第73話 ヒスイの価値観
※急なトラブルでこの土日は更新出来ませんでした…。
「きゃああああああっ!!」
兎耳の亜人が悲鳴を上げる。そして、伝染する様に周りの亜人達も騒ぎ出した。我先にと逃げ惑う亜人達。中には、腰を抜かしてその場に座り込む者もいる。無理もない。安全だと思っていた自分達の日常に、突然、竜なんて言うとんでもない物が現れたのだから。しかも、伝説の古代竜。竜の中で最も恐ろしいと言われる様な奴が。
「ひ、ひいいいいっ……!」
尻餅をつき、失禁する虎族の男。鼠男みたいな子分はと言えば、腰を抜かしながらヒイヒイと四つん這いで逃げようとしている。そんなチンピラ達に向かい、ヒスイは地鳴りの様な低く重い声で声をかけた。
「旦那様の正妻である我に許可なく触れようとした事……そして、何より許せぬのは、その旦那様に対する無礼な発言の数々じゃ。愚かな亜人共よ……その罪、身を持って償うが良い。町ごと消し飛ばしてくれるわ!」
ヒスイはそう話しながら、まるで地震の様に大地を震わせる咆哮を上げた。崩れかけた建物が更に崩壊を始め、辺りにいた亜人は恐怖の余りへたり込む。皆、その顔に絶望の色を浮かべ、ただただ呆然とその成り行きを眺めていた。
「はぁ……」
思わず溜息が溢れる。ヒスイの奴、一体何を考えてるんだ。いくら何でもやり過ぎだろ……。
「いい加減にしろ、ヒスイ。こんな町中で何考えてるんだ。関係ない人達まで巻き込みやがって……。お前には常識と言う物が無いのか」
常識……。
そもそも、その常識の基準がヒスイと俺達ではズレているのかも知れない。何百年も人と関わらず山奥に一人で暮らして来たのだ。幾ら博識な古代竜とは言え、ヒスイにして見れば人間や亜人等は取るに足らない存在。その生活振りに興味が無いのも無理は無いだろう。
「なぜ怒るのじゃ……旦那様。我はただ、この愚か者達に身の程を教えてやるだけ……何も問題なかろう?」
竜なのに、少し悲しそうな顔で話す様に見える。そんなヒスイに向かい、俺は答えた。
「問題あり過ぎだ。関係ない人達まで巻き込んだ上に、建物までこんなにめちゃくちゃにして……。それに、俺は目立ちたく無いと言っただろう? 何の為にアスカとビビが、瞳を制御する努力をしたと思ってるんだ」
俺に叱咤され、今度は落ち込んでいる様な顔を見せるヒスイ。
「それにな。お前が、何となく人間や亜人達を軽んじているのはわかる。でもそれは、アスカやビビ……それにスミスも含め、俺や、俺の仲間達すら、見下していると言う事なんだぞ?」
「そ、そんな事は……いや……うむ……。確かに旦那様の言う通りじゃ。我が軽率じゃった……面目ない……」
──少し冷静になったのか、ヒスイはしおらしくそう答えると、再びその姿を美しい女に変えるのだった。
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