第69話 過去③
「あはははははははっ」
母さんが優しく微笑む。
隣では父さんが母さんの肩に手をおき一緒に笑っている。
そして2人の前にはエルがたっている。
皆が笑顔だ。
とても幸せな……幸せ……し……。
その瞬間から少しづつ夢が崩れていく。
やがて何も無い空間が広がる。
「はぁっ!」
(夢か……)
夢を見ていたようだ。
今日で11歳になった。
訓練を初めておよそ2年。
今でも妹や両親の夢を見る。
まだ4時か……もう一度寝るか……。
「どうした? アルマ……」
どうやら起こしてしまったようだ。
寝ぼけた声が耳に入ってくる。
訓練兵は寮生活が続いていて、共同の部屋で二人づつ暮らしている。
俺は初め勇者として殺されてはならないので個人部屋にすると言われていたが、俺が拒絶した事によりこいつとの共同生活が始まった。
俺が部屋をシェアしているのはジェノ。
サラサラの茶色い髪の毛の青少年だ。
寝起きで芸術的な寝癖の彼が俺に話しかけてきた。
「ははっ、すまん起こしちまったな。ちょっと悪い夢を見ててな……」
「そうか……まだ時間あるけど寝るか?」
「あぁ2時間はでかいからな」
「そうか、おやすみ」
「うん」
俺たちはもう一度ベッドに入った。
自分の体温で温められた布団は温もりがあり気持ち良かった。
俺たちが起床するのは6時。
兵のくせに遅めだという人も数多くいるが、夜遅くまで周回や訓練などと忙しい我々にとっては貴重な睡眠時間だ。
俺はまた眠りに落ちた。
明日、いや今日の辛い訓練のために。
───1年後
あれからまた1年が経過した。
この1年は一切魔法に触れなかった。
剣術の修行の1年だった。
過去の事のように語っているが、まだまだ今年も恐らく来年もこの調子で剣術の修行だろう。
こと1年では『切断者』、『未来予知』、『物理攻撃無効』の3種のスキルを会得した。
『切断者』は魔力を絞り速度を付与し対象を切断するスキル。
『未来予知』は1秒から3秒後の未来を予知することが出来る。
『物理攻撃無効』は対象による物理攻撃を無効化するスキル。
これらのスキルを会得しさらに俺は強くなった。
だがまだ足りない。
こんなんじゃ魔族には勝てない。
───1年後
…………。
言葉を発する気力もない。
13歳。
前世ではもう中学校に登る歳だ。
まだまだ若いこの体はよく動く。
体も成長期に入り、体、精神、筋力、持久力、魔力など様々な事が成長していく。
魔力総量も増えていきスキルを自由自在に使えるようになった。
自主練として魔法を放つ事を許されているので魔法の練習を最近また始めた。
もちろん剣術に支障の出ない範囲でだが。
結局年末までに会得したスキルは『属性付与』、『剣豪』、『剛力』の3つ。
武器に属性を付与する『属性付与』。
剣本体、剣術の強化を行う『剣豪』。
純粋な筋力を倍増させる『剛力』。
それからも俺はどんどんとスキルを会得していった。
それにつれ精神を蝕むような感覚に襲われた。
やがてジェノとも話さなくなった。
同じ部屋にいるのにジェノが起きる前に起きて魔法の自主練。
そして夜遅く、ジェノがもう就寝した夜中の時間に帰る。
もう話さないというか話せない感じだった。
ある日、夜遅くに帰ると、
「久しいな。ずっと同じ部屋にいるのに話せてなかったよな。最近どうだよ?」
よく寝るジェノが起きていた。
ジェノの目は細々としか空いていなく、随分眠そうだ。
「疲れたんだ。構わないでくれ」
俺は冷たい態度で返してしまった。
別に当時やりたくてやった訳じゃない。
ジェノも分かってくれているはずだ……。
「そうか……勇者様はお忙しいんだな……おやすみ……」
その日からはジェノが起きてくることは無くほぼ顔を合わせない日々が続いた。
俺とジェノはクラスが違うので訓練でも会う機会なんてなかった。
───3年後
16歳。
前世なら高校に入学する歳だ。
この歳にもなればスキルも取りにくくなってきた。
実際ここ3年で取ったスキルは3つ。
他の人と比べると会得速度はまだ異常らしいがこれまでのペースを考えるとやはり落ちた。
『身体能力強化』が会得したスキル。
『剛力』のように身体能力を強化することのできるスキルだ。
あと二つはと言うと『勇者』の中に内包されるスキルが2つ増えた。
元々内包されている能力は、
・『貫通』
対象の魔法を無効化し攻撃を通すことが出来る。
・『剣者』
あらゆる剣への適合を得る。
調整を行わなくても魔法を付与可能。
・『逆境』
自分の魔力が少なくなる程1魔力の威力が増えていく。
これにプラスで
・『壊変』
世界で起こりゆる万現象の運命、物質を壊変する。
どんなに強固な結界でも破壊可能。
・『再生』
体の傷を自動で治す。
魔力の消費スピードで回復速度が変わる。
この2つだ。
俺は勇者として順調に成長しているはずだった。
国王もよくやったと話す度言ってくださった。
ある夏の日1週間だけの休日をもらった。
俺は祖父のいる実家に向かった。
その日はあの日のように晴れた快晴の日で、何故か嫌な気分になった。
こんなにも気持ちの良い晴れなのに。
強くなった俺を見て祖父は喜ぶと思っていた。
なのに……
「お前……本当に……アルマか?」
「そうだよじいちゃん、強くなったよ」
じいちゃんはそこで立ちすくむばかりで何も発さない。
ただそのに農業に使う鍬を置いて立っている。
「ん? どうした?」
俺はじいちゃんに声をかける。
「お前……大丈夫か?」
「え?」
思いもよらない言葉が帰ってきた。
予測ができない故に驚いてしまった。
訓練では『未来予知』や『思考加速』により未来予知が分かり相手がスローになるから動きを完全に予知できていた。
だが、じいちゃんの言葉までは予測できなかった。
それからじいちゃんは目指している方向が会っているのかと聞いてきた。
俺はそれが1番いい道だと思っていたからじいちゃんを、拒絶してしまった。
今になると我ながらアホな事をした気がする。
勿論ハンセしている。
しかしこの時は俺が正しいと思い込んでいた。
結局その1週間も魔法の訓練に費やしてしまった。
───1年後
王様から勇者として初の任務があると報告があった。
任務内容は国を囲む海に現れた装甲型大鮫の退治だそうだ。
装甲型大鮫は硬い甲羅に覆われた鮫で、漁船が襲われて被害が出た為もう出さない為に軍隊を送ったが、軍隊は全滅。
最後に念話で伝えられた言葉は (足りない) それだけだったそうだ。
それで俺が送られたわけだ。
こんな事に勇者を使うか? とも思ったが、漁業が失われるのはやばいということで、勇者とその他20人兵が集まった。
「基本的に勇者の生存を最優先に考えろ!」
と命令が出ていた。
だが俺は戦いたくて仕方なかった。
自分よりも大きな獲物との戦闘がしたくてたまらなかった。
「よし! 明日は俺が先陣をきる! みんなは後ろから支援魔法の詠唱をしていてくれ!」
前日の最終準備。
20人の兵が規則的に並ぶ所に俺が言葉を吐く。
本当に自己中なのは分かっている。
だが強い生物とどうしても戦いたいのだ。
次の日、海にでた。
俺を先頭に後ろに5人4列で並ぶ兵。
このまま俺は海へ向かった。
海へ着くと初めは特に何もいなかった。
水平線の上に大きな積乱雲が乗っかっている。
だが夏の風景に見とれる隙もなく、直ぐに装甲型大鮫が水面からでてきた。
その姿は本で見た通りで大きな装甲が身を包み、大きなヒレを動かしている。
目は赤く光っていて鋭い眼光が俺たちを睨み続けた。
後ろにいる兵達は足がすくみ上手く立てていない奴やその恐ろしさに気絶する者、口を開け呆然とするしかない者とそんな奴ばっかりでまともに戦える状況じゃない。
もの凄い水しぶきを上げこちらに飛びかかってくる装甲型大鮫。
俺は背中に背負っている剣を抜く。金属が擦れる音と一緒に俺は装甲型大鮫に向かって歩き始める。
瞬時に『身体能力強化』と『剛力』を同時使用して『飛翔』で装甲型大鮫の目の前に移動する。
『属性付与』で魔剣に風属性を付与する。
風属性の付与された魔剣を降ると装甲型大鮫は呆気なく飛んで行った。
だがまだまだ息は残っている。この魔法でとどめを刺す。
「『星炎』!」
俺は1度も使ったことの無いスキルを使用した。
目の前には少し大きめなバランスボール程のサイズの恒星のような物が現れた。
『星炎』で生み出された恒星はオレンジ色の光を放っている。
膨大な熱エネルギーと光エネルギーが、場を囲んだ。
俺は魔力を操作し恒星を前に押し出した。
凄まじい速さで進む恒星は吹き飛ばされた装甲型大鮫との距離を一瞬でつめ体に大きな風穴を開けた。
貫通したあとすぐに『星炎』を収束させるエネルギーを無くし爆発を起こさせた。
その圧倒的な爆風と熱はその場で装甲型大鮫を焼き尽くした。
海の表面の海水は蒸発してその場がまるで霧に包まれたかのように白く明るくなった。
「すっ、」
「「「すげぇぇぇぇぇぇ!!!」」」
後ろかは兵達の歓声が聞こえる。
だがそんな立派な歓声に値する事はやっていない。
こんな弱いのと戦って何が楽しいんだよ……。
この時の俺は3年後あんなに強い奴と戦えるなんて思ってもいなかった。
アルマスキル
〇常用スキル
・『物理攻撃無効』・『思考加速』
・『魔法強化』
〇固有スキル
⚪『勇者』
・『貫通』・『剣者』
・『逆境』・『壊変』
・『再生』・『蘇生』
〇スキル
・『収束放火』・『星炎』
・『厭陽発光』・『黒風』
・『飛翔』・『未来予知』
・『切断者』・『属性付与』
・『剣豪』・『剛力』




