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31番目のお妃様  作者: 桃巴


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34/43

31番目の妃*34

「お、お待ちを!」


 サブリナが声を上げた。


「私たちは、この王城のことを思って進言したのです。王様のことを思い、死斑病がこの王城に入らぬよう、そう思い……だから、だから、心を鬼にして」

「ならば、我も心を鬼にして言おう。さっさと王城から出ていけ!!」


 マクロンの怒声は、サブリナらの膝を崩すには十分な威力であった。


 その横を、工人らがタロとダダの薬草を持ってすり抜ける。フェリアはハッとし、マクロンの腕の中から離れると、タロ芋に向かう。


「大鍋にいっぱいの水を入れてください! 芋の皮むきをできる方はお願いします。ダダの薬草は最後に入れます。姫様方、薬草を小さく千切ってください。それをすり鉢で擦って鍋に入れますので」


 フェリアはすでにタロ芋の皮を剥きはじめていた。マクロンはフェリアの働きに大きく頷くと、近衛らに指示を出す。薪と水を持ってくるように。その間に、工人らは近くの石やレンガで釜を作り大鍋を配置する。皆、必死にダナンの死斑病と戦っているのだ。


 サブリナらは茫然とそれを見ていた。置き去りにされた……いや、存在が無いかのようにされている自分たちが、なんと浅はかでみすぼらしく、恥ずべきであると痛烈に肌で感じている。まだ、侮蔑の眼差しで見られる方が安心するほど、誰もがサブリナらを見ない。そんなものに構っている事態でないと、皆が動いているのだ。なぜなら、フェリアがそうしたのだから。


 怒り、反論する間も惜しいと、フェリアは後宮の入口で待ち構え、道を塞いだサブリナらとは対峙さえしなかったからだ。工人に指示を出し、民のために動いていたからだ。口論の時間など惜しいと。


 だが、ひとり……ひとりだけ、そのサブリナらに寄っていく者がいた。例の侍女である。侍女は女官長の前に立つと、震える唇から発する。


「発症者の中に、女官長様の甥子様がおられます。フェリア様の兄上様が、治療にあたっておられるのです!」


 女官長の目が大きく開かれた。


「な、なんですって? あの子は、だって、あの子は……先月隣国セナーダに行ったはずよ!」


 先月、そう森林火災があった後、セナーダにしばし行けと女官長が指示したのだ。フェリア邸を手薄にするために、森林火災を甥に起こさせたのは女官長である。


 その甥は、母国にすぐに戻りたくてある公爵令嬢から秘密の依頼を受けた。腐り沼の毒の調達である。紫色をした毒……『紫色の小瓶』は女官長の甥が調達したものだ。火災後に発生する毒沼からとれる毒は、裏社会では有名な毒だ。甥は仲間と共に火災後の森林に入り、毒沼を見つけそこで毒を採取し、ろ過して紫色小瓶を作ったのだ。甥と仲間で三名。


「発生地の診療所で隔離されています。フェリア様の邸で栽培したタロの生葉で、治療中です。そのフェリア様を、女官長は邪魔するのですか?!」


 震えた声は、最後には叫びのようにハッキリと女官長向けて発せられた。


「そんな……そんなこと……」


「そんな者に構ってないで、芋煮を手伝いなさい!」


 フェリアは侍女を叱責した。侍女はすぐにフェリアの手伝いに戻った。残ったのは、茫然自失の女官長だ。這いずるように後宮から出てきて、フェリアの元に進んでいく。しかし、それはマクロンによって阻まれ、マクロンの命によってサブリナをはじめとする一同は、近衛に引っ捕らえられ城門の外に放り出された。


 城門前で発狂する妃ら。予防の芋煮も食べていない者らだ。死斑病を恐れ、王城内に避難させて欲しいと懇願する。金切り声の懇願は、無様で城門に集まる民の眉間にシワを寄せるには十分であった。ここに集まった民たちは、フェリアから芋煮を頂き、フェリアの手伝いをしようと集まった民たちである。


「フェリア様! 芋煮が出来たら俺らが運びますので、少し体を休めてくださいませ!」


 城門の外からそう声がかかる。


 フェリアは、その民の声に答える。


「皆さん! ありがとう。でも平気よ! ここでは、王様も各国からいらしたお妃様方も、皆で芋煮を作っているの! 体は十分休めているわ!」


 そう言いながら、フェリアの手は芋の皮むきをしている。


「なんと、王様も、姫妃様らもですかい?! そりゃすげえ! ありがてえ……こんな素晴らしい国の民で良かったな、皆」


 城門の外はワイワイと盛り上がった。


 マクロンはフェリアに近寄ると、その髪に唇をおとした。


「感謝する。民がより一丸となった」


 マクロンのそれに、フェリアは頬を赤らめながら、その手がマクロンの頬をさする。


「煤がついておりました」


 二人は微笑んだ。はじめて微笑みあった日のように。




***


 一晩中かけて、なんとか芋煮を配り終えた。まだ全ての民に行き渡ってはいないが、一通りの見通しがつき、フェリアはやっと腰を下ろした。ペタンと座ったフェリアの横にマクロンも座り、フェリアの頭をその手で包み込んだ。


「少し目を閉じ、我に体を預けよ」


 フェリアはマクロンの言葉のままに、コテンと頭をマクロンの肩に預ける。ゆっくりと目が閉じられた。マクロンはフェリアを優しく抱える。


 二人の優しい時間を邪魔せぬように、皆が少し離れた。姫妃らは邸に戻った。工人らには、フェリア邸での休息が言い渡された。騎士らは、順繰りで仮眠をとる体制がビンズの元で行われている。


 朝陽が二人を照らす。マクロンは、フェリアの頭に軽くキスをおとした。フェリアは目を開けてマクロンを上目遣いに見つめる。いつもは朝陽に祈る二人は、互いの瞳に祈りを捧げた。


 朝陽に照らされた二人の影が重なっている。

次話7/18(火)より完結まで毎日更新予定です。

たくさんの感想ありがとうございます。

一気に心のままに返信したため、失礼な文章になっているかもしれません。ご容赦くださいませ。

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