ソワソワの時間
部屋をウロウロ。
時計を見てはウロウロ。
時計を見てはウロウロ。
それを繰り返してる。ウロウロ。
時計が指すのは八時半。
あと三十分もあるらしい。
──あるらしい? いや、ある。
先程、家を出たとラインがあった。
三十分。いつもは短いその時間が、今となっては遥か遠くの手の届かない物のように思えてならない。
「そうだ!」
私はウロウロを止める。
今日、持っていくものを確認しよう!
それなら時間も潰せる。
宿題はもうリュックに詰めたから、あと何か持っていくものあるかな。
と、私は部屋を見回す。
何もなさそうだった。
いや待て。
今一度、準備物の確認だ。
英語の課題、数学の課題。
地理の課題に現代文。
それと反省文の用紙二枚。
やる事多いな。
……えっと、後は、スマホは必要だし。
なんならスマホは必要最低限な気がする。
これがないと心音とのコミュニケーションができない──。
いや待て。
私がスマホを忘れたということにしよう。
心音は私とハグをしなければ声に出して会話ができない。
つまり、コミュニケーションをとるためには、常時ハグの状態じゃなければいけない!
「あ……」
待て待て。
これだと、筆談になる可能性もあるのか。
むしろそっちかな。
残念。スマホ忘れたフリ作戦は諦めよう。
「はぁ……」
なんか今日の私は不安定だ。
気分が上がったり下がったり。
蝶々が飛んでる時の様な心持ちだ。
考えてからこの表現は微妙かなと思う。
……まぁいいか。
伝家の宝刀『まぁいいか』。
便利な言葉だと思った。
心音と一緒にいる時に必要なもの。
おやつとか……?
んー。勝手に家のものを持ち出すのもな。
ゲーム機とか……?
心音はあまりしなさそうだしな。
トランプとか……?
あ、トランプどっかに失くしたままだ。
じゃあ、何も無いじゃないか。
「心音がいるから……それで、いいのかな」
いいのだろう。
時計を見れば四十五分。
よし。半分を切ったな。
もう持ち物はこれで十分だし。リュックに詰め込んだ。
じゃあ、後は、待つのみ。
けれど暇なので私の格好を確認する。
黒のハイネック、黒のショーパン。
ブラックに染まった私である。
けど、洒落た服はこれくらいしか無かった。
香水とかつけようかな。
とか思ったけど、やめておいた。
なんだかそれは張り切りすぎだ。
あー。楽しみだー。
女の子の家に遊びに行くだけで、こんなにも張り切っている人は私だけだろう。
これって、一般的にはちょっと変なことなのかも。
……一般的ってなんだっけ。
そもそも論、そこが不明瞭だった。
同性の恋愛なんて、きっと自分達が計り知れないほど前からあったもので、それを一般的から除外するのは何処か違う気もする。
好きだから、それでいいと、私は勝手に思っている。
こんな複雑なことを考えても、私に得はない。
時計を見て、そろそろかなと思い、リュックをしょって階段を降りる。
迷わず玄関に向かい、靴箱からスニーカーを取り出した。
ドアを開けて振り向いて。
「いってきまーす!」
家の中に明るく呼びかける。
母親の力ない声が聞こえてきた。
多分まだ寝ぼけておるな。
ま、今は心音だ。
外へと出て、私は彼女の到着を待つ。
同時に少し緊張の波が押し寄せてくる。
心音ママと話すのもだけど、やっぱり心音だ。
先週、遊園地に行く時に会ったのも緊張はしたが、だけど今は、それとは違う色の緊張感を覚えていた。
家の敷地外に行って道路を見渡してみる。
するとこちらに一台、見たことのある車が向かってきていた。
すぐに心音の家の車だと理解をする。
私は少し後ずさりその車が来るのを待つ。
ショーパンの小さいポケットに入ったスマホがバイブレーションを起こしたと同時に、先の車が私の前でブレーキをした。
ちなみに私から見て、車が向いているのは左方向。
助手席側の窓が下りてきて、そこから心音ママが顔を覗かせた。
「お久しぶり! どうぞ、乗っていって!」
陽気に言い放たれ、「おねがいしまーす」と割と丁寧にお辞儀をし、心音のいる後部座席へと私は入っていった。




