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勇者教

「ししょー、この瓦礫は」

 「基本全部ゴミだよ」


 そして30分後。

 

 ネズミ勇者は、ニコニコした銀に近い髪色のエルフに見守られながら、師と二人で壊れていた家兼神殿の掃除に励んでいた。


 「頑張ってねー」


 と、興味の無い事にはとことん興味の無いエルフらしく、壊れた神殿に少女エルフは一切手をつけないで、応援していた。

 

 「ししょー、手伝ってもらえないんですか?」

 「ネージュは龍神信仰してないからね……

 信仰していない神の神殿を建て直す手伝いはしてくれないと思う」

 「ボク、龍あんまり好きじゃないからね

 此処にいるのも何だし、ちょっと外で皆がどれくらい成長したか見てくるね」


 あっけらかんと言うエルフの姉弟子に、ファリスは気軽に声をかける。


 「先輩方をあんまり苛めないでやってくれよ」

 「りょーかい。まっかせておいてよ。

 これでもボク、弟くん相手にちゃんと毎回加減できてたでしょ?」


 ふふふん、と自慢げに言うエルフに、まあそれでも、一年で強くなったと考えすぎないようになとファリスは釘を刺す。

 それにうなずきを返すと、そそくさと銀のエルフは外に出ていって。

 

 後には、師と呆然とした勇者だけが残る。


 「……相変わらず、良く分かんない人ですねししょー」

 「まあ、あれでも分かりやすい方だよ。私の言葉も良く聞いてくれるしね」


 言いつつ、師は瓦礫を避けて……

 

 「ああ、此処にあったのか」


 と、何かを持ち上げる。

 少女勇者は、その何かを見ようと近付き、手に持たれたそれを覗き込む。

 それは、一つの石で出来た像であった。

 

 「せきぞーですか?」

 「うん。私が昔彫ったんだ」


 だから、不格好だろう?と、剣聖は陽射しに大きく広げた掌よりも片翼の大きな龍の石像を掲げた。

 

 確かに、と勇者は思う。

 素人であろうファリスが彫った像は、お世辞にも出来が良いとは言えなかった。

 翼が片方折れているが、それはさておいて残った翼も、カッコいいとはとても言えない造形で、ドラゴンと聞けばフェロニアでも知っている精悍な顔立ちも、角が不格好な上に彫りが甘く、そう思えば一部は削りすぎでどこか間抜け。

 ワイバーンではなくドラゴンであることを示す4足も、右前足に比べて左が細かったり、鱗が彫られてなくてツルツルしていたりと……そこそこ雑な造形。

 

 「……いつですか?」

 「私が、闘気を纏えるようになってすぐ。大体……11歳の頃だね」

 「ししょー、今のニアでもこんなの作れないですし、当時のししょーは頑張ったですよ」


 何と誉めて良いか分からず、勇者は曖昧に言った。

 

 「……まあ、まさかこの像が不格好過ぎて気に入らなかったから壊しに来た……って事は無いんだろうけどね」


 言いつつ、少しだけ苦手そうに目線を反らしつつ、剣聖は雑の木屑を払う。

 

 「です?」

 「まあ、皇龍って呼ばれる伝説の龍だったからね、あの時降り立ったのは。

 宙に暮らすと言われる神の龍。紅の鱗の神龍。紅龍(こうりゅう)にして皇龍(こうりゅう)

 龍の神の化身とも言われるからね、アレは」


 少し遠い目をして、剣聖は呟く。

 

 「ししょー、だいじょぶですか?」


 そんな師が少し心配になって、勇者はそのオレンジ髪を見上げる。

 すぐに、何時もの微笑を返された。


 「大丈夫だよ、ニア。

 龍神信仰は……確かにその化身ともされる皇龍の襲撃でちょっと疑問に思ったことはあるけれど。さすがにいくら私でも、二度と龍は見たくないって事は無い。

 神殿だし、御神体として置いておくさ」

 

 ふと、その言葉に勇者はその大きなネズ耳を揺らす。


 「ししょーししょー」

 「どうしたのかな、ニア?」

 「おそとの像は壊されてたです」 


 その言葉に、剣聖は頷く。


 「ああ、名前すら忘れられた女神『あーちゃん』像だね。

 確かにあれは壊されている」

 「なのに、エルフさんたちは直そうともしてないです。あの神様も、エルフさん達には興味ないですか?」

 

 その疑問に、青年は違うよと返した。


 「エルフ達にとっては、天使達を送った『あーちゃん』は寧ろ信仰する神だよ。

 単純にね、神を偶像崇拝する……つまり、像とかを拝むのは違う!って話になっただけ。それで名前を読んだりしなくなったから……ついには名前を忘れて、『あーちゃん』って愛称しか残ってないけど」

 「じゃあ、龍神さまも像っていらないんじゃないですか?」

 「いや、あくまでも偶像崇拝が異端とされてるのは『あーちゃん』を信じる者達だけだよ。龍神、海神、冥神。残りの三神の信者は、ちゃんと像とか拝むよ」


 私みたいにね、とファリスは笑った。

 

 「そういえば、ニアは神様を信じてたりする?」

 「勇者さまを信じてたです。まおーを倒してくれるって」


 その言葉に、ファリスは苦笑した。


 「ああ、勇者教か。様々な村で流行ってたものね」

 「ししょーについてもですよ?」

 「自分が信仰されていたと聞くと、何となく気恥ずかしいね、これは」

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