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龍との対峙

そうして、6日後、紅の龍星は大地へと落ちた。

 

 隕石の落下とでも呼ぶべき衝撃。

 せめてもの防衛にと応急修理し用意した設備は、設置した大弩や土嚢による壁は、吹き荒れる炎嵐によってなす術なく崩壊し、転倒し、そして燃えていく。

 

 蜘蛛の子を散らすように着いてきていた兵士が逃げ惑う中、オーラを纏う二人だけが無事だった。

 

 ゆっくりと隕石がその自身の体を覆う巨翼を拡げる。

 やるしかない、とファリスは防御姿勢を崩して剣を構え、心の中で呟いた。

 

 燃える紅の鱗、此方を見据える縦に裂けた黄金の瞳。人類を見下ろす巨大な体躯。

 その四肢は良く居るワイバーンとは異なり、翼と一体化することなく発達し、その身体よりも大きな両の翼の最中にも、ワイバーン種の翼に見られるような鉤爪を有する。

 二足歩行も可能とするのだろう、後ろ脚よりは短い前肢。長めの首と、あまりにも長大な尻尾。

 

 そして、その胸元から喉にかけて首を貫いて走る、一筋の傷痕。

 

 間違いなく、それは……かつてファリスがその人生の半分をかけて撃退した筈の伝説であった。

 

 「龍よ。伝説たる紅龍よ」

 

 静かに、ファリスは言葉を紡ぐ。

 

 「何故(なにゆえ)、彼の地に舞い降りた」

 

 返ってくるのは、一つの咆哮。

 ただそれだけで、ファリスの横の姉弟子が微かに後退る。

 

 臆したのではない。単純に、その咆哮の持つ物理的な圧力が、ファリスより小柄で軽いエルフの少女の体を撥ね飛ばしたのだ。

 

 言葉は要らない。交わす言葉など持たない。

 それは、一年前にも見せた絶対者の態度。

 

 「やるしかない、か」

 

 苦虫を噛み潰すようにして、ファリスは剣を一度振り、意識を整える。

 

 そんなファリスの態度に、挑発的に龍は牙を剥き出し、笑った。

 

 さも、その矮小な存在が、かつて己に傷を付けた相手であると理解しているかのように、その喉を上げ、逆鱗を晒す。

 

 「ネージュ、暫くは遊んでくれるらしい」

 「うん、じゃ、向こうが本気出すまで、ボクは見てれば良いかな?」

 

 その言葉に、剣聖は小さく頷いて、けれども視線は龍から外さない。

 燃える鱗、自ら鱗を溶かし、そして形成されていった甲殻。

 

 全身をそうしたものに護られた龍は、ファリスから見ても、生ける要塞とでも呼ぶべき存在だ。

 刃は届かず、剣の技も……

 

 「添芽剣(てんがけん)響崩打手(ひほうのうた)

 

 振動波を叩き込み、内部から崩落させる剣を打ち込むも、それは巨龍のくゆらせる尻尾に受け止められる。

 斬れないのはファリスも承知。けれど……

 

 その尾の動きは揺らぐことはない。その振動を無力化しているということを、言葉よりも雄弁に語る。

 

 お返しとばかりに、その尾がしなる。

 けれど、龍自体は動くことはなく、ファリスを一度追い払うような軌跡。

 そんな鞭のような尾を飛び越えて、ファリスは更に龍の首筋を狙う。

 

 「層瓦剣(そうがけん)・積層烈覇!」

 

 放つのは複数の剣撃を重ねた一刀。

 されど、巨龍はそれすらも己の右前足の甲殻で受け止めた。

 

 『ルォオォオオオォッ!』

 

 そして、放たれるのは炎のブレス。

 燃え盛る火の波が、飛び退いたファリスがついさっきまでいた辺りの空間を焼き払った。

 

 「……ふぅ」

 

 小さく息を整えるファリス。

 

 「……どう見る、弟くん?」

 「……完全に遊ばれてる。いや、弄ばれてるね。

 楽しい玩具か何かにしか思われていないようだ」

 

 そう、ファリスは姉弟子に結論を返した。

 

 「ん?そうかな?」

 

 「向こう、欠片も本気じゃない。

 飛ばず、後ろ足も使わず、何より超熱閃を撃ってこない」

 

 超熱閃。一年前に対峙した時に放たれた炎より速く、そして熱い光のブレスを思い出して、ファリスは身震いする。

 

 「遊ばれてるうちに、何とかするしかない。

 私には……ちょっと思い付かないけど」

 

 と、ファリスの言葉が切れるのを待っていたかのように……いや、恐らく実際に待っていた龍が、そろそろ再開せよとばかりにその翼を拡げた。

 

 「兎に角、やるしかない!

 何をするにも、時間を稼ぐ!」

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