入学式、そして思わぬ再会です…
翌朝、両親とともに総勢150名の12歳児が王立学園講堂へと集合した。
50名の貴族子女はだいたい両親が参列しているが、平民の100名は一人で参加しているらしい。
平民の大人はそうそう仕事を休めないと言うことだろう。
長い学園長先生の挨拶をきき、新入生代表でキャスバル王子が宣誓をする。
前世の中学校や高校でもよくある光景だ。
在校生代表は3年生の公爵家長男らしい。
入学式が終わると担任の先生が引率して教室へ入る。私はアイネリアでAから始まるので出席番号は2番とかなり前の方だ。
教室でも前から2番目の一番窓際の列だった。
先生から簡単に説明がある。
1週間後のテストで成績ごとにクラスを組み替えるので、今のクラスは仮クラスと言うことだ。
担任はキャスリーン・ド・ハイネル先生。伯爵家の次女と言うことだ。
クラスには見知った顔があり、キャスバル殿下と他の悪役令嬢2人も同じクラスだ。
キャスバル殿下と目が合うと、王子は小さく手を振ってくる。
手を振り返すわけにも行かず、目礼で返すと、嫌な視線を別方向から感じる。
例の悪役令嬢のナターシャさんとイリアさんだった。
そんな中、上の空でそわそわしている黒髪の令嬢が、3列目の後ろの方にいるのが目に入る。
似ている。
カスミちゃんのように見える。
髪が長いのと、入学式用の貴族のドレスを着ているのを除くとそっくりだ。
本人だろうか?
私が疑問に思っていると、向こうもこちらに気がつき、目が合った。
私の格好も、冒険者をやっていたときとは大きく違う。
髪も1年分伸びているし、今日は入学式用のドレスだ。
向こうも知り合いに似ていると感じたような戸惑いを感じる。
エンパシーではなくテレパシーがあったなら簡単にカスミちゃん本人か確認できるのだが、エンパシーでは感情が分かるだけなので決め手に欠ける。
しかし、こんなに似ている人物がそんなにたくさんいるとは思えない。
これは、今日の放課後にでも早速確かめて見ないといけないだろう。
もしカスミちゃん本人なら、こんなに嬉しいことはない。
向こうも同じことを考えているのだろうか、こちらを見つめていたが、キャスリン先生が新入生に自己紹介するように促したので前を注目する。
出席番号順だ。
1番は伯爵家の次男、アーサー・ド・ガリアン君だった。
私は2番目に自己紹介する。
「アイネリア・フォン・ヘイゼンベルグです。よろしくお願いします」
私の自己紹介を聞いて、カスミちゃんそっくりな少女が首をかしげる。
そういえばカスミちゃんにはアリア・ベル以外の名前を伝えていなかった。
私が違う名前を言ったので戸惑っていると言うことだろうか。
ますます、あの少女がカスミちゃん本人である可能性が高まったような気がする。
早く自己紹介の順番があの女の子までまわればいいのにと思いながら自分の席へ向かうと、またまた、キャスバル殿下が小さく手を振ってきた。
同時にナターシャさん、イリアさんは睨んできた。
なんだか嫌な汗がこめかみに流れているように感じる。
自己紹介の順番はどんどん進み、とうとうあの黒髪の少女の番になった。
「カスミ・レム・ワットマンです。よろしくお願いします」
間違いない。カスミちゃんだ。
なんだかよく分からないミドルネームがくっついているが、あの少女は間違いなく親友のカスミちゃんなのだ。
確信を持った私は、カスミちゃんに小さく手を振る。
カスミちゃんも私の合図に気がついたのかほほえんで会釈を返してくれた。
それにしても、お父さんと一緒に実家に帰ったはずのカスミちゃんがなぜこのクラスにいるのだろう。
しかも、このクラスは貴族クラスだ。
そういえばいつの間にかカスミちゃんの名前にミドルネームが増えていた。
以上から導き出される結論は………
かすみちゃんのお父さんがアルタリア王国の貴族の次男で、長男の死によってその爵位をついだ………
これしかない。
ここまで考えて何か嫌な予感が脳裏をよぎる。
待てよ、カスミちゃんがさっき言ったフルネーム。
どこかで聞いたことがあるような………
カスミ・レム・ワットマン
カスミ・レム・ワットマン………
私は血の気が引くのを感じた。
思い出したのだ。
乙女ゲーム『花園でつかまえて!』のヒロインのデフォルト名がカスミ・レム・ワットマンであったことを………
感想でいくつか、カスミとヒロインが別人であるように考えておられる方がいましたが、本作の初期設定で決めていたことで、王子と謁見して乙女ゲームだということを思い出したときに伏線としてヒロインのデフォルト名を紹介しています。(14話参照)
気がつかれていなかった方、すいません。
感想の返信では敢えて触れませんでした。
これで本作の最大の伏線の一つを回収いたしました。
ありがとうございました。




