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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第二章

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83/206

69 それから

ブクマ&評価&誤字報告ありがとうございます!


 スライムの森で意識を失った後、周りの人達は、それはもう大慌てだったらしい。

 幸い、その場に師団長様がいたので、私が意識を失った原因はすぐに判明した。

 私が意識を失ったのは、限界までMPを消費し、枯渇させてしまったからだそうだ。

 そのため、MPが少し回復したところで、目が覚めた。

 気付いたら団長さんに抱えられていたので、物凄く慌てた。

 だって、起きたらお姫様抱っこですよ?

 慌てるでしょ!


 すぐに下ろしてくださいと言ったものの、中々下ろしてもらえなくて困った。

 師団長様にまで「心配を掛けた罰ですよ」と麗しい微笑と共に言われてしまえば、あまり強くも言えない。

 結局、その後十分くらい、お姫様抱っこで運ばれることになった。

 十分で済んだのは、偏に私の精神が持たなかったからだ。

 必死にお願いして、下ろしてもらった。


 村に戻ると、領都へと向かう準備が整っていた。

 残っていた人達が準備してくれていたらしい。

 私の我儘のせいでお手伝いできなくて申し訳なかったので、道中の食事の準備は頑張った。


 そうして領都に到着し、団長さんや師団長様、そしてレオさんと一緒に、無事に黒い沼の浄化が終わったことを報告した。

 レオさんから黒い沼の周辺の様子を聞いた領主様は、やはり少し気落ちしているようだった。

【聖女】の術を使ったので、レオさんが見たときよりも、今は少しはましになっているかもしれない。

 けれども、そのことを領主様には言えないので、黙っておいた。

 その場にいた、コリンナさんにも同様だ。


 とはいえ、黒い沼を浄化したことにより、以前よりも格段に魔物は減った。

 それは森を再訪したときにも実感したことだ。

 恐らく、この後、コリンナさん自身が実際に森の様子を確認しに行くことだろう。

 そのときに、森がどこまで回復しているか、コリンナさんの目で確かめて欲しいと思う。


 領主様への報告が終わると、後は王都へと帰るだけだ。

 そして、予想通り、領主様から討伐に参加したお礼として、宴席が設けられることになった。

 スライムの森近くの村で行った宴とは規模が段違いで、私も遠慮なく準備に参加した。


 予想外だったのは、準備にアイラちゃんも参加してくれたことだ。

 日本にいた頃は偶に自炊していたらしく、いい戦力になった。

 また、日本で食べた料理のことをワイワイと話せたのは、とても楽しかった。

 王都に戻ってからも一緒に料理をしようと約束したわ。


 王都で流行りの料理も並んだとあって、宴席はとても賑やかなものとなった。

 宴の翌々日には王都に帰るということもあり、仲良くなった傭兵さん達にも別れを惜しまれた。



「世話になったね」

「いえ、私の方こそ製薬について色々と教えていただいて、ありがとうございます」



 あっという間に二日経ち、クラウスナー領を発つ日が来た。

 出発前に団長さんと一緒に領主様に挨拶をしていると、コリンナさんも見送りに来てくれた。

 コリンナさんだけではない。

 朝早くから色々な人が見送りに来てくれている。



「お前さんがいなくなると、ポーション作りが大変になるねぇ」

「そんなことは……」

「あるに決まってるだろ。あんな阿呆みたいな量を作れるのは、お前さんくらいだよ。同じ量を作るのに、一体何人の薬師が必要だと思ってるんだい?」

「あはははは」



 最後の最後までコリンナさんらしい。

 苦笑していると、耳を貸すよう手招きされた。

 何かと思い、コリンナさんの口元に耳を寄せると、コリンナさんは周りに聞こえないように囁いた。



「ポーションもだが、畑の方も感謝してるんだよ。これでまた色々な薬草が作れる」

「実は、その薬草を王都の研究所でも栽培してみたいんですけど」

「仕方ないね。後で種を送ってやるよ」

「ありがとうございます!」



 やった! これで祝福が必要な薬草が栽培できる。

 しかも、種まで譲ってもらえるのは、とてもありがたい。

 心の中でガッツポーズをしつつ、コリンナさんにお礼を言うと、呆れ混じりの笑顔が返って来た。


 コリンナさんとヒソヒソ話をしていると、レオさんもやってきた。

 いつも通り、「よう」と片手を上げるので、軽く会釈を返す。



「帰るのか」

「はい」

「気を付けて帰れよ」

「ありがとうございます。レオさんもお元気で」

「おう。まー、王都が嫌になったら戻って来な。あんたなら歓迎だ」

「何言ってるんだい。お前さんのところにやるくらいなら、うちにもらうよ」



 王都の研究所を辞める気はないけど、もしも辞めなければいけないときがきたら、蒸留室に転職しようかしら?

 そんな風に思ってしまうくらいには、ここでの日々は楽しかった。

 コリンナさんとレオさんの掛け合いを聞くのも、これで最後だと思うと少し寂しい。

 そう長くクラウスナー領にいた訳ではないけど、すっかりとこの二人にも馴染んでしまったわね。



「セイ、そろそろ」

「分かりました」



 そんな風に感慨に耽っていると、団長さんから馬車に乗るように促された。

 コリンナさんとレオさんに最後の挨拶をして、馬車に向かった。

 馬車に乗って暫くすると、出立の掛け声が聞こえ、そろりと馬車が動き出す。

 窓から外を見れば、コリンナさんやレオさん、それから傭兵さん達が手を振るのが見えた。

 彼等が見えなくなるまで手を振り返し、クラウスナー領を後にした。


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