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31番目のお妃様  作者: 桃巴


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39/43

31番目の妃*39

「わ、わた、私は……ぁぁ」


 ガチガチと歯があたる音は、震えがもたらすものだ。そこで、声をあげたのはフェリアである。


「まあ、大変! マクロン様、声を出せぬほど震えておいでですわ。このように、名高い貴族様らにさらされましたら、いくら妃候補の方だったと言えども、気高く毅然と立つことなんてできませんのね。全く、妃候補に上がった方であられるのに……ふぅ、情けないこと。はぁ、ダナンの高位貴族の令嬢がこの程度とは無様でございますね」


 サブリナは最初何を言われたのか理解していなかったが、頭の中でフェリアの言葉が何度もこだますると、カァッと頭に血がのぼった。真っ向から無様だと罵られたと理解したからだ。サブリナの芯が一気に燃え上がる。キッとフェリアを睨み付けた。やっと顔が上がった。


 フェリアがニンマリと笑む。『さあ、かかってこい』とのサブリナを煽った笑みだ。その笑みでさらに言葉を紡いだ。


「まあ、そんなにお顔を真っ赤にしちゃって、お可愛らしいこと。あら、また激しくぷるぷると震えているのね。私が抱きしめてあげましょうか」


 今度のサブリナの震えは、怒りによるものだ。それをフェリアにからかわれ、サブリナは沸点をこえた。溢れる……


「ダナンを背負う王妃たるものが、僻地の田舎者では心もとないからよぉっ!! 毒程度の後宮の洗礼で騒いでるんじゃないわよ! その程度の洗礼で倒れるようじゃ、妃になれないから! だって、王妃よ、王妃を選ぶのよ。力ないものがなってはならぬでしょおぉぉ! 私が、相応しいに決まっていますもの! ええそうよおっ、私が毒を依頼したのよっ! 王弟なんて関係ないわ! 私が、そこの田舎者を見定めるために毒を依頼したのよ! 自邸にとじ込もっていた虫ケラ貴族になど、なじられる程のことではないわ!」


 シーン


 シーン


 シーン


 サブリナの肩で息する声だけが、会場に流れる。そしてハッとしたのか、大きく目と口を開けサブリナは固まった。


「ええですから、よぉく、わかっておりましたので、私、倒れてなどいないでしょ」


「正しくそうであるな。至極当然のことだ。フェリアよ、最終妃試験は合格だ。よくぞ、ミミズ箱から、毒の対処まで華麗にさばいたな。


公爵、嫌な役目を請け負ってくれて感謝する。本物を用意させたことで、死斑病が発生してしまったが、その原因と解明で思わぬ産物ができた。ダナンは薬草交易でさらに発展しよう。すでに各国から依頼がきている。おお、そうだ。姫妃らをこれへ」


 貴族らはポカーンだ。もちろん、公爵も内心はポッカーンであろうが、そこは公爵である。何とか顔を崩さず王に一礼してみせた。感謝すると言われて、頭を下げぬ臣下はいないであろうから。そして、その間に頭を回転させる。妃らが入ってくる。頭を上げるその間に。


 公爵は頭を上げ、淀みなく言葉を発した。


「フェリア様の最終試験の合格のほど、おめでとうございます。公爵家として、協力をお断りするなどできましょうか。嫌な役目だと思っておりません。ですが、サブリナを……実の娘を煽り、フェリア様への後宮の洗礼を囃し立てる私の心は、苦しくありました。サブリナ、お前のフェリア様への嫉妬心と王妃への執着心、ダナンへの忠誠心を上手いように煽動させてもらったのだ」


 これで合っているのでしょうかと、公爵は王マクロンを見る。マクロンはフッと笑ってそうだと合図した。


「皆に此度のことを知ってもらうために、総会を開いた。事の次第は多岐に渡り、複雑に絡み合っていたため、皆にわかるように公に見せたのだ。全ては妃選びが原因である。フェリアの王妃の適性を確かめるため、いくつかの試験が用意された。もちろん、他の妃にも相応に行った。後宮の一般的な洗礼である女官長の意地悪からはじまり、ミミズ箱の贈り物、果てはフェリア邸に侵入者を差し向け、どう対処するか。そして、最後に毒の試験だ。暗殺をかわせるかを最終試験とした。見事フェリアは華麗にかわしてみせた。


さらに! 死斑病の対処によって、ダナンの民の支持を得ている。王妃に正しく相応しい !」


 貴族はポカーンと開いた口をひきつり笑いに変えた。公爵より遅いももの、王マクロンの意図を汲み取っている。しかし、認めるわけにはいかぬと、誇りを踏みにじられるのも二回目となれば、貴族らの狡猾な頭の回転が顔を出す。


「ええ、ええ……フェリア様の『お妃様の試験』合格おめでとうございます。我ら貴族も、フェリア様の『お妃様』の資質に関しては認めましょう。素晴らしい『お妃様』であられます。ですが、ですがです。お妃様といっても『王妃の位』に相応しいかの判断は……正しくサブリナ様の仰る通りでございます。王妃でございますよ。王妃は力ないものがなれません」


 貴族らが牙を剥いた。後ろ楯の力のないフェリアでは駄目だと言っているのだ。


 フェリアはキョトンと貴族らを見つめる。貴族らはわかっていない。フェリアの思う力とは、本当に力である。だから、フェリアは言うしかない。


「では、あなたに勝てばよろしいの?」


「は?」


「ですから、力でしょ? 決闘になるのかしら?」


「え?」


「マクロン様、剣はあまり得意ではありませんが、頑張りますわ。マクロン様の試験に合格しても、あの方々の試験にも合格せねばならぬと仰っているようですし、私、頑張りますわ。王様の合格でも駄目なんて、ダナンの妃選びの制度って不思議ですわね」


 フェリアの最後の文言に貴族らは、あわあわと口がこもる。またもや、フェリアにやられたのだ。だが、フェリアはここで止めたりはしない。とどめは、きっちりささねばならぬのだ。


「では、我が子供の頃に使ったレイピアを授けよう。カロディア領での魔獣退治の腕前を見せてもらおうか」


 マクロンもノリノリでとどめをさした。


 進言した狡猾な貴族は、フェリアとマクロンの会話に青褪める。


「まあ、マクロン様ご冗談を。レイピアで魔獣は倒せませんわ。精々目玉ひとつぐらいを突く程度ですわ。レイピアで倒せるのは……」


 フェリアは視線を貴族へ向ける。貴族は一歩後ずさった。


「レイピアをお持ちしましたよ」


 婆やがグチグチ言いながら入ってきた。子供の頃のレイピアを所望すれば、婆や以外にその場所はわからぬだろう。婆やはかり出されて、おお腰が痛いと言いながらマクロンにレイピアを差し出した。


「婆や、使うのはフェリアだ」


「おや、まあなんと。ええ、レイピアでしたら軽いですし、なるほど、なるほど。王剣を授かるとは王妃様になられましたか。よお、ございました。婆やの生きている内に、玉のようなお子がお生まれになられますよう、婆も祈っております」


 婆やの発言に、貴族らは底無し沼に落ちたような感覚に見舞われた。手の上で転がされていたのだ。つまり、もう遅いのだ。何をどう足掻いても遅いのだと気づかされた。しかし、フェリアは貴族らが気づいていても止めたりはしない。


 王マクロンの前に片膝をついたフェリアは、満面の笑みでマクロンを見上げた。婆やが、マクロンにレイピアを渡す。


「我の剣を、フェリアに託す。王剣を託すはその力、我に並ぶ者である。ダナンを率いる我の力である。フェリアよ、存分に力を使え」


 マクロンの手からフェリアにレイピアが渡った。フェリアはすっくと立ち上がり、発言をした貴族の元に歩む。


「王様より許可がおりた。私の力を存分にお見せしましょう!」


 サーッと引く。フェリアと発言をした貴族の周りに人がいなくなった。貴族はもう観念した。敗北した。ここで、フェリアと剣を交えるのは、王と剣を交えると同じ意味になる。なぜなら、王マクロンは力をフェリアに授けたのだ。王剣という力を。


「も、申し訳ありません! 私に剣を持つ意思はありません! どうか、どうか、剣をお納めくださいませ!」


 貴族の悲鳴のような叫びが響いた。


 そのタイミングを見計らったように、姫妃らがフェリアの前へと進み出る。


 貴族らの心に希望の灯火が灯る。王剣を授かったとしても、単なる僻地の領主の妹が、国を背負う姫妃らに位高くはいられまいと。田舎者に頭は下げられまい。姫妃らはきっとフェリアを抑え込むに違いないと、そう期待した。


「フェリア様、王妃様の決定おめでとうございます」


 しかし、期待は裏切られる。


 先陣をきってキュリーが膝を折った。それに合わせるように、7番目、9番目、10番目の元妃らが膝を折る。


 貴族らはまたもポカーンやら呆然やら放心している。


「残りの七ヶ月間、妃教育を私めが王様より承っております。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 ざわめきが起こる。隣国の姫が直々にフェリアを教育するというのだ。こんなに心強いものはない。そして、王妃教育者として相応しくないとの声は出せないだろう。後宮の主がいなかったダナンにおいて、それが出来うる者も早々いないのであるから。


「私もキュリー様の補佐として、滞在中は尽力いたします」


 7番目の元妃が言った。ダンスの得意な妃である。立ち居振る舞いがキュリー担当なら、ダンスはこの妃である。


「フェリア様……フェリア様ぁぁ、ありがとうございます。ありがとうございます」


 次に、フェリアの前で涙を流し膝を折っているのは9番目の元妃である。国内事情により、ダナンに避難というかたちで滞在している元妃だ。


「我が国は……死斑病の蔓延で……」


 そこまで言うとポロポロポロポロと涙が滝のように溢れ出た。


「まあ、そのようにお泣きにならないで。きっと、貴国の死斑病も終焉しますわ。カロディアの現領主が行っているのですよ。ご安心ください」


 9番目の元妃の母国は、死斑病が蔓延しているのだ。だから、ここダナンに避難していた。そこにいち早く向かったのは、カロディア領主リカッロである。もちろん、マクロンの王命を受けてだ。


「ダナンの王妃フェリア様、私、このご恩忘れません」


 9番目の元妃は、マクロンにも深々と頭を下げて一歩下がった。そして、10番目の元妃が出る。


「フェリア様、おめでとうございます。我が国もご恩を忘れません。我が国への薬草栽培の技術協力、ありがとうございます。我が国はカロディア領と同じく高地にあります。ダダの薬草を必ずや栽培成功いたします」


 ぐうの音も出なくなるとはこのことか。貴族らは、すごすごと頭を下げて祝いの言葉を繋げたのだった。

次話明日更新予定です。

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