聖地紹介
白亜と紅の門、すなわち龍の神の門を抜けた先に広がるのは、聖地と呼ばれる地の光景。
「あれ?けっこうぼろぼろです?」
想像していたのとは違う光景に、何で?と勇者は首を傾げた。
聖地とまで呼ばれるからには、豪奢な建物が並ぶ埃一つ無い場を想像していたフェロニアにとって、傷痕だらけの場所は、違和感が大きかった。特に、傷一つ無い白亜の門からは想像も付かない中のボロボロさに、騙されたのかと横の師を見上げる。
けれど、ここで合ってるよ、と青年は返す。
「ニア。聖地っていうのは、魔神と天使達……そして、初代群青の勇者の最終決戦の地。魔神達が封印された場所。
聖地って名前から、華やかな場所に思えるかもしれないけど、言ってしまえば、魔王城跡みたいなものだからね。そう思えば、寧ろボロボロなのが当然じゃないかな?」
「そうですか?」
「私も最初は面食らったよ」
「ですよね!」
師と同じ感想で嬉しいのか、少女の耳がぴくりと動いた。
「……あ、ししょー!燃えてる場所がありますよ!」
と、崩れた建物の屋根部分に火がついたままの場所を見て、ネズミ勇者は驚いたように言う。
其処は、ちょっと他とは違う石造りの建物の残骸。他の壊れた建物に比べてかなり新しい切り口の石で出来たもので……
「まだ燃えてたのか」
と、ファリスは苦笑した。
「まだ?」
「そう。まだ。あそこはエルフの皆が作ってくれた私の為の場所でね」
「こわれてますよ?」
「うん、そうだね。あそこに紅龍は降り立ったから、そりゃ壊れるよ。
そしてあの火は、私があの日放った一撃の出涸らしみたいなもの。まさか、一年燃え続けているとは思わなかったけど」
燃やした寿命、約25年。人間としては大事で、エルフからしてみれば一息程度。そこまでの力とは、撃った当人であるファリスすら思っていなかった。
「一年も燃えてるって、凄いことですよししょー!」
キラキラと尊敬の眼差しで、弟子は師を見上げるが……師は曖昧に笑う。
「でも、なぜかこの地に現れたあの龍は、元気に飛び去っていく程度の傷にしかならなかったからね」
「でも、ドラゴン相手に戦えたって凄いことですよ!」
「……まあ、本気で何しに来たのか分からないから、追い払えたのか、何なのか分からないのが不気味なところなんだけど」
言いつつ、師は弟子の手を引いて、聖地のデコボコとした道を歩く。
「クレーター?」
「地面割れてるから気を付けてね」
「これ、どうやって出来たんです?」
「聖剣の力を全開にした初代勇者が大地を切り裂いた名残って言われてるよ」
昔エルフから聞いた事を受け売りするファリス。
「へぇー、ってゆーしゃさまが?
ニアも出来たりする……んですかね?」
けれど、そんなことは気にせず、無邪気に今代の勇者は問い掛けた。
「ディランは出来たよ。というか、恐らくだけど、魔王相手に使った」
そして、帰ってこなかった。
その言葉を飲み込み、剣聖は頷く。
「っていっても、どうなんだろうね。
修業すれば、きっとニアにも出来るようになるとは思うけど……」
「じゃ、じゃあですけど
ししょーのあのまだ燃えてる火と、どっちがすごかったんでしょう?」
そんな素朴な疑問に、答えを知らないファリスは答えず。
「さあ?私にも分からないし、もう知りようもない話だよ、残念ながらね」
肩を竦めて、そうとだけ告げた。
そんな二人を、遠巻きに見る人影が居て。
「あ、ししょー!エルフさん達がいますよ!」




