表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神と共に、相談を!  作者: 沢谷 暖日
仲良し少女の恋愛相談

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/83

美結ちゃんの家へ。全速力!

 荒々しい息を吐きながら、いつもの長い階段を下った。

 生徒や先生から、妙なものを見るような視線を受けている。

 が、それを振り払い、とにかく全速力でまずは靴箱へと向かった。


「──っはぁ。はぁ」


 途切れる息。

 呼吸を整えながらも、速く。速く。


 一段飛ばし。二段飛ばしと階段を下りて。

 一階まで、下り切る。


 立ち止まって。少し深呼吸。

 ……うん。まだあまり疲れていない。

 というか、美結ちゃんのためならまだ走れる。


 心音のあの言い方的に、美結ちゃんはまだ家にいるらしい。

 『死ぬかも』とそう言っていたが、方法が私には分からない。

 自殺の仕方なんて、結構限られていはいるはずだが。

 美結ちゃんは、盗聴器なんて持っているくらいだ。

 どういう方法で決行するのか何も分からない。

 と、最悪の可能性が前提になっているのもおかしい。

 まだ家にいるのなら、そんなことを考えているのも変だ。


 私は走り出すと同時に、その暗鬱な考えを振りほどく。

 だめだ。今は家に行くことだけに焦点を置こう。

 さっきから余計なことを考えすぎている。

 って、これもさっきから何度も思っていることだけど。


「──っはぁ。よし」


 靴箱まで走りついて。靴に履き替える間に少し休憩。

 その休憩時間も数秒で終わりを迎え、また走り出した。


 余計なことは考えない。

 溢れまくっている謎が私のことを悩ます。が、もう考えない。


「考えないぞーーーー‼︎」


 邪念を私の大声で消滅させる。

 陸上部らしき人間から冷たい視線を感じるけど。

 これも気にしない! 考えない!

 浮くことに関してはめっちゃ慣れているから。

 いや、慣れるわけはないけど。場数を踏んできたってことだ。


「──っ」


 髪が揺れて私の視界の邪魔になる。

 それくらいにめちゃくちゃに走っていた。

 流石に邪魔すぎるので、私は一旦立ち止まり、ポケットからゴムひもを取り出して。前髪を全部あげて、それを結ぶ。

 めっちゃデコが広い変な人になったけど。これも気にしない!

 違和感を頭に感じつつも、私はまた足を動かす。


 正門を抜けて、いつもの住宅街に入る。

 私の帰路の途中にあるので、結構すぐそこにあるのだ。


 今は中学生の制服を着た生徒が下校をしている途中だった。

 私が中学の頃、着ていた制服である。

 その人たちからも、変な視線を浴びせられる。

 もちろん無視して、前のめりに走り続ける。


「──はぁっ」


 呼吸をすることすらも困難になって。自身の疲れを自覚する。

 無我夢中に走りすぎて、そんなことすらもすっかり忘れていた。

 だが。もう目的地まであと僅か。

 私は息を大きく吸い込むと、ラストスパートをかけた。


 足がくたびれ、感覚がなくなる。

 もう少し走ったらその場で倒れてしまいそうな。それくらいの頃だった。

 我慢できず、すぐ横のブロック塀にもたれかかった時、顔をなんとなく上げて昔見慣れたその家に気付いた。


「……着いた」


 走りきった感動を覚えながら、私はドアの前まで近付き。

 ゴムひもをとって、垂れる前髪を横に分けて。

 インターホンを鳴らす。

 それを押す私の手は、めっちゃ汗にまみれていた。


 ──ピンポーン。


「はーい」


 ドアに阻まれ曇った声が、奥の方から返ってきて。

 続けてドタドタと、うるさい足音が近付いてくる。


 子機に映る私を確認しなかったのだろう。

 ドアを開き、出てきたその女性は、私の顔を見て目を丸くした。


「あぁ! 伊奈さんよね? 久しぶりね!」

「お久しぶりです」


 ぺこりと頭を下げる。

 確かに久しぶりだ。

 私は朝とかにゴミ出しに行くこの人の姿を見たりするのだけど、こうして対面になるのは多分小学生以来だろう。多分。


「美結なら、今外に行っててここにはいないけど……どうしたの?」


 と。

 何も言っていないのにそんなことを言ってきた。

 いや。まぁ、私が家に来る用事は美結ちゃんが関係していると勘違いしている?


「え。そうですか。本当にいないんですか?」

「えぇ。ごめんね、伊奈さん」


「あぁいえ……」


 ……これは違和感を覚えて当然なのではないか?

 だって今の私の少し上がった息、汗で濡れまくった全身。

 その他諸々を跳ね除けて、第一に美結ちゃんのことを言ってきたのだ。

 これはおかしい。うん、おかしい。


「美結ちゃんは、今どこにいるのか教えて貰えますか?」


 聞いてみる。


「あぁ。……えっと」


 言葉を詰まらせた。

 これはもう、察しの悪い自分でも分かる。

 美結ちゃんの母さんは嘘を吐いている。

 言い訳を考えていない人の言葉の詰まらせ方だ。知らんけど。

 なぜ嘘を吐くのか理由は分からない。分かる必要もない。


「あー。分かりました! また今度出向きますね!」


 大きくそう言って見せた。

 家の中にいる美結ちゃんに、この声が届くように。


「あ。すみませんね。じゃあ、また今度。ごめんなさいね。お茶の一つも出してあげられなくて」

「大丈夫ですよ! さようなら!」


 大袈裟な身振りで振り返り、私は一旦道路へと出た。

 背中に当たるドアの閉まる音。

 それを聞いて、数秒待つ。

 また振り返る。


 さっきのドアを見る。

 その奥から、足音が聞こえるが、その音はどんどん遠ざかっていった。


 小学生の頃。

 この家には散々お世話になっている。

 この家に何があるか。どういう構造なのか。

 全て理解しているつもりだった。


 不法侵入?

 うん。これは不法侵入だ。


 私は敷地に入って、直ぐ左に曲がる。

 そこはこの美結ちゃんの家の庭だった。

 リビングからそこの庭は見えるのだが、カーテンは閉まっていた。

 別に開いていても匍匐(ほふく)前進をすればバレないとは思うが。

 ともかく私は足音を立てないように、その前をゆっくりと通過する。


 そして家の裏へとやってきた。

 かなり狭くて、1.5人分くらいの広さだ。

 そこに置かれている物が私には必要だった。

 移動されている心配もしたが、まぁこんなものは外に置く他ないだろう。


 後で家の人にどう思われてもいい。

 やっていることは頭おかしいけど、元々頭はおかしい。

 だから、こんなことしても私の頭がそれを許してくれる。


 美結ちゃんは家にいるという確信がある。

 その確信があるからこそ、今は私はこうしているのだ。


 横に倒されて置かれているそれに、私は手を伸ばす。

 ()()とは、半分に畳まれた脚立(きゃたつ)だ。


「待っていてね。美結ちゃん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ