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悪食

「……(なれ)よ、如何(いかが)した?」

 

 ファリスの膝上で、紅の龍少女がふとそう問い掛けた。

 多大な迷惑をかけたアルフェリカの冒険者を主とした兵(街の外に出るのは基本的に冒険者のみなので、そういう事になる)等に事情を話し……ては恐らく騒ぎになるだろう。何とかして誤魔化しつつ、ギルド上層部と国王にだけはそのうち真相を語るべきだろう。

 

 だが今は、上機嫌で食事……と呼べるのか怪しい行動を取る目の前の皇龍である。

 

 「(われ)を幾ら見詰めても飽きは来ぬ。

 それは佳き事なれど、言の葉無くしては伝わらぬ」

 

 白い塊を頬張りながら、皇龍ヴリエーミアはそんなことを語る。

 

 そんな彼女をファリスはというと……龍って怖いなと眺めていた。

 

 「弟くん、何食べてるの、彼女」

 「家の故郷で保存食として良く作られていた熟成肉」

 「へー、ボクも食べて良い?」

 「を、保存し熟成させる為に周囲に塗り固める味塩の塊。つまり、あの塊、大体塩」

 

 正確には、7割塩で3割が味付け用の粉末。

 ファリスの言葉に、銀のエルフは眼を剥いた。

 

 「え?7割塩なのあれ?

 もう毒だよねあの量?」

 「大体……全部で10kgかな。人類にとっては致死量ってレベルじゃない」

 

 ファリスは肩を竦め、上機嫌にファリスがあげた味塩の塊をその形の良い口に運んでは幸せそうに口の中で溶かして飲み込んでいく膝の少女を信じられない眼で見る。

 

 とある3種の野菜をドロドロになるまで煮込んで濾した伝統の味粉末と塩を混ぜた熟成用の塩。味は確かに良く、ファリス自身味付けには多用するのだが……

 当然、塊で食べるようなものではない。

 

 「ヴリエーミアさん」

 「汝よ」

 

 すっと、龍の眼が細まる。

 

 「エーミャ、だ。汝がそう吾を呼ぶとしたのならば、その名を溢すが道理よな?」

 「エーミャ。本来これは、こっちを食べるものなんだが」

  

 端の変色した部分を切り取り、中身を串に刺して軽く炙った肉汁が滴る肉を少女の前に差し出しながら、ファリスは呟く。

 けれども、紅の龍は一目見て要らぬ、と首を振った。

 

 「人の子等はそちらを主に食するのであろう?

 佳い佳い。汝が全て口にして構わぬ」

 「……いや、でも」

 「真を語るとな、吾にとって肉とやらは刺激が足りぬ。故、気に病まずとも佳い。

 吾には、此方の方が余程心が求めるものなのだ」

 

 そう言って、超絶馬鹿舌龍は横の塊の味塩に手を伸ばした。

 

 「……本当に良いのか?

 こっちの方が美味しいぞ?」

 「吾とて、繊細な味の妙は理解の及ばぬものには(あら)ず。

 なれど、ソラには塵と霞しか無きが故、数千の時を吾は味の無いもので過ごしたのだ。

 故にな。今の吾にとって、望む味とは即ち暴威暴虐。暴力的なまでの味の塊。繊細な味を独占する事への吾への遠慮は無用なれば」

 

 不意に、少女龍の瞳が翳る。

 

 「真逆、吾は迷惑か?

 この美味の塊は、本来その先(なれ)等が手を加え再利用するもので、吾が口にしてはならぬのか?

 なれば、吾もその肉とやらを食するしかないが……」

 「私は基本廃棄してるよ、それ」

 「ならば佳かろう?

 吾はシオを、汝は肉を。夫婦(めおと)で綺麗に分けあえる。熟成肉とは良いものだ」

 

 「好きなだけ食べてくれ、エーミャ」


 ファリスには理解できない理屈だった。が、少女の気遣いや、本気は理解できて。

 

 「ボクでもお肉の方が好きかな……食べて良いよね?」

 「そもそも、私が生き残ったら食べようと思ってたものだから、好きなだけ持ってって」

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