


すると、「解った」と言った感じで『ラウンド・バード』は「クワァ!」と一声鳴いて、その場に蹲った。

さすが軍用に飼いならしてあるだけに、頭が良い鳥である。


俺は、その姿を一瞥した後、『ザ・タワー』の胸部ハッチに手を翳した。

ハッチは「ウィーン」といった作動音を上げて上にせり上がり、胸部の操縦席を顕わにする。

まず、ルナが飛び込み、座席裏の直径1mの黒い球体に手を触れる。

触れた瞬間、ルナの身体が輝き、一瞬で姿を消した。

ルナが『ザ・タワー』と融合フュージョンしたのだ。

続いて、俺が座席に乗り込む。

操縦席の手を置く部分にあるリンクジェルに手を突っ込む。

すると、頭部を覆うヘルメットが降りてくる。

胸部ハッチが閉まり、視界が一瞬暗転すると、直ぐに『ザ・タワー』の視界が広がった。

俺は『ザ・タワー』を立ち上がらせて、ルナに武装の準備を指示した。


「ルナ!『スナイパーライフル』と対『ギガント・ナイト』用鉄鋼弾!

それと、念のため、近接戦闘に備えて、『高周波ブレード』の『月風』を装備!」


「イエス、マイ、マスター。

鉄鋼弾装備のスナイパーライフル及び、月風を転送します」


すると、『ザ・タワー』の腰に魔方陣が現れると瞬時に『ザ・タワー』の大きさに見合った大太刀『月風』が装備され、中空に魔方陣が現れると、『アルカナ・ナイト』サイズのライフルが降りてきた。


俺が何故、『バスター・ライフル』でなく、『スナイパー・ライフル』を選択したかというと、敵との距離がそれ程離れていなかったのと、敵の装甲が『オーランド帝国』ものより薄いと判断した為だ。

ならば、エネルギーをあまり食わない実体弾の方が良いだろうと判断しての選択だった。


俺は、ライフルを掴むと、砂丘の上まで、一気にジャンプし、即座に迷彩柄の『ギガント・ナイト』に銃口を向けた。


先にも上げたが、『ビナール王国』の『ギガント・ナイト』は先に戦った『オーランド帝国』の『ギガント・ナイト』より装甲が薄い。

これは、砂漠での移動を考慮してのものだ。

あまり機体が重いと、砂に潜ってしますのだ。

そして、砂に潜らない工夫として、『かんじき』のようなものが足に付いていて、かんじき自体に浮遊素材が使用されて、砂に潜らないようになっているというのを以前聞いたことがある。


俺は、3機の『ギガント・ナイト』の中でも装甲の薄い、足の間接部に狙いをつけた。

意識した箇所に自動でターゲットマークが付いた。

ロックオンのセッティングの表示が付くと、ルナのアナウンスが響いた。

「目標6……ターゲットロック。

発射準備完了。」


俺は、それを聞くと、一気に、6発の銃弾を連続で、発射した。


「ガアァァン!ガアァァン!ガアァァン!ガアァァン!ガアァァン!ガアァァン!」

と6回の轟音が鳴り響く。


鉄鋼弾は5km先の『ギガント・ナイト』の膝を狙いたがわず破壊した。

3機のギガント・ナイトは不意の攻撃に為すすべなく、膝から崩れ落ち、無様に前のめりに倒れる事となった。


俺は、一気に、『ギガント・ナイト』の眼前まで、機体をジャンプさせると、ライフルを隊長格とみられる、角のついた機体に突きつけた。

そして、機体外に音声を出し、言い放つ。

「投降しろ!さもなくば破壊する!」


◇◇◇◇


 手を上げて機体から出てきた3人の兵士を『ザ・タワー』の前に集めた所で、ルナに、ナノ・エナジーの障壁を3人の兵士を中心に張って貰い。

外が確認出来ないように真っ黒にして貰う。


中の兵士達が何か叫んでいるが取合えず無視した。


俺とルナは機体から降り、今度は、白い機体に歩み寄った。

白い機体は、膝関節が故障しているらしく、肩膝をついたまま、身構えていた。

俺達が近づいてくると、操縦者が、誰何の言葉を発してきた。


「……き、貴様等は何者か!」


俺は、その良い方に少しカチンとくるものがあったが、冷静に応答した。


「俺達は旅の者だ!おたくらが困っていた様だったんで助けたんだが?迷惑だったか?」


俺の返事にどう応えるべきか迷っているのか、静寂があたりを包む。

すると、鈴の音を思わせる声が返事を返してきた。

それは、『ギガント・ナイト』の左腕に抱えられていた黒髪の少女のものだった。


「ローラ!助けて頂いた方々に失礼ですよ!」


「!!はっ!申し訳ありません姫様!」


「では、ローラ。私を下ろしてくださる?」


「?な……目の前には得体の知れない者どもが…『ローラ!』」


「……畏まりました」


操縦士は、主人からの叱責で押し黙ると渋々といった感じで、『ギガント・ナイト』の左腕を下ろした。


黒髪の少女は、腕から、そろそろと降りてくると、真直ぐ、俺を見つめて、ドレスの端を摘んでお辞儀をして挨拶してきた。


「危うい所をお救いいただき、ありがとうございます。

私は、『ビナール王国』第一王女、『ユリカ・ビナール』と申します。

以後、お見知りおきくださいませ」


長い黒髪と黒曜石を思わせる黒目の顔立ちの美しい姫は、俺達にそう挨拶してきたのだった。


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