第67話 幕間:スミスの苦悩(後編)
「──お前等、いい加減にしろ!」
叫ぶスミス。しかし、三人は彼の事など眼中にもない。アスカとビビはその瞳を輝かせ、明らかに暴走モード。対するヒスイも、バスタオル一枚のその身体に、薄翠のオーラを身に纏っている。
「今日こそ殺して差し上げますわ!」
「ふん! 本妻に向かって良い度胸じゃ、小娘!」
「誰が本妻……纏めて殺す……」
いい加減にしてくれ……。
スミスは額に手を当てて天を仰いだ。お手上げだ。こうなるとこの三人は手がつけられない。そもそも、この三人に対抗出来る人間など、スミスには想像もつかなかった。もう好きにしてくれ……スミスがそう諦めかけたその時、ようやく救いの手が差し出された。
「静かにしろ」
決して大きな声で叫んだ訳ではない。しかし、彼女達はしっかりとその声を聞き取り、ピタリとその動きを止めた。
「せっかく久しぶりの風呂なんだ……静かに入らせてくれ。まあ、嫁候補から辞退すると言うのなら好きにしてくれて構わないが……。少なくとも、俺は他人に迷惑をかける様な奴と一緒になるつもりは無い。勿論、幾ら仲間とは言えスミスも含めて、だ」
「あんちゃん……」
スミスは、自分の苦悩に気遣ってくれたクロスに心から感動した。若いのに、しっかりと周りを見てくれている。理解してくれている、と。アスカ達は、クロスに強烈な釘を刺され黙り込んでしまった。其々、自分だけは悪くないと考えてはいるのだが。
「言ったよな? 俺は、この旅で本当に嫁として相応しいかどうかを見極めさせて貰うと。そもそも俺は、別に頼んで一緒に旅をしてる訳じゃない。いつでもパーティを解散してもいいんだぞ?」
「そ、そんな……」
「旦那様よ、それはあんまりじゃ……」
「クロス……ごめんなさい……」
落ち込んで、シュンとなるアスカ達。そんな彼女達に、クロスは更に追い打ちをかける。
「だいたい、こんな能力を町中で開放するなんて何を考えてるんだ。それに、その瞳……アスカ、ビビ! お前等、『悪魔の子』である事は隠しておけと言ったのを忘れたのか? その尻拭いをしてくれているスミスに、もう少し感謝したらどうだ」
「あんちゃん……ありがとう……」
スミスは目頭が熱くなるのをグッと堪え、素直に礼を述べた。ようやくその存在に気が付いた様に、アスカ達の視線がスミスに注がれる。
「ごめんなさい……少し取り乱していましたわ……」
「少し調子に乗り過ぎておった様じゃの……すまなんだ」
「スミス……ごめんなさい」
各々がスミスに頭を下げる。皆、思い当たる節がある様で、今度は真剣に反省していた。その時、スミスはふと思った。
「こうして見れば、皆、まだ年端もいかない子供じゃないか……」
最年長のヒスイでさえ、その姿だけ見れば若い娘。スミスにしてみればアスカ達と同様、娘みたいなものだ。項垂れてしおらしくなった彼女達を見て、スミスは彼女達にそんな顔をさせている歳上の自分が情けなくなった。
(もっと儂がしっかりしないとな……)
自分が彼女達の笑顔を守らなければ……この世界で、安心して暮らしていける様に。そう心に決め、密かにある決断を胸に秘めてた。
「いや、いいんだ。儂の事は気にしなくていい。それより、せっかくの温泉だ。ゆっくり入らせて貰おうじゃねえか。あんちゃん、背中流すぜ?」
「そうだな。仕切り直しだ」
「そ、そうね。ちょっと覗いてみたい気もするけど……」
「うむ。儂も久しぶりの温泉じゃ……しかと堪能させて貰おう」
「わかった。クロスの背中……譲る……」
こうして、この日はそれ以上何事もなく、スミス達はゆっくりと温泉を堪能した。
──そして、翌日。
「おはよう」
朝食の為に集まった食堂で、スミスは一番最後に姿を見せた。
「おは……な、なんだ!?」
挨拶を交わそうと、顔を上げたクロスは言葉を詰まらせた。
「ど、どうしましたの?」
「ほう……良く似合っておるではないか」
「……変な物食べた?」
つられる様に、アスカ達もざわつき始める。スミスは、そんな一堂に照れくさそうに答えた。
「へ、変か……?」
自身の頭を撫で回しながら、少し恥ずかしそうに話すスミス。クロス達が驚くのも無理は無かった。なんと、スミスは頭を綺麗に剃りあげて、スキンヘッドになっていたのだ。
「い、いや……よく似合ってるよ。厳つさは増したけどな」
若干戸惑いながらも、クロスは茶化しながらそう答えた。
「まあ、そう言うなよ、あんちゃん。これでも一大決心したつもりなんだ。これはその、なんつーか……決意表明みたいなもんだ」
これからは、抜け毛なんて細かい事は気にしない。パーティの年長者として、もっと、自分がクロス達を支えるんだ……。そう。この、突然出来た大切な息子や娘達を。これは、スミスのそう言う決意の現れだった。
「ま、まあ、サッパリしてていいんじゃないかしら?」
「うむ。中々、男前になったの。顔付きも別人の様じゃ」
「……ハゲ」
「おい! 一人だけ悪口が混じってねえか!?」
いつもより騒がしい朝食は、改めてパーティの絆を深めた。笑顔に囲まれ、更に決意を固めるスミス。パーティでの自分の立ち位置を再確認し、自分はあくまで裏方である事を受け入れた。年長者として、そして鍛冶屋として、自分はクロス達を支えよう……。そう、心に誓う。だが、彼はこの先、今まで以上に気苦労が絶えなくなる事を、この時はまだ知る由もなかった……。
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