今日の心音は積極的
「最近どう? うちの心音とは?」
車に乗ってから、開口一番に心音ママは私にそう言う。
心音ママの顔は窺えない。
が、少し楽しそうな様子だった。
そういえば前に初めて会った時もこんな様子だったかと思い出しながらも、
「まぁ、そこそこですかねー。ははー」
そういう無難な返答をした。
心音ママは私の言葉に「へー」と適当な頷きをして、次に私にこう問うてきた。
「キスしたんじゃないの?」
前から飛んできたその言葉が、私の頭に衝撃を与える。
「え……」
固まった頭が少し回り。
前回、心音ママに会った時の会話を思い出す。
心音が私のことを好きというのを、家で心音は心音ママに伝えていた。らしい。
じゃあ、キスしたことを伝えていても違和感ない。
……ない?
「えぇっと……。一体どこまで知っているんですか?」
「割と全部、心音から聞かされてるよー」
「そ、そうですか……」
私は俯きながら答える。
余計なことを言いたくないので、これ以上、私は口を開かなかった。
チラと横を見れば、心音も恥ずかしそうに顔を朱に染めていた。
※
心音ママも何かを察したらしい。
それ以降、会話は訪れなかった。
車に約三十分ほど揺られて、気付けばもう心音の家へとやってきていた。
「とうちゃーく。ささ、降りて降りてー」
言われるがまま、私は車内を飛び出す。
途端に肩の荷が取れたようなか心地になる。
車内はなんとなく気まずい雰囲気に満ちていたためだろう。
心音も一緒に私と外へと出る。
家を見上げれば、割と普通の一戸建て。
なんなら私の家と大差ない気がする。
これが女神様住居かーと思いながら、前を歩く心音と心音ママの背中を追う。
「入ってきていいよー」
玄関をくぐった心音ママに言われるがまま、私家の中へと足を踏み入れる。
「どうも、おじゃましまーす」
靴を脱いで丁寧に置く。
廊下へと上がった途端に、私の手が心音に掴まれてそのまま引っ張られる。
階段を上って二階へ、引っ張られるがままその場所に。
「後でお菓子とか持ってくから、ごゆっくりねー」
背中に当たったその声に、振り向くことも許されないまま私は「はありがとうございます」と返事をする。
前を歩く心音の衣服に目をやった。
普通の家着だった。
心音が着ることで、普通じゃ無くしている気がするが。
後ろ姿だけでも、その姿は映えている。
車内では意識できていなかった心音を見て、改めて家に来たということを認識する。
途端になぜか緊張をし始めて、心音に手を引っ張られているという目の前の状況に、心臓が少しだけ早く動く。
やがて部屋へと連れてこられた。
女の子らしいその部屋を見渡して、心音も結構な少女だなーと謎の関心をする。
本棚には漫画もあれば、程よい数の可愛いキャラのぬいぐるみもある。
そういえば心音のラインのアイコンも、こんなキャラクターのアイコンだった気がする。
心音は私の手を離した。
前を向いていた心音は私を振り返る。
今日、改めて心音の顔を見る。
「……可愛い」
……。
「あっ。ご、ごめん。口が滑った」
あははーと、体温が上がるのを確認しながらも誤魔化すかのように答える。
思ったことがついついそのまま口から出ていたようだった。
恥ずかしい。
こっちをじーっと見つめた心音は、何も言わずに私を見つめた。
めっちゃ見つめてくるもんだから、私は目を逸らす。
「……な、なんでしょーか」
恥ずかしさのまま私はボソリと零す。
と、心音の気配が私に近付いた。
心音の足が私の視界の端に映る。
もう一度、何をするか問おうとした。
その時に。
「──えっ」
心音の腕が。私を包み込む。
暖かい、抱擁だ。
「口が滑ったって、『可愛い』って言ったのは嘘だったんですか?」
私の耳にかかる心音の細い声。
口が滑ったの意を勘違いしているようで、これもまた可愛らしい。
けど、それを正面で伝えるのはとても恥ずかしいものがあって……。
「う、嘘じゃない……です」
「なら、許しますよ?」
「き、今日は積極的っすね……」
「嫌なんですか?」
このやり取りにデジャブを覚える。
けど、普通に。言われるがままに。
「嫌じゃない、です」
「……ん。じゃ、課題しましょ」
心音は離れる。
キスしようって言おうと思ったけど、その言葉は私の喉に引っかかって出なかった。
昨日は私が支配権を握っていたと思うが、それが今日は心音に譲渡されたみたいだ。
家だからなのかな、こんなに積極的なのは。
心音と付き合ったら、もっと色々な事をしてもらえるのだろうかと、意味の分からない妄想をしてみる。
かなり心音に毒されている。
これは……素晴らしいことだ。




