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(2)私たちの未来

 並ぶ天幕の間を、私はレオスを捜しながら歩く。天幕の側には、たくさんのレードリッシュの騎士たちが歩き、これから始まる正式なキリングとの調印に向けて、警戒を怠らないようにしている。


 歩いている騎士たちの顔をちらりと見ながら、通り過ぎていく。


 黒髪だから、レオスかと思ったが違った。


 でも――どうしよう。だんだんと緊張してきたぞ?


 そもそもなんて言って切り出せばいいのかわからない。


 いきなり好きというのは恥ずかしすぎるし……。え? みんな、人生のこんな難問をどうやって越えてきたの?


 いやいや、難しく考えるな。「私も好きです。交際してもいいです」こう伝えるだけなんだ。難しいことではないはずなのに、今の私には五千メートル級の山に登れと言われたような心境だ。もし、雪山登頂をしたら、代わりに誰かがレオスに伝えてくれるというのなら、喜んで雪山登頂を選ぶ!


 どうして、気持ちを伝えるだけで、こんなに恥ずかしい思いをしなければいけないんだ!


 こんな難問を毎日、ほぼ素面で口にできるなんて、改めてレオスって恐ろしい奴。私なら、あいつが私を見るたびに口にしている一言を出すだけで、顔が爆発しそうだぞ?


 しかも、あいつの顔を見ながらだ。確実に心臓も爆発する。


 さすが生物兵器。実は、存在だけで人類最強兵器なんじゃないだろうな。


 考えている間に、また心臓が爆発しそうになってきた。


 くそっ! あいつの顔を思い出したからだ!


 これじゃあ、せっかく決心したのに、とても今日伝えることなんてできそうにない。今からマリエルに雪山登頂の任務がないか訊いてこようか――。


 真っ赤になってしまった顔を隠しながら、私は足を今やってきた方向に返そうかと悩んだ。


「アンジィ」


 それなのに、見つかってしまった!


 斜め前からかけられた間違いようのない声に、思わず足を止める。


 そして、できるだけ普通の顔を繕って、レオスのほうを見つめた。


「ああ。もう体はいいのか?」


 一月ほど前のあの日、私を守りながら崖から滑り落ちたのは、やっぱり全身に打撲を作っていたらしい。


 あとの戦闘をよく戦えたものだと感心したぐらい、レオスの全身は内出血だらけで、ここ一月は離宮での内勤を命じられていたのだ。


 だから、マリエルを守って出かける私とは必然的にすれ違って、今までゆっくりと話す機会はなかったのだけれど……。


 しかし、レオスは私の内心の焦りも気がつかないように、綺麗な顔で笑いながら近づいてくる。


「ああ。内勤という形で、たっぷり休養を取らされたからな。むしろ、君に会えないことのほうが心臓に悪かったよ」


 うっ! だから、どうしたらそんな言葉が自然に口から出るんだよ?


 きっとなにも考えていないな!? こいつにとっては、怒るのと同じように、感情のまま口から出しているのに違いない。


 思わず赤くなって口ごもってしまったが、その私の様子に、首を傾げている。


「アンジィ?」


 だから、私は一度大きく息を吸った。そして、レオスを見る。


「アンジィリーナ」


「え?」


「私の女としての本名だ! アンジィリーナ・ラルジャン! お前にだけは教えておく!」


 だが、レオスは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。


「え?  それって……」


 くそっ! やっぱりこれじゃあ通じないか!


「俺が君を名前で呼んでもいいっていうこと?」


 レオスの言葉に、顔がどんどん熱を持ってくる。だから、私はぴしっとレオスの顔に指を突きつけた。


「いいか!? 交換条件だ! レオス、お前、前に私が好きになってくれるのなら、なんでもすると言っていたな!? だったら、これからも私が戦い続けられる相手でいろ! 私が強くなるために、ライバルでいてくれるのなら――その……交換だから、私もお前を好きになってやっても……いい……よ」


 顔が焼ききれそうだ。それなのに、私の宣言は、最後のほうは恥ずかしさで弱々しくなり、聞き取るのもやっとなぐらいの声になってしまう。


 それでも、レオスには届いたらしい。今までじっと私を見つめていた藍色の瞳が、信じられないように大きく開いている。


「アンジィ、リーナ……」


 名前を呼ばれるのと同時に、あいつの手が伸ばされてくる。


 うわっ! なんて目をしているんだ。蕩けそうに嬉しげな顔で、私の髪を一房持ち上げている。そして、なにかを誓うように、私の髪に口づけをしてくるではないか。


「わかった。俺は必ず君に失望されない男になる。一生――」


「う、うん……」


 あ、あれ? 一生? なにか、ほかのニュアンスが含まれていたような気がするんだけれど。


「だから、もう一つ交換条件だ。俺が一生君の望みを叶え続ける代わりに、君は決して俺以外の男には足を見せないこと」


「えっ!?」


 こいつ、あの時のことをまだ根に持っていたのか!


 というか、こいつ以外には足を見せないって。これって遠回しに、自分以外とは結婚しないと約束させているような気がするんだけれど……。


 よく考えたら、こいつも貴族だった!


 え!? では、まさかこれって求婚!? 


 焦って見上げた先では、レオスがすごく幸せそうに笑っている。初めて知ったけれど、幸せそうな顔って、こんなにも美しいものなんだな。


 きっと今までに見たレオスの顔の中でも、最強だ。


 けれど、戦闘の場に身を置く騎士では、服が破れるなど日常茶飯事だ。この願いを叶えることができるのかはわからないし。


 しかも相手はレオスだ。また、いつもの言葉の不憫さか。それとも頭の良さから、それを狡猾に使って、私に遠回しの求婚を承諾させようとしているのか!?


 わからない。


 だけど、簡単に嵌ってやるのは癪だ。


「だったら、それぐらい私を惚れさせてみせろよ? 私たちはライバルだろう?」


 私の答えに、レオスが目を丸くしている。


 だが、すぐに破顔をした。


「言ったな。必ずその言葉を後悔するぐらい君を惚れさせてやる」


「受けて立つよ。私も負けないからな」


 そうだ。ライバルでいよう。恋愛でも騎士としても。きっと世界に一人しかいない相手として。


 だから、やっと真っ直ぐにレオスを見つめて言えた。


「お前が好きだよ、レオス」


「俺も君だけだ。だから、これだけは一生負けない」


 笑い合う私たちの上に、間もなく新しい年を迎える空が青く澄み渡っていた。


最後までアンジィリーナの物語をお読みいただき、ありがとうございます。


また機会がありましたら、番外編なども書きたいです。


もしよろしかったら、下の星のマークをお気に入られただけ押していってください。


作者の今後の勉強と励みになります。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。


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