プロローグ
新作です。
以前、リーンカーナーションサーガという作品を書いていました。
そちらを御読みで無い方は、是非そちらもお読み頂けると幸いです。
宵闇の中、大樹海の上空を黒塗りの飛空船が飛行していた。
この飛空船はこの大陸の南方にある国家……『オーランド帝国』の紋章を船体に刻んでいた。
そうこの飛空船はオーランド帝国の輸送用飛空船なのだ。
ただ、この飛空船が現在飛んでいる大樹海は隣接する『シルヴァ共和国』の領域では
あったが……
飛空船の船内は現在、蜂の巣を突付いた如く騒々しかった。
「船内の状況はどうなっている?!」
船長と思わしき人物が他の船員をがなり立てる。
「……動力機関、急速に出力を低下しています!」
機関部担当の船員が悲痛な叫びを上げながら報告した。
「……いったいどうなっているのだ!
こんな場所(敵国内)では不時着もままならんぞ!
何とか、国境を越えるまで持ちこたえろ!」
「ですが!!どうやっても魔力炉の出力の低下が止まりません!
まるで、何か魔力を吸い取られているかのようです!
このままでは数分を置かず機関が停止します!!」
「我々は現在最重要機密を輸送中なのだ!
なんとしても、これを送り届けなければ……」
船長が奥歯を噛んで、そう呟いた其の時、
突如、船首が傾いた。
「何をしている!
舵を戻せ!」
「舵が効きかません!
制御不能です!!」
船体は無常にも船員達の叫び声を飲み込み急激に落下していく。
そして船体は大樹海に飲み込まれ、飛空船は、大爆発を起こすのだった……
◇◇◇◇◇
その日、俺こと石動 隼人イスルギ・ハヤトは、
早朝から薬草を取り行く為に大樹海の中を歩いていた。
大樹海といっても、俺にとっては行きなれた場所だ。
俺の家は、『シルヴァ共和国』の辺境の村、『ジャハト村』にある。
ジャハト村は人口100人程度の小さな村だ。
『シルヴァ共和国』の最東端にあって、『シルヴァ大樹海』に接している。
所謂、開拓村だ。
俺の家はそんな開拓村で唯一の治療院をしている。
辺境なので、医療物資は滞りがちと言う事もあり、俺はこうして、
暇を見つけては薬を作るための薬草を現地調達しなければならなかった。
治療院の魔法医は俺の祖父、石動早雲イスルギ・ソウウン只一人だ。
魔法医とは、魔法を用いて医療行為を行うものを指すが、
祖父の使う医術魔法は、通常の治癒魔法と少し違う。
祖父の医術魔法は、魔術での治癒だけでは無く、外科手術や薬草も併用して、
治療効果を上げる特殊なものだ。
治療魔術は、傷や状態異常を直すが、腫瘍などの治療は出来ない。
腫瘍などの場合は治癒魔法を掛けると返って病状が進行してしまう場合があるのだ。
そういった場合、腫瘍を切除する必要があるのだが、普通の治癒術師は切除行為は行わない。
最悪、大雑把に腫瘍と思われる範囲を切り取ってから治癒術をかけるぐらいだ。
そこを行くと、祖父の治療は身体操作魔術で病巣を把握し、確実にその箇所を切除し、
治療を行い、回復を促進する為に薬草も使うといったものだった。
この方法は、国の中央の治療師会から異端とされ、正式な治癒術としては認められなかった。
その為、祖父は国の中央から離れ、一人、辺境で、自分の医術魔法の研究をしてる。
まあ、俺もそんな祖父に医術魔法を学んでいるので、
俺も魔法医と言えなくも無いが、
祖父曰く、まだとてもいっぱしの魔法医とは言えないとの事だ。
ちなみに俺の両親は俺が幼い時に病気で他界したらしい……
俺には両親の記憶は無く、物心ついた時には既に祖父と二人きりだった。
俺はそんな祖父に師事して、魔法医を目指している。
俺も今年18歳となる、本当なら、そろそろ世間ではひとり立ちしてもいい頃だ。
ここ『シルヴァ共和国』は、基本的に6歳から15歳まで学校で学び、
その後自分に合った職業へと就くのが普通となっている。
それは、治癒術師も変わらない。
治癒術師は基本、中級の治癒魔術が出来れば、
治癒術師として『魔法医』を名乗って、良いことになっている。
当然、俺は中級どころか、上級の治癒魔法が使える。
が……なぜか祖父に『魔法医』を名乗って良いという許可は下りていない。……
俺も15歳までは学校というか、ジャハト村の分校に通っていた。
分校時代も分校の普通の勉強の他に祖父に魔法医術を学んでいたが、
卒業後は、みっちり祖父に薬草学と、護身術の魔古武術……石動流魔古武術を学んでいた。
これは、大樹海で薬草採取をするにあたり、身を守るのに必須だったからだ。
薬草学は自分で薬草を採取する為、そして護身術の魔古武術は、医術に使用するのと、
樹海の魔物や魔獣から身を守るためだ。
この『シルヴァ大樹海』は、魔物や魔獣が結構生息している。
魔物や魔獣はその肉は食料になり、毛皮などは衣類の材料として重宝されるが、
かなり強力で、凶暴なので好んで魔物や魔獣を狩るものは少ない。
まともに対応できるのは魔物専門のハンターぐらいだろう。
だが俺には祖父に学んだ、魔古武術がある。
魔古武術は、体内の魔力を操作し、自分や敵にある種の状態異常を引き起こす。
医術の悪用ともいえる身体操作系魔術と体術を混ぜたものだ。
これは、魔力で身体を強化している魔物や魔獣にも有効だ。
自分には身体強化を施し、敵に状態異常を掛ける。
その結果、敵は魔術を無効化され、こちらは、魔術で強化された状態で戦闘が出来るのだ。
その習得の難しさから、使い手は今は殆どいないらしいが。
まあ、そんな訳で、俺は日課になっている、薬草採取の為、
薬草のありそうな場所へ向かっていたのだが……
俺は樹海内の気配にふと違和感を感じていた。
どうも、何時もより樹海が騒がしいようなのだ。
俺は不振に思い、感覚強化魔法【インダクション】を発動し、樹海内の気配を探る。
すると、北西の方角から何かの小規模な破裂音が聞き取れた。
俺はそれを確認すると、身体強化魔法【ストレングスニング】で、勢い良く垂直にジャンプした。
俺は軽く10m程飛び上がり、北西の方角を確認する。
するとここから数キロ先に煙が上がっているのが確認できた。
俺は、着地するとすぐさま、煙の上がっていた方角に駆け出した。
『火事か?でも爆発音もしていたが……
取り合えず確認して見ないと!』
俺は木々の間を猛スピードで進むのだった。
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