お弁当を堪能した件について…
学校を出発して3時間後の午前11時30分、私たちは無事目的地である海岸の砂浜に到着する。
何かよく見ると、どこかで見たことがあるような砂浜だ。
「それではお昼休みを取ります。各自食事が済んだらしばらく自由時間です」
先生の言葉にみんなは思い思いの行動を取る。
延々と見渡す限りの砂に、元気が残っておる生徒は目を輝かせて巨大な砂場に突撃し、砂遊びをはじめる。
体力を使い果たした生徒は倒れるように砂の上にへたりこむ。
4月の半ばの海岸は少し肌寒いがよく晴れた陽気のせいで日なたにいれば暖かい。
私はカスミちゃんと約束のランチタイムに突入することにした。
小高くなって景気のいい砂だまりに二人で陣取ると、リュックから苦心の作を取り出す。
まずは私の力作からだ。
「あら、葉っぱに包んだの?
もしかしてバランの葉?
よくこっちにもあったわね」
私が取り出した葉っぱの包みを見てカスミちゃんがちょっとビックリしている。
「驚くのは葉っぱだけじゃ無いと思うよ。
はい、葉っぱを取って食べてみて」
私はパイロキネシスで加熱し、熱々にしてからカスミちゃんに渡す。
「温かい!どうやったのアイネちゃん。それにこれ、もしかして肉まん!」
葉っぱを取ったカスミちゃんが驚く。
「パイロキネシスで加熱したのよ。冷めないうちに召し上がりください」
「美味しい!懐かしい!!」
「こっちも食べてみて」
私は楕円形のおまんじゅうも加熱して渡す。
「これは…カレーまん…」
「カレーに似た香辛料が売っていたいから作ってみたの。案外うまく行ったわ」
「ホント、これも美味しい」
「最後はこれよ」
三角のおまんじゅうはトマト入りだ。
「これは、ピザまん!?」
「チーズがなかったからトマトとお肉の味だけだけどね。
ミートソースのような感じになったから、パスタにも合うと思うわ」
「すごいわアイネちゃん。今世になって初めてのお味よ!」
「喜んでもらえて嬉しいわ」
「それじゃあ私のサンドイッチも食べてみて。
パイロキネシスで具材を暖めるとより美味しいと思うわ」
「分かった」
カスミちゃんはリュックから巨大な籐編みのバスケットを取り出し、鶏肉が入っているサンドイッチを渡してきた。
私はパイロキネシスでお肉部分を加熱してかぶりつく。
「これは…、チキン照り焼きのサンドイッチ!」
「ご名答!どう、感想は!」
「美味しい!ていうか、醤油はどうしたの?」
「実話ね、ワットマン男爵領に大豆と麦があったのよ。
そして、それを使った発酵食品がちょっとお味噌に似ているの。
コウジカビはないから、甘みに劣るけど、じっくり熟成させて作るからかなり味噌に近い味になるのよ。
そして味噌の上澄みは今まで味噌の本体に混ぜ込んでいたんだけど、その上澄みが醤油みたいな味になるのよ」
「すごいわ!カスミちゃん。
よかったら今度このお醤油分けて!これさえあればお刺身も食べられるわ!」
私は、思わず大きな声を出していた。
「それは私も考えたのよ。
けど、ご飯がないから、お刺身だけだと寂しくてまだ試していないの」
カスミちゃんの答えに私もはっとする。
そうなのだ。この世界では未だに米を見かけていないのだ。
確かにお刺身と白米はよく合う。
ご飯がないとお刺身の魅力は半減するかも知れない。
それでも私はお刺身が食べたくなった。
「ご飯は仕方ないわ。とりあえずお刺身だけでも食べましょう。
わたし、全力で準備するわよ」
「わかった。寮に帰ればいくらかまだあるから、こんどの休みにでも作ってみましょう」
私はこのときお刺身で頭がいっぱいになり、私たちのご飯を狙う者の存在に気がついていなかった。




