第57話 覚醒
──ドクン。
目の前の視界が歪む。まるで心臓が頭の中にでもある様に、ドクドクと血が暴れ回る。
すると、爆風で巻き上げられた砂埃と爆煙が、少しずつ晴れて来た。俺は、うつ伏せに倒れたままの状態で、視線だけを向ける。そして、目に映る現状を見て愕然とした。
血を流し、倒れているアスカ。ピクリとも動かない、ビビとスミス……。
(俺のせいだ……)
俺が、甘かった。
正直、竜を舐めていた。
ビビ達はあんなに警戒していたのに、俺はまだ、どこかゲームの様な感覚が残っていた……。
「う、うぐ……」
全身に激痛を感じながら、鉛の様に重くなった体を起こす。
仲間を巻き込んでしまった。
情けない。
自分が、許せない。
幾つもの感情が激流の様にうねり、脳裏を過ぎる。目に映る世界の天地が混ざり合い、歪んで行く。心臓の音がうるさい。
──ドクン。
まただ。何かが、俺の中で弾ける。
──ドクン。ドクン。
抑えられない。何か。今にも弾けそうな何かが、頭の中で膨らみ続ける。そして……
完全に砂埃が晴れ、意識を失い倒れているアスカ達が、鮮明な姿で俺の視界に飛び込んで来た。
──ブチィィィ!!
炸裂弾の様な何かが、頭の中で破裂した。ハッキリと聞こえたその音と共に、目の前が真っ赤な真紅に染まる。
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
咆哮。
何に対してなのかは、わからない。
許す事ができない、自分に対して?
それとも、仲間を傷付けた灼熱竜に?
わからない。だが、感情だけが先走り、暴走する。俺を中心にして地面が窪み、地響きと共に再び砂埃が巻き上がる。
体が軽い。自分の体ではないみたいだ。先程までの痛みは感じない。俺は、感情の赴くままに灼熱竜を睨み付けた。そして、真紅の世界を奴に向かって走り出す。
「な、なんだ!?」
何が起こっているのか理解出来ていない、灼熱竜。どうやら、完全に俺を見失っている。俺は、構わず奴の懐に飛び込んだ。そして、奴の喉元を下から飛び上がりざまに斬りつける。
「グギャア!!」
短剣の切れ味が、いつもより鋭い。しかし、さすがは竜。一撃で仕留めるには至らなかった様だ。俺は、そのまま奴の顔面に向かい飛び上がる。そして、奴の鼻先に着地すると、そのまま右の眼を斬り付けた。瞬きをする暇もなく、奴の眼球が二つに割れる。
「ギヒィィィ!!」
大量の血飛沫を、全身に浴びる。しかし、俺は止まらない。悲鳴を上げる灼熱竜の開いた顎を視界に捉え、そのままその中に飛び込んだ。未だに奴は、俺を認識出来ていない。俺は、その鋭い牙が並んでいるのを確認すると、歯茎毎、根こそぎ全て切り落とした。
「ギャアアアアアアッ!!」
断末魔の様な叫び声を上げ、灼熱竜がのた打ち回る。既に着地している俺の前に、切り落とされた上顎の歯がボトボトと落ちて来た。
余りにも圧倒的な力の差を見せつけ、灼熱竜を蹂躙する。そんな俺の姿を見て、古代竜が驚きの声を上げた。
「──能力の暴走……限界突破能力だと……! しかも、人間がこんな潜在能力を……この小僧、一体何者じゃ……?」
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