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ネズミとオーラ

草木も眠る時間を過ぎ、朝に近付いた頃。

 

 すぅすぅと藁のベッドの上で丸まって小さな寝息を立てる少女フェロニアは、不意に首筋に冷たいものを感じて目を覚ます。

 そして、眠い目を擦りながら、何が当たったんですかねーと周囲を確認して

 その首筋に突き付けられた刃の存在を確認し、

 

 「あぴゃぁっ!?」

 

 と、情けない悲鳴をあげた。

 

 「ししししししししょー!」

 「はい、ストップだよネージュ」

  

 その声に、外で鍛練を始めていた青年が顔を出し、苦笑しながらそう言った。

 

 「んー?そう?」

 

 その言葉に、少女勇者の首元に剣を突きつけていた少女はあっさりと剣を引き、鞘に収めた。

 そして……

 

 「うーん。弟くんの弟子っていう割に、とろくさいね?」

 

 なんて、悪気はなさそうに、興味深げに呟かれる。

 

 「ネージュ。ニアはそういうのじゃないよ。だから、私の時と同じやり方は止めてあげてくれるかな?」

 「うーん、弟くんなら、簡単に止められるくらいだからどうかなーってボク思ったんだけど、駄目なんだねー」

 

 そう残念そうでもなく、エルフ特有の長耳を澄ましたように上向きにして、少女は呟いた。

  

 「ネージュ。私なら幾らでも相手になるけど、あんまりニアを脅かさないように頼むよ。

 彼女は」

 「分かってる分かってる。弟くんの大事なネズミちゃんだもんね。

 ボクも、ちょっとは強くなったのか知りたかっただけだし、じゃーねー」

 

 と、少女はそのままオーラを纏って姿を消そうと……して、あ、と思い出したように手を打つ。

 

 「そうだネズミちゃん。ネズミちゃんって、好物は?」

 「ちーず!」  

 「チーズね。覚えてたら、今日か明日くらいの歓迎会で出すねー

 じゃ、ボク帰るよ」

 

 言うだけ言って、少女は今度こそ姿を消した。

 

 「あは、は

 相変わらず不思議な人ですね……」 

 「あんまり気にしなくて良いよ、ニア。悪気はないから」

 

 だから困るんだけどね、とファリスは溜め息を吐いて。

 

 「ししょー、今日からはししょーやあのエルフさんのつかうまほーのおべんきょうです?」

 

 結局何をするのか聞いていなかったネズミ勇者は、もう起きて剣を振っていた師に問い掛ける。

 しかし、師は……複雑そうな表情を返した。

 

 「いや、あの魔法は……あんまり他人に教えるものじゃないかな」

 「ニア、おしえてもらえないですか?」

 「どうしてもって言うなら、私が師範やネージュの手助けも受けつつ教えてあげるけど、止めた方が良いよ。

 エルフなら兎も角、普通の人類にとっては、結構ろくでもない魔法だから」

 

 「でも、ししょーはすごくつよいですよ?」

 

 何をそんなに?と勇者は首をかしげた。

 

 「まあ、ね。

 でも、魔法を教える時に言ったよね。第三魔法の使い方を。

 己の命、自分の中のカミに向けて、お前の力を命の危機がある程に差し出せって言うのがあの魔法。誰でも使えるなら、私だって皆に伝えているさ。

 

 己のカミと対話し、屈服させる。それが出来なければ、あの魔法は使えない」

 

 静かに、諭すように、剣聖は言う。

 

 「フェロニア。エルフは数百年かけて、のんびりとした基礎修業の中で対話するらしい。

 私とネージュはせっかちだから、詰め込んで数年。そして飛躍で……心だけを飛ばして、対話した」

 

 でもね、とファリスは苦笑いする。

 

 「そうやって対話しようとして、対話出来ないまま意識が戻ってこれない人は多いらしいんだ。

 だから、この私達の流派は、御霊剣術は、エルフの御技。自然と対話できるまでのんびり待っても、それから先が幾らでもあるエルフのみに赦された技」

 「ししょー?」

 「香で心に潜り、対話出来なかった還らずの者は、生きていながら死ぬ。

 その可能性は高い。だからね、エルフ以外を弟子に取る時は、誰かが面倒を見る必要があるんだ。還って来なかったら、葬ってやるという約束でね」

 

 その言葉に、勇者は耳を垂らした。

 

 「それが、ししょーにとってのあの人?」

 「うん。私は体感1000年かかる難産でね。

 

 普通は、4~500年で限界。それを越えたものは、心が擦りきれて還ってこない。

 私も、周囲からはもう還って来ないから送ってやれって言われていたらしいよ?」

 

 遠い話を、青年は遠い目で呟く。

 

 「必ず帰ってくるって、ネージュ一人が私を殺すのを反対してね。

 彼女が、私を葬る役目の姉弟子がそう頑なに言ってくれてなかったら、私は当にこの神殿ごと火葬されていたろうね」

 「そして、ボクの面子も丸潰れだったから、あれは危険だったよねー」

 

 ひょいと、消えた筈のエルフが顔を出して言った。

 

 「ネズミちゃんネズミちゃん。弟くんが昔齧ってたチーズの残りあったから持ってきたよー」


 と、さっきの一瞬の殺意は何処へやったのか、無邪気に。

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