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反撃と襲撃

「っ!汝よ!」

 「舐められたものだよ、大司教!」

 

 焦ったような声を聞き、大丈夫なのにとばかりに肩を竦めながらファリスは軽く近くの龍少女へと手を振った。そしてそのままその体は伸ばされた霧の手に囚われ……

 

 たかと思った瞬間、その腕は降り注ぐ雷光によって縦に真っ二つに切り裂かれた。

 

 「何っ?」

 「王我剣・朔月裁ー震打卸(しんうちおろし)

 私が本当に無防備だと思ったのかい?それは間抜けというものだよ、大司教」

 「汝よ、それは……」

 「振り上げられた諸刃の剣。ならば当然振り下ろされるのが道理というもの。上げたままでは示しがつかない。

 私が打ち上げたオーラの雷は、少しの時を置いて撃ち下ろされる。それこそが二の太刀である震打卸。後先考えず隙を突こうという間抜けを穿つ刃」

 

 嘲るように、ファリスは狂暴に笑う。他では見せない残酷さを剥き出しに、くつくつと。

 

 「流石はディランに誘い出されむざむざと魔王を倒され、勇者の剣も奪えなかったスカトロジストの親玉。今回も焦りすぎたようだ」

 

 冷徹な声と共に、ファリスは軽く剣を振り、再度全身に怒れるオーラを纏う。

 

 「確かに諸刃の剣だよ、二の太刀の後に明確な隙が出来る。だから、貴様は待つべきだった。焦ってくれて助かったよ大司教。

 お陰で君を簡単に討てる訳だから」

 

 そのまま、青年剣聖はオーラの剣を黒き翼の青年へと向けた。

 

 「貴っ、様……」

 「おっと、優しげな仮面が崩れているよ。それで良いのかい大司教。最早リガル少年も誰も騙せないほどに、醜悪な顔をしているが」

 

 「それは貴様も……」

 「そうだね。同じだとも。だって、君は私にとって……この手で殺せて嬉しい唯一の存在だ。ニアには見せられない顔だろうとも」

 

 自嘲げに、けれども獣のように……そう、勇者ディランが最期に見せた笑みそのままに、ファリスは嘲笑(わら)う。

 

 「終末は訪れない。訪れさせしない。私が、勇者ディランの親友が居る限り。滅びの夢は見果てぬ夢のまま果てるが良い。

 そんなに世界が嫌いなら、己一人で死後に旅立て。その為ならば」

 

 轟!とオーラが更にファリスの全身から強く吹き上がる。それは、青く輝く獣そのものの姿。

 

 「冥府への旅賃くらい出してやろう」

 

 剣を突きつける剣聖の背に、丸っこい虎耳をして同じように剣を握る青年の姿すら幻視する。

 

 「……くっ、やはり貴方はあの時勇者と共に死ぬべきであった」 

 「そのつもりだったよ。君がわざわざ此方を罠にかけようと、ノコノコ姿を見せなければ、ね!」

 

 轟く雷鳴。雷の速度で振るわれた剣が青年の背の黒い翼を半ばから両断し、刹那の後に一瞬ブレた剣聖の姿は司教の背後にあった。

 

 「朧雅剣・火澄轍(かすみのわだち)

 「くっ、しかし……」

 

 伸ばされた闇は剣聖を突き抜け、けれども手応え無く空を切る。

 

 「三輪華」

 

 既にそれは残像。遥か昔に背後ではなく更に横へと動いていたファリスの宣告と共に、大司教の両腕から血の華が咲いた。

 

 「……本当に、面倒な!」

 「此方の台詞だ、大司教。けれどもやはり、生き延びたとはいえディランの一撃は体に堪えたようだね。前よりも反応が鈍い」

 「あの時死んでいれば!」

 「その時は、私の遺志を汲んだネージュ達が君を止めたろう。だが、私とてディラン達に託された以上……最早止まってはやれないね!」

 

 振るう剣が翼を引き裂く。黒翼の大司教はもんどりうって地面に崩れ落ちた。

 

 「この、死に損ないが!」

 「死に損なったから、遺志を継いだ。終わりにしようか」

 

 だが、その瞬間。

 

 「ししょー!」

 

 聞こえるはずの無い声が、ファリスの耳を叩いた。

 

 「ニア!?どうして」

 

 姉弟子のネージュには決して彼女を近づけないよう時間を稼いで欲しいと言っていた。だからここまで早く彼女がこの村に到着する筈がない。困惑と共に剣聖の刃がブレ、空を切る。

 

 「……ネージュ」

 「うーん、そうも言ってられなくなったよ」

 

 共に現れたエルフの少女が語る通りであった。彼女の視線を辿り、ファリスも違和感に気が付く。

 

 「っ、あれは……」

 

 思わず絶句した。そう、あるはずの無いものが其処にはあった。

 

 「……魔王、城……」

 

 ファリスが見上げた村の空には、村よりも遥かに大きな巨大な城が浮かんでいた。

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