第78話 目的③
轟音が聞こえてから数秒。数にして2秒も経っていない刹那の時間で雨が降った。
勿論いつもの綺麗な雨ではなく鉄の匂いがする赤い雨だ。
雨の日特有の匂いではなく鉄の匂いがする。
何が起こった?
それと同時に凄まじい焦げ臭い匂いが充満した。
俺ら3人が倒れているのを回復しようとして術式を詠唱した後衛の魔法師部隊、時間を稼ぐために放たれる攻撃魔法を詠唱する中衛の魔法師部隊、その殆どが死んでいたのだ。
ふざけている120人近く居た部隊の100人以上が焼けて、切断されて死んでいる。
殆どは足だけがそこに残り、倒れている。
上半身は原型を留めないような形にバラけている。
その殆どが爆発したように切り口が雑でまるで鉄の棒で雑に砕いたスイカのようだ。
それに切り口は焦げてまるで切断する瞬間に爆発でもしたようだった。
実際フラムは手に地面に垂れた馬鹿みたいに長い鞭を持っている。
その鞭は周りが火で覆われており地面すらも焦がして、溶かしてめり込んでいる。
溶かされて型に流された鉄のように。
フラムは笑っている。
酷いざまだ。後ろにいた回復魔法師10と少し、そしてフラムの周りにいる俺達、そして部隊の中にいた【赤】階級冒険者2人。
足して20人ほどしか生きていない。
次で確実に死ぬ……そう思ったのだが……
「……ひぁ!」
フラムの目線の先には1人の少女が転んで倒れている。
短い髪の毛を頭の上で結んでいる。
小さな靴を履き大きな靴を手で持っている。
恐らくそこで死んでいる女性の物だろう。
その子を頑張って起こそうと兄のような男の子が腕を引っ張っている
逃げ遅れたのか? なぜまだここに……。
だめだそんな所にいては君までも殺されてしまう。
立て! 立て俺! 助けるんだろ?!
人を助けたくてこの町で冒険者やってるんだろ?!
実力を認められた俺がここで諦める訳にはいかねぇんだよ!
その時から不思議と体に力が入った。
その根源はどこからかは分からない。
だが不思議と全身の痛みが消えて立つ力が湧いてくる。
助けろ……助けろ……助けろ!
足に力が入った瞬間フラムもその鞭を大きく振る。
だが先程のように早くて見えないわけじゃない。
遅い。
何故か世界が遅く進んでいる。
目の前には『思考加速』の文字。
新しいスキルか。
動体視力を底上げできるスキルらしい。
これがこの遅く世界を作り出しているらしい。
ただ、遅い世界では俺の体も遅いままなので目の前の2人に鞭が届きそうなのが目に見えた。
しかし俺はそれを予知し早く動けていた為、鞭から彼達を守れそうだ。
……俺の体を犠牲にして。
助けられてもその後に俺の肉体が鞭で砕かれる。
腕に2人を抱えて飛んでいる時、鞭が俺に向かって飛んできているのが分かった。
まずい死ぬ……。
俺はできるだけダメージを減らす為魔力で肉体を固た。
もう動けなくなるほどに消費して。
そのお陰か鞭は衝撃だけで済んだ。
その後ものすごい痛みを伴った為意識を飛ばしてしまった。
魔力が切れていたのも要因の一つだろう。
まるで深い眠りに落ちるように一瞬で暗い世界に入った。
(早く……早く…て……)
誰だよお前。
目の前はまるで画用紙のように真っ白で何も無い空間が広がっている。
特に眩しいわけでも目が痛くなる事もない、ただひたすらに白い世界がそこには広がっている。
その中心で黒い玉のようなものがプルプルと動きながら音を発している。
見知らぬ声だ。
まるで俺を起こさせるような声……だが何を言っているか分からない。
その黒い玉は次第に俺に近づいてくる。
何をしようと言うのだ。
近づくにつれ大きくなる黒い玉の声。
早く起きて! と言っている。
俺に? 俺は起きて……
「っ!」
その瞬間目を覚ました。
今のはなんだ?
やけに心臓が早い。
そして脈の一つ一つが大きくて胸に手を当てて無くても心臓の動きを認識する事が出来た。
目の前では二人の子供が転んでいて立とうとしている。
共に鈍い金属音が聞こえる。
後ろではリーフル達がフラムと応戦している。
そうだ、俺達はフラムと……。
戦闘中に意識を失うなんて……何分意識を失っていた?
周りの状況を見るに数秒。
普通なら何日も眠っていてもおかしくない。
現に俺は体を動かす事が出来ない。
魔力なんて微塵も回復していない。
体の傷も痛む。痛すぎる。
「大丈夫ですか?! ティアさん!」
誰だ?
首を曲げることすら出来ない為後からかけられたその言葉に反応できない。
「回復魔法をかけます! ……『回復』!」
体から少しづつ痛みが消えていく。
回復魔法……さっき生き残りを見た様子から恐らくガイラが回復魔法をかけてくれたようだ。
体の傷が癒されるのと同時に少しづつ魔力も回復していた。
まだ完全に戦えるほどではないが体は動かせる。
少し無理をしてでも戦え!
ディルガとレインが来るまでの……何分かかる?
どこにいるのかも分からない。今この状況を知っている可能性も薄い。
そんな今ディルガが来ることに期待する時間なんてない。
俺たちで今を凌ぎ対処するしかない。
でもどうやって?
もう20人も残っていない。
俺が気を失っていた数秒の間に10人は死んだ。
もう10人も残っていない。
せいぜい【赤】階級の冒険者、そしてガイラ。
ガイラがどうやって生き残ったかは知らないが……そして小さな男の子と女の子。
言い方は悪いが荷物を2つ抱えた状況で今を打開することなんて……絶望的だ。
地面、壁、空までも、その全てが仲間の血で染まり地獄を演出している。
これで倒せるかよ……。
リーフルとスーニャが2人で入れ替わりでフラムに攻撃しているが有効打にはならなそうだ。
俺も入らないと……立て……立て!
ヴェルムもジャンも立てない。
気を失っている……いや……あれ死んでる。
完全に魔力がきれて防御壁を作る事も出来ずにフラムの攻撃を受けたのだ。
体はプレスされたように潰れている。
……だめだ……いや!……諦めるなぁ!!!
俺は手に持つ斧を杖のように使い起き上がりそう叫んだ。
こっからは俺も再参戦だ。




