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女神と共に、相談を!  作者: 沢谷 暖日
見上げた空は蒼かった

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51/83

蝶の羽ばたきは、

 十六時前。

 二度と着ることのないだろうと思っていた制服に身を包んで、カバンの中には手紙と筆箱と、あとは、必要になるかもしれない何たらかんたらを詰め込む。


 学校に着いて、職員室へとやってきた。

 まだ授業をやっているようだった。職員室はがらんと空いている。

 そこの中の一人の先生に、母は話しかけに行く。

 私はそれを職員室の外から見守る。

 ペコペコと頭を下げた母は、やがて先生から鍵を受け取ってこっちに来た。


「これでいいのよね。言っていた鍵って」

「うん。ありがとう」


 ちゃんと『相談部』と書いてある。


「私これで帰るけど、大丈夫?」

「うん、大丈夫」


 私はこのまま四階へと直行した。

 一旦ドアを開けて、この鍵は戻した方がいいのかなって思った。

 私は職員室に戻り、先生とは話さずにその鍵をかけられていた場所に戻した。

 母と一緒に来た意味なんだよって思うけど、まぁ人が少ないからよかった。



     ※



 再び部室のドアを開けて。

 窓の方へともたれかかり。

 まだかなーと、伊奈ちゃんが来るのを待つ。

 窓から見下ろせば、見えるのは一年校舎。


 私に悪口を言った奴らは今頃どうしているだろうか。

 私のことなんか、もうどうでもいいんじゃないかって思うけど。

 ま。もうどーせ関わることもない。

 伊奈ちゃんにすることをしたら、もうこの学校と関わることもない。


 振られる可能性だなんて全くもって考えていなかった。

 私が渡す手紙の最後には『振られたら死ぬ』みたいなことを書いた。

 これで振られるってなったら、伊奈ちゃんは相当薄情なこととなる。

 いや。そんなことをしている私が相当な外道なのだけど。

 八月から再燃した伊奈ちゃんへの想いは、それほどのものだということだ。

 これで試しにでいいから付き合ってみて、それでお互いを好きになっていけばいい。

 私がしようとしているのは、こういうことだった。


 チャイムが鳴る。

 授業が終わったのだろう。

 そわそわが止まらない。

 若干緊張もしてしまっている。


 数分経過。

 部屋の前を人のガヤガヤが通過した。

 おそらくだけど、音楽室を使用する部活なのだろう。

 四階には音楽室があると楓花が言っていたので、それは知っていた。


 私は自然を装うために、窓の外を眺めた。

 階段を上る小さい音が聞こえ、これは伊奈ちゃんかな? って思いながら。

 それがより近づいた時。


「疲れた〜〜」


 聞き慣れた声が、私の耳を刺激した。

 ノブに鍵を差し込む音、そして回す音が聞こえる。

 だけど、私がもう鍵を開けていたので、鍵は空回る。

 窓の外を眺めているのでその光景は見えないが、ドアが開かれた。

 私は自然に、その方を振り返る。こう口にする。


「あ! 伊奈ちゃん先輩!」


 こう呼んでいたことを思い出しながら、伊奈ちゃんにそう告げた。


「美結ちゃん! 今日はどうしたの?」

「恋愛相談! 前回の続き! ……やってもいいよね?」


 言ったと同時に、私は違和感を覚えた。

 違和感というより、目に見えるものだった。

 伊奈ちゃんの手が、誰かと繋がっていた。

 伊奈ちゃんしか私には見えていなかった。

 その存在が私の前に現出して、その美しさに私は思わず唾を飲んだ。

 『誰?』出てくる疑問を抑えながら、平静を装い。


「手紙をさ。……実は、まだ渡せていなくて」


 私の顔。落ち込んでいないよね。

 この人は誰。伊奈ちゃんの彼女?

 いや。え? いや、なんで手を繋いでいるの?

 訳がわからない。どういうことなの。


 そんな私の気持ちも伊奈ちゃんには伝わっていないのだろう。

 けど。私が学校に来ていなかったとは思っていなかったようで、そのことにはホッとした。やはり学校を選んで正解だと思った。


「よし! 伊奈ちゃん先輩たちが、相談に乗ってやりますよ!」


 快活に、そう言い放たれる。

 『たち』ってことは、どうやらこの人は部員らしい。

 けど、手を繋いでいるのは意味がわからなかった。



    ※



 その後も、私は頑張って明るく話したが、暗い気持ちには変わりなかった。

 私の書いた手紙を伊奈ちゃんと書き直したいという(てい)で、手紙を読んで貰おうとした。

 さすがに『これがラブレターです』と言って渡すのは恥ずかしいから。

 口ではラブレターとは言わなかったが、内容が伊奈ちゃんとの日々の内容だったので、きっと伝わるはずだと思ったからだ。

 これで気づいてくれなかったら、口で伝えるつもりだった。

 けれど、伊奈ちゃんは私が手紙を読ませようとしたその前に、美人さんに連れられて、どこかへ行ってしまった。

 すぐ戻ってくるって言ってたのに。なんでだろう。何をしているんだろう。

 やっぱり、付き合ってるのかなって思った。


 その前に、横にいた美人が彼女かどうか問うたが、それは否定された。

 まぁ。安心していいと思うんだけど、どうも怖かった。

 私は顔にはそこそこ自信があるけど、そんなのと比べるのおこがましいほどに、その人は美しかった。

 伊奈ちゃんによると、その人は学校でもそこそこの有名人らしい。

 私がなぜこの人を知らないのか驚いていたようだ。そりゃもちろん知らない。

 そして、今ほどよく観察してみれば、その人は補聴器を付けていた。

 耳が悪いらしい。

 それなら、さっき伊奈ちゃんが手を繋いでいたというのにも納得できる。

 要するに、耳が聞こえないこの人の先導をしていたのだろう。

 それでも。怖かった。

 一度疑い始めると、どうもその考えは頭から抜けださなかった。


 私はポツンと一人、取り残されて伊奈ちゃんが来るのを待った。

 さすがに遅すぎる。何をしているんだ。

 不安に不安が募り。恐怖も募っていく。

 不安なこの気持ちで、胃がもたなかった。

 私はもう、帰ろうと思った。明日また来ればいいと思った。

 手紙を置いて、私は書置きをした。


『遅いので帰るね! それと、この封筒は私が好きな人宛に書いた手紙なんだけど、よければ読んで! 悪いところが無ければ私に教えて欲しい!』


 よし。と。その書置きの上に、封筒を置いた。

 中身を取り出して、多分大丈夫と自分に言い聞かせる。

 今一度、その内容を見返してみた。


『急にこんなお手紙を出してごめんね。それで、急なお願いがあるんだけどね。私と付き合って欲しいの。何でって言われても仕方がないと思うけど、前々からあなたのことは好きで、ずっと付き合いたいなって思っていて。女同士って変? じゃなかったら付き合って欲しい、お願い』


 うん。恥ずかしい。


『私さ。あなたのことがずっと好きで。途中で会えなくなったじゃん? それでも私、ずっとこの思いを冷まさないでいたの。高校になって、同じ学校でさ、運命だと思った。というか運命なんだよこれって。……もうちょっと遡るけどさ、小学生の頃、私ずっとあなたのことが好きだった。あなただってずっと私に優しくしてくれた。優しくしてくれたから、私はあなたが好きだった。友達が少ない私と仲良くしてくれて嬉しかった。それでね。私、中学の頃、転校しちゃったじゃん。親の都合でさ。でもさ、高校でまた会えた時。あなたは私のことを一目見ただけで思い出してくれた。こんな優しい人を、好きになるなって方がおかしいと思わない? 想いを伝えるのが遅くなっちゃってごめん。やっと伝えれたよ。だいすき』


『振られたら、私。死ぬかも。それくらいの想いなの。だから、この想いを受け取ってくれるなら、私のところまで持ってきて』


 読み終わったその便箋を、封筒にしまった。


 顔が熱いな。

 伊奈という名前は出していないけど、伝わるよね。

 うん。伝わる。きっと、伝わる。


「……うん。大丈夫」


 自分に言い聞かせるように頷いた。

 その時。なぜか私は泣き出しそうになってしまった。

 と、思った次の瞬間には涙がボロボロ溢れてくる。


「え……? あれ……?」


 意味が分からなくて、私は疑問の声を口にした。

 その涙が出る理由を探る。

 やっぱり。不安だからだ。

 あの女が。伊奈ちゃんと一緒にいたあの女が怖いからだ。


 私は、荒れ狂う心臓を抑えて。いや、抑えきれずに。

 涙を床にポタポタと零しながら、廊下を歩いた。


 あの手紙が、怖い。

 あんな抽象的に伝えようとしたのは間違いだったかもしれない。

 ちゃんと想い人の名前を書けばよかったかもしれない。

 あの女に、伊奈ちゃんが取られるかもしれない。

 だって。帰ってくるの遅すぎだよ。

 一緒に、どこかで行為をしているんじゃないかって。怖い。

 怖いしか、出てこない。


 確かめたい。

 あの女と、伊奈ちゃんがどういう関係なのか。


 私は帰ってすぐ、親に懇願した。

 買いたいものがあるからクレカを貸してくれと。

 自分のお年玉を全てあげるからと言ったら、渋々だが了解してくれた。


 私はネットを漁った。

 ようやく、私の求めていたものを見つけた。

 お急ぎ便で頼んだ。明日必要だから。

 十数万も使ってしまった。馬鹿だ。

 本当に伊奈ちゃんのことしか見えていなかった。


 私は盗聴器を購入した。

 高性能であまり出回っていない、割と危ないやつだ。

盗聴器は市場に出回っているものだと、100mが限度らしいです。

美結ちゃんが買ったのは、結構遠くまで聞こえる危ないやつです()

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