表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31番目のお妃様  作者: 桃巴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/43

31番目の妃『にがーいお話し』

『にがーいお話し』




 ザバザバー


「おお、匂ってきたな!」


「ちょっと、兄さん! クコの葉を入れるなら入れるって宣言してからにしてよっ……うっ、クハッ」


 立ち込める臭気に、フェリアは口を手で覆い、鍋から遠ざかった。


 フェリアだけでなく、ケイトもゾッドら騎士も遠巻きにしている。


 その中でガロンだけが、平然と鍋をかき回していた。


「さあ、今日は一日中煮詰めるぞ!」


「だから、嫌だって言ったのに!」


 フェリアは涙目になり、ゾッドをなじった。


 嫌がるフェリアをなだめ、ガロンに鍋の作業をさせたのはゾッドである。


「私は、ビンズ隊長から作業を許可するように言われたまでです! うっ」


 大声で反論したゾッドは思いっきり臭気を吸い込んだようだ。


「ここでさせないでって言ったじゃない!」


「まさか、丸薬作りがここまで臭いだなんて思っていなかったんです! うっはっ、いかん駄目だ」


 ゾッドは駆け出した。門扉に向かって一目散に。


「うっわ、ひとりだけ抜け駆けはずりーよ」


 他の警護騎士も駆け出した。


 ソーッとケイトもついていく。


「ちょっと! 私の警護はどうするのぉぉ。きゃっ」


 フェリアは叫びながら、皆を追おうとするも、ガロンにむんずと腕を掴まれる。


「なーに逃げてんのかな?」


「ひっ」


 ドロッドロの液体のついたしゃもじをガロンはフェリアの手に持たせた。


「さあ、疲れた皆に飲ませる丸薬だ。おおいに頑張ろうじゃないか、妹よ」


 フェリアは、ニタリと笑うガロンの意図を瞬時に理解し、同じ笑みになる。


「ええ、そうね。長期間警護している騎士に、飲ませてあげなきゃね」


 ニッタリ、ニッタリと笑みながら、鍋をかき回す二人は、さながら悪魔と魔女のような雰囲気だ。


 門扉からゾッドらは、悪寒を感じながら眺めていた。




 そして……


「グッハッ」


 最初の犠牲者は、いやありがたく丸薬のお世話になったのは、ゾッドである。


「妹を荒事から守っていただいて、感謝します。さあ、ゾッド殿、お口を開けてください」


 悪魔なガロンから、ゾッドの口に丸薬が投入され、ゾッドは口を押え奇妙に体をくねらせながら、薬草畑に身を埋めた。


 うっわー、大変だなあと、傍観者であった二人の警護騎士の口にも、ガロンは容赦なく丸薬を放り込んだ。


 そして、ケイトにはフェリアがにじりよる。


「わ、わたしは! この通り元気ですので」


 そう叫んだケイトの口に、フェリアは丸薬をポイと入れる。


「もう、ケイトったらご謙遜がお上手ですこと」


「モゴッ」


 ケイトは口を両手で押えた。


「皆さん、これを指示したビンズにも飲ませてあげたいわね?」


 悪どい笑みのフェリアとガロンに、皆が涙目で大きく頷いた。




 何も知らないビンズが門扉をくぐる。そして、ビンズも丸薬のお世話になったのだが……


「ケホッ、ケホッ、丸薬作りは王様のご指示ですよ」


「まあ! マクロン様が?」


「効き目抜群苦い丸薬のお話しを、以前フェリア様は王様になさったではないですか? ケホッ……、それで、ガロン様がいらっしゃるなら作ってほしいとおっしゃいまして、ケホッ、ああー臭いし、苦い! 備蓄薬の予定だったのですが、これじゃあ保管できませんね」


「乾燥前の生の丸薬は苦いだけじゃなくて、臭いもの。乾燥してしまえば、口に入れなきゃ臭みは感じないわ。そう……マクロン様の依頼なのね。フ、フフフ」


 フェリアの顔が悪戯っ子のように変わる。


「ダナンで一番心身を酷使していらっしゃる王様に! マクロン様に御賞味していただきましょう」


 ニタ、ニタニタ、ニタリニタリ、ニッタリニッタリと、皆の顔が変わっていく。さあ、次の犠牲者は王マクロンである。




『マクロン様のため、丹精込めて作りました丸薬です。どうぞ御賞味ください。フェリア』


 マクロンはフェリアの文に笑みを溢す。


「王様、こちらでございます」


 ビンズが仰々しくトレーを持っている。フードカバーがされ、匂いはもれていない。


「では、いただこうか」


 ビンズがテーブルにトレーを置く。いつもなら数歩下がるだけだが、『どうぞ』と促すと、ササササッと戸口に近い所まで遠ざかった。


 しかし、マクロンは気にもとめず、躊躇なくフードカバーを持ち上げた。


「ん?」


 マクロンの鼻がピクンと反応する。


「フェリア様が丹精込めて作りました丸薬にございます! ささっ、一気に飲み込んでください」


 遠く戸口から聞こえるビンズの声を、マクロンは一瞥しその様子を睨む。


 ビンズは戸口で鼻を摘まんでいた。


「さっさと飲み込んで、お返事を!」


 ビンズの声は叫びに近かった。


 マクロンはフェリアの文を再度見る。なるほど、悪戯顔が想像される。これはフェリアからの挑戦なのだろうと、マクロンは不敵に笑った。


 丸薬を摘まむと、口に放り込み飲み込む。


「確かに、臭く苦いな……グッ」


 声を出すと臭気がもれる。それでも、マクロンはのたうち回ることはなかった。


「流石、王様です。皆、地に沈みましたが、大丈夫ですか?」


 マクロンはニヤッと笑う。


「お返しをせねばな。グッ」


 口を手で覆いながら、マクロンは仕返しを、いやお返しを、とびっきりのお返しを考え付いていた。




「フェリア様、王様から昨日の丸薬のお礼の品でございます」


 ビンズはまたもトレーを持っている。


 フードカバーがされたそれに、フェリアは『ひっ』と悲鳴をあげた。


 丸薬がいかに凶暴か分かっているだけに、マクロンからの返礼品は、きっとフェリアを困らせる物であると想像できるからだ。


 マクロンのお礼返し……フェリアは口角をヒクヒクとさせて笑ってみせた。


「ま、まあ。嬉しいわ」


 ビンズがニヤッと笑った。


 フェリアはその表情にまたも、冷や汗をかく。


「そう、お構えしなくても大丈夫です」


 ビンズはテーブルにトレーを置くと、フェリアにマクロンからの文を渡した。


『私からは甘薬を贈ろう。一緒に口直ししようか。つまみ食いせず待っているように。マクロン』


 ビンズは、フェリアの目線が文から上がるタイミングでフードカバーを開けた。


「まあ! 素敵」


 ガラスの器に、カラフルな物体が盛られている。


「これが甘薬?」


「星くず菓子こんぺいとうと呼ばれる砂糖菓子でして、最近遠国から伝わり、城下町で流行しております。王様は、朝の政務のあといらっしゃいますので、どうぞお待ちを」




 一時フェリアが砂糖菓子を眺めていると、マクロンが現れた。


「気に入った?」


「ええ!」


「つまみ食いはしていない?」


 フェリアは唇を尖らせ、『そんなことしていません』と答えた。


「じゃあ、口直しするか」


「フフ、楽しみです」


 マクロンが砂糖菓子を一粒摘まむ。


「さて、文にしたためたように"一緒に"口直しをしようか」


 マクロンは砂糖菓子を唇に挟むと、フェリアを抱き寄せ、びっくりするフェリアの表情を楽しみながら、顔を近づける。


 あまーい砂糖菓子が二人の口で溶けた。とろけた?


 甘味を残しながら、砂糖菓子が消えると、やっとマクロンの唇はフェリアから離れた。


「悪戯っ子にお仕置き」


 マクロンはへにゃりと体の力が抜けたフェリアの耳もとで告げた。




 ダナン国で、丸薬とともに砂糖菓子が処方されるようになったのは、王様のお仕置きが発端であった。




 あまーいお話しに変わり、終わり。

2018/6/15

KADOKAWAビーズログ文庫

『31番目のお妃様』発売です。


詳しい情報は後日活動報告にて。


記念SS『にがーいお話し』でした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ