第66話 幕間:スミスの苦悩(前編)
「──くそっ! また抜けてやがる……」
国境の町、ボウダ。亜人の国で、クロス達が最初に立ち寄った町の名だ。宿屋の一室に入るなり、スミスは溜息混じりにこう溢した。
「全く……これじゃ、無くなっちまうのも時間の問題だな」
スミスは、決して薄い訳ではない。天然パーマのかかったボサボサの黒髪は、フサフサとは言えないまでも歳の割には多い方だ。両手にびっしりと絡みついた自身の髪を見つめ、スミスはまた一つ溜息をついた。
「はぁ……」
クロス達の旅に同行して、そろそろ一月程になる。初めは気にもしていなかったのだが、徐々にスミスの精神的な負担は増えていった。彼が、このパーティの金庫番を任されたからと言うのもあるだろう。何しろ、鍛冶屋とは言え一端の商人。その上、最年長とくれば当然の成り行きだったのかも知れない。
しかし、彼の頭を悩ませる問題はそれだけではない。寧ろ、金銭的な悩み等些細な物……そう思わせる程、彼はストレスを抱えていた。厳ついその風貌とは裏腹に、実は繊細な男なのである。そして、その苦労を顕著に現しているのが、今、彼の両手いっぱいに絡みついた抜け毛であった。
「はぁ……まあいい。とりあえず、飯の時間まで時間がある。ゆっくり風呂にでも入るか」
この宿に併設された、世界でも珍しい温泉施設。その分、宿泊費はかなり高かったが、温泉の存在を知ったクロスが強引に決めてしまった。幸い、クロスケールの懐事情は暖かい。何しろ、高レベルの魔物達を、次々とクロス達が倒すのである。当然、換金すれば相当な金になり、一部を売っただけでもかなりの資金を手に入れた。お陰で、クロス達が旅の資金を心配する事は無くなったのだが。しかし、それならば何故、スミスはここまで頭を悩ませているのか……。まさにその答えが、温泉に向かう彼の目の前で展開された。
《ドオオオオオオオオン!!!!》
激しい音と共に、廊下の壁が吹き飛ばされる。
「うおっ!!」
危うく巻き込まれそうになる直前で後方に飛び退き、スミスは眼前の惨状を見て溜息をついた。
「またかよ……。弁償代だってバカにならないんだぞ……」
そう。スミスの頭を悩ませる種。それは、所構わず魔法をぶっ放すお嬢さん達。ヒスイが仲間に加わってからは、更に頻繁に、そして更に激しくそれは繰り返された。
「全く……どうしてあの嬢ちゃん達は、あんちゃんの事になると暴走するんだ……。普段はいい娘達なのに……。その上、とんでもねえ能力にまで目覚めやがって。前より激しくなってるじゃねえか。ただでさえ、悪魔の子は目立ちやすいってのに……この宿の弁償代だってタダじゃねえんだぞ……」
溢れ出す愚痴が止まらないスミス。
この世界では忌み嫌われる存在、悪魔の子。それも、自分以外に三人も。スミスとしては、極力、隠しておきたい事実である。しかし、当の本人達は隠そうともしない。いや、隠せないのか。そう。クロスの事になると、我を見失ってしまうのである。
「待ちなさい! 色欲竜!」
「我は旦那様の背中を流そうとしただけじゃ!」
「二人共……殺す……」
──また始まった……。
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