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眠る龍

「……さぁ、(なれ)よ。

 ようやっとこうして言の葉を交わせる形で我等の道は重なり、出逢(でお)うたのだ」

 

 嬉しそうに無邪気に八重歯を見せて笑う少女の、その細いラインからは全く考えられない強烈な力がファリスの体を押す。

 

 「暫し、語り合おうではないか」

 「……っ!おわっ!」

 

 そのとてつもない力でもって、ファリスは頭二つ以上は小さな少女によって地面に転がされた。

 龍少女はその上に馬乗りになる。

 

 その重さは、重そうな服を含めても明らかに少女のものとしては可笑しくて、時折やっているとてつもない重量の重りを身に付けたようにファリスには感じられた。

 

 そして……

 

 「むぐっ!」

 

 龍少女はそのまま地面に押し倒した剣聖に覆い被さった。

 その胸元に顔を埋め、逃がさぬとばかりに尻尾を片足に絡め……そして、ふっと力を抜く。

 

 「……(なれ)よ。人肌とは、吾が思うより冷たいな」

 

 熱くした風呂のような体温を持つ龍にそう言われて、現状も忘れファリスは吹き出した。

 

 「なれど、かの星の夜とは違う、快い心地好さ……」

 

 その一言だけは、外見相応の幼さに見えて。

 ファリスは、弟子にするように、そして自分が何度も姉弟子にされたように、優しくその頭に触れる。

 

 それを心地良さげに受けて、静かに龍であった少女はその瞳を閉じた。

 

 少しして、安らかな寝息が聞こえ始め……遠くから足音が響く。

 

 「弟くん。大丈夫……じゃ、無さそうだけど。

 っていうか、ナニコレ?どんな状況?本気でどうなったの?」

 

 「すまないネージュ、ちょっと手伝ってくれないだろうか。

 重くて一人では引き剥がせない」

 「いや、それは良いけどね?

 ボク、弟くんがあの龍とイチャイチャしてる理由がそれよりまず知りたいかな!?」

 

 

 

 「……という形かな」

 

 何とか少女の形の金属塊かと言いたくなるような重さをした皇龍の変じた少女ヴリエーミアを体の上から引き剥がし、けれども尻尾の拘束は解けなかったので仕方なしにその頭を膝に乗せてやりながら、正座したファリスは横でじーっと此方を見てくる姉弟子エルフに今までの経緯を話した。

 

 「ふんふん、つまり、このドラゴンは、ボクと似たような事言って、ボクと違ってそのまま襲ってきたということ?」

 「人生の半分を使った一撃はプロポーズっていうアレ……私には少し理解出来ない感覚ではあるのだけれども」

 「うん、ボクにもそれで護ろうとされたボク達なら兎も角、人生の半分を使って追い払おうとされる事がプロポーズっていうのは……流石に予想つかなかったなぁ……」

 

 「予想ついてたらどうしてたのさ、ネージュ」

 「え?それならボクがちょっとやりあって見極めてたかな」

 「見極める?」

 

 どういうことだ?とファリスは首をかしげ、姉弟子を見た。

 

 「うん、ネズミちゃんにも言ったけど、ボクは君が使った人生の半分を代わりにあげる存在だからね。

 弟くんに不幸を持ってきそうなら追い払うし、そうじゃなきゃまっ良いかなーってしてたと思うよ?」

 「……ネージュ?君は私の保護者か何か?」

 「姉弟子だからね。お姉ちゃんだよ、ボク。

 つまり、保護者というのも間違ってないよね?特にエルフの中では」

 

 少しだけ悩み、ファリスはまあ……と頷くことにした。

 

 「それで?どうするの?」

 

 と、エルフの剣姫は、すっと真面目な顔付きになって、ファリスの膝ですやすやと安らかで無防備な寝息を立てる龍を見る。

 その背の剣は既に抜かれ、蒼いオーラを纏って少女の首筋の傷をなぞっていた。

 

 「今なら多分殺せるよ、弟くん。弟くんはやりにくいと思うから、必要ならボクがやれるけど……」

 「いや、やらないよ」

 

 と、ファリスはさっき決めた事を姉弟子に告げた。

 

 「敵意はなかったし、被害も……多分意識して抑えてくれてたんだろう。

 本気で、彼女は私に会いに来ただけだったんだ」

 

 超熱閃。あれを放てば幾らでも被害は出たろう。

 だが、今寝息を立てている龍は、魔物相手にしかそれを放たなかった。一瞬でチャージしきっていたところから見て、撃てなかった訳では無く……撃たなかった。

 

 そして、人の姿を取ってからの言動も理解はしにくく一方的だが、ファリスへの敵意は無い。

 

 「少し、話してみるよ」

 「うん、ボクもそれで良いと思う」

 

 あっさりと、エルフの剣姫は頷くや手にしていた剣を背中の鞘に戻した。

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