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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第五章

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舞台裏27 兄弟の攻防

ブクマ&いいね&評価ありがとうございます!


本編163「断れないやつ」の途中、テンシャク殿下が師団長様に会いに来る前のお話です。

 セイ達が皇宮の書庫を訪れるようになってから暫くして、テンシャクの元に不穏な報告が二つ届いた。


 一つは、ユーリが皇宮内で魔法を使ったという報告である。

 現場は皇宮の内外に通じる門前で、その場には討伐帰りの兵士達もいたという。


 使われた魔法は攻撃魔法ではない。

 鑑定魔法だ。

 鑑定魔法は物の性能や価値等を判別するために利用される魔法だが、何故使われたのかは不明だった。


 事前の申請なく皇宮内で魔法を使ったとはいえ、攻撃魔法ではなかったことから、厳重注意だけで済ませても問題はない。

 ただ、もう少し詳しく調べた方がいいような気がした。

 そこで、ユーリと共にいたと報告にあったテンユウからも話を聞くことにした。


 時刻は既に夜。

 日も落ち、人を呼ぶには遅い時間だ。

 それでも、その日のうちに話を聞く必要があった。

 思うところがあったのか、テンユウも急な呼び出しに素直に応じた。



「お呼びと伺い、参りました」

「あぁ。聞きたいことがある」



 穏やかな笑みを浮かべて挨拶をするテンユウに、テンシャクも感情を見せない表情で口を開いた。



「先程、スランタニア王国の使節団が皇宮内で許可なく魔法を使ったという報告があった。相違ないか?」

(やはり呼び出されたのは、その件か……)



 呼び出された時点でテンユウは理由をある程度予想しており、テンシャクの問いは自身の予想が正しかったことを裏付けた。

 眉を下げ、殊更申し訳なさそうな表情を作り、テンユウは答えた。



「はい、その通りです。こちらからも明日報告を上げようと考えておりました」



 付け足した言葉通り、呼び出されなければ明日には報告を上げる予定であった。

 報告しないという選択肢はなかった。


 優秀な配下を多く持つテンシャクだ。

 テンユウが報告せずとも、ユーリのやらかしはいずれテンシャクの耳に入ると思われた。


 もしその際にテンユウが知っていて放置していたことを見咎められれば、困ったことになる可能性が高い。

 テンユウとしては、役に立たないと使節団に関することから排除されるのは避けたいところだった。


 ならば、なるべく早いうちに報告は上げておいた方が良い。

 提供する情報を自身で操作できるのであれば、なお良い。

 そこで、早くとも遅くともない翌日に報告を上げようと考えていた。

 考えを纏める時間が欲しかったのもある。



(明日報告を上げようと思っていた、か……。悠長な気はするが、使われた魔法が脅威ではなかったのであれば妥当か……)



 恐縮しているといった表情を浮かべるテンユウを見ながら、テンシャクは考える。

 ただ、それ以上言葉を続けないテンユウを訝しく思った。


 報告を上げる予定だったのであれば、今この場で説明してもいいはずだ。

 それにもかかわらず、説明を続けないのはどういう訳か?


 テンシャクが報告を受けた通り、魔法の種類は判明している。

 ユーリの近くにいたことから、テンユウも使われた魔法の種類を知っているはずである。

 言及がないということは、何か話したくない事情でもあるのか?


 このまま黙っていても埒が明かない。

 そこで、テンユウの考えを知るために、テンシャクは揺さぶりを掛けることにした。



「使われたのは鑑定魔法だと聞いているが」



 テンシャクの言葉に、テンユウは僅かに動揺した。

 当日中に魔法の種類についてまで届くとは思っていなかった。

 考えていた以上に、テンシャクに情報が伝わる速度が速い。


 ユーリが魔法を使ったとき、近くには自分達しかいなかったはずだ。

 もしや、閲覧室での会話をテンシャクの配下の者に聞かれていたのだろうか?

 聞かれていないのであれば、しらを切りたいところだが……。



「はい。鑑定魔法で間違いありません」



 閲覧室での会話を聞かれていた可能性を考えると、否定はしない方がいいだろう。

 苦々しく思いつつも、テンユウはテンシャクの言葉を認めた。

 けれども、それ以上の言葉を続けることはなかった。


 鑑定魔法で人のステータスが調べられるということは、ザイデラでは知られていない。

 母親の治療のために広く物事を調べていたテンユウですら、ユーリから聞いて初めて知った。


 今ここでユーリから聞いた話を正直に伝えればどうなるか?

 少し考えるだけでも、使節団にあらぬ嫌疑が掛けられそうなことが分かる。

 そう、例えば、スランタニア王国がザイデラの軍事機密を探っているとか、何とか。


 では、誤魔化すか?

 考えを巡らしたが、それは悪手な気がした。

 人物を鑑定できることは、いずれはテンシャクの耳に入りそうな気がする。

 既に鑑定魔法が使われたことまで知られているのであれば、なおさら。


 であれば、下手な嘘は吐かない方が後々良さそうだ。

 今はどう動くのが正解か?

 考えたが、すぐには答えが出なかった。



(何か話したくないことがあるようだな)



 テンシャクはテンユウの様子をじっと見ていた。

 そして、魔法の種類について言及した際にテンユウの瞳が微かに揺れたのを見て考えた。


 実際のところ、テンシャクの部下は閲覧室での会話を聞いていない。

 偶々、ユーリが魔法を使う場面を見て、使われたのが鑑定魔法だと判断しただけだ。

 一見しただけで判断できたのは、その部下が少々魔法に通じていたからに過ぎない。


 ユーリの行動に問題はあるが、まだ大きな問題にはなっていない。

 しかし、大きな問題に発展する可能性がありそうだ。

 果たして、テンユウが隠したいことは何だろうか?


 テンユウの隠し事を暴くため、テンシャクは二の矢を放った。



「鑑定魔法はショウユウに使ったようだな」



 テンシャクが【英雄】の名を口にすると、テンユウはあからさまに動揺を見せた。

 テンユウの様子を見て、テンシャクは己の考えが正しかったことに確信した。



(もしやとは思ったが、ショウユウで当たりだったか)



 テンシャクが【英雄】の名を出したのは、二つ目の報告が理由だ。

 報告というより、軍からの要望というのが正しい。


 要望を出したのは【英雄】で、内容はスランタニア王国の宮廷魔道士団師団長と模擬戦をしたいというものだった。

 正式な書類で届けられているためオブラートに包まれていたが、要はユーリと戦いたいということである。


 ユーリと【英雄】は面識はなかった。

 一体どこで【英雄】の興味を引いたのか?


 テンシャクが抱いた疑問は、テンユウの反応をきっかけに、同時に届けられた一つ目の報告と結び付いた。


 ユーリが鑑定魔法を使った場には、討伐帰りの兵士達がいた。

 テンシャクの知る軍の予定では、今日の討伐には【英雄】も参加することになっていた。

【英雄】がいる場での鑑定魔法の使用……。


 もしやテンユウが隠したいこととは、鑑定魔法を使った相手ではないか?

 そう思い付き、テンユウに鎌を掛けたのである。



(しかし、何故ショウユウに鑑定魔法を使ったのだ? 目的が分からないな……)



 分からないのは、何故【英雄】に鑑定魔法を使ったのかだ。

 テンシャクの認識では、鑑定魔法は物の鑑定に使われる魔法で、人物に使われるものだとは思っていなかった。

 故に、魔法を使った目的が分からなかった。


 ユーリが【英雄】に鑑定魔法を使った目的をテンユウは知っているだろうか?

 問うたところで、テンユウが正直に答えるかは保証されていないが、ここで問わないのも不自然だ。

 そう考えたテンシャクは、テンユウを問い正そうと口を開いた。



「お許しください! ドレヴェス殿には悪気はなかったのです!」



 テンシャクが言葉を発しようとした瞬間、テンユウは頭を下げた。

 継承順位が低いとはいえ、テンユウも皇子の一人だ。

 他者に頭を下げることはほとんどない。


 そんなテンユウの行動はテンシャクにとっても予想外で、普段は心の内を表情に出さないよう努めているテンシャクも思わず目を見開いた。



「ドレヴェス殿はただ、魔法の開発のきっかけを掴もうとしただけなのです」



 テンユウは頭を下げたまま、心苦しく思っているというように、絞り出すような声で話した。


 実際、テンユウは鑑定魔法を使った相手が【英雄】であることを言い当てられて非常に焦っていた。

 ユーリの行動は一歩間違えると大きな問題に発展する。


 どうにかユーリへの咎めが穏便に済むよう、咄嗟に頭を働かせた。

 何とか捻り出した結果が謝罪だ。

 そこに至るまでの苦悩が声に現れたせいで、真に迫った演技となったのは不幸中の幸いだったかもしれない。



「魔法というと私が依頼した盗難品を見つけるというものか?」

「はい」



 魔法の開発と聞いて、テンシャクの脳裏に以前ユーリに依頼した内容が浮かんだ。

 確認すれば、テンユウは頷いた。



「盗まれた品はかつて【英雄】が使っていた剣だと聞いております」

「そうだ。あれは我が家の祖先である【英雄】が皇帝から下賜された物だ」

「ドレヴェス殿は魔法に非常に通じておられますが、それでも開発には難航しているそうで……。そこで何かきっかけが得られないかと、鑑定魔法を使ったそうです」



 嘘は言っていない。

 ただ、ユーリが何に対して魔法を使ったのかは曖昧に伝えた。

 テンシャクが鑑定魔法を人に使えると知っていても知らなくても問題ないように。



「そうか。しかし、ショウユウが持つ剣は兄上が下賜した物だっただろう」



 テンユウの企みは上手くいった。

 テンシャクは思い浮かぶままに、鑑定魔法が【英雄】が持っている剣に使われたのだと考えた。

 他の候補について考えなかったのは、テンユウの突飛な行動で多少動揺していたせいもある。


 嘘を言わずに誤解させることに成功したことに、テンユウはほっと胸を撫で下ろす。

 そして、誤解を解かないまま話を続けた。



「ドレヴェス殿からも、きっかけは得られなかったと伺っております」



 何とか隠したいことは言わずに済んだのだ。

 ここで下手に嘘を吐いて藪蛇になるのは避けたかった。

 そこで、テンユウは不都合ではない事実については真実を伝えた。


 翻って、テンシャクはテンユウの言葉を聞いて考え込んだ。

 テンユウから聞いた話は概ね報告にあった通りだ。

 しょんぼりと肩を落とし、視線を落とすテンユウの様子からも、嘘を吐いているようには見えない。


 しかし、報告を受けていない内容もあった。

 ユーリが鑑定魔法を使った相手や目的がそうだ。

 テンユウが嘘を言った様子がなくとも、裏を取る必要はある。


 幸にして、テンユウの口からユーリが【英雄】に鑑定魔法を使ったと告げられたのだ。

 それを手掛かりに、ユーリに直接問いただすことができるだろう。

 ユーリ達の普段の行動を考えれば、明日も書庫に来るはずだ。

 そこを尋ねればいい。


 さて、他にテンユウから聞くべきことはあるだろうか?

 少し考えて、必要な情報は聞き終えたと思ったテンシャクはテンユウに退室の許可を出した。


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