表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者パーティを追放され一人取り残された剣聖は、次代の勇者を育てる  作者: 雨在新人/星野井上緒
ネズミ勇者、剣聖と旅する~ドキドキししょーと二人っきりの逃亡生活編~
29/65

ネズミ勇者の決意

先日はサボって申し訳ありませんでした

「……ここは?」

 ふと、少女が疑問を溢す。

 それにたいし、全てを知る師は軽く答えた。

 

 「ダンジョンの力が無くなって、本来の姿に戻っただけだよ」

 

 実際、その通りである。ダンジョンとは、現実世界を……霊気が法則をなす世界を上書きして産まれる瘴気世界。

 瘴気が晴れれば、そこは元の世界に戻るのだ。だが……

 

 「……駄目だね、此処は」

 そう、ファリスは部屋の開け放された木窓から外を見てそう言った。

 「だめ?」

 「此処はもう、街として成立しない」

 その言葉に、勇者は窓の外を見ようとして……長身種族向けの窓に背が届かずにぴょんぴょんと跳び跳ねた。

 「と、とどかないです……」

 

 「……ほら、ニア」

 その脇腹を軽く両手で抑えて、19歳の青年は己の弟子を抱き上げ、窓枠の上まで引き上げた。

 

 そうして、弟子の目にも映るのは鐘楼。街の中心に建てられる、一番背の高い建物。

 グランフェリカでも、王城は街の中心に建っているものだが……街の中心は王城の外れに位置する宗政一致として王城に取り込まれた教会部分にある鐘楼である。

 

 其所から、鐘の音を響かせるのであるが……6色ある鐘のうち、この街の鐘はフェロニアの聖剣と同じ群青色で

 まっぷたつに割れ、鐘としての役目を喪っていた。

 

 「……ししょー、鐘って、こわれるです?」

 「壊れるし、壊せるよ

 瘴気を祓う音を響かせるものだからか本体は瘴気を浴びる事を想定してないのか、案外瘴気に弱いし……

 物理的には本当に硬いけど、多分私でも全身全霊を懸ければ壊せる。あとは、その聖剣なら粉々に出来るし、ああして鐘楼の上に移すために一旦解体出来る手順や呪文が伝わってるから、悪用すれば非力な人でも鐘は潰せる」

 少しだけ苦々しげに、剣聖は奥歯を噛んで

 「ニアは壊せるなんて思って無かっただろう?

 そうして壊してみたいって軽い気持ちでやるバカを出さないようにして、本当に信頼できる人に鐘守を……移転や破壊の方法を知る者を任せるんだ」

 

 「……こんかいは?」

 「瘴気が溢れすぎたんだろうね」

 「……うう……

 かねがないってことは、此処は……」 

 「ダンジョンにはダンジョン外の魔物はあんまり近付かないことが多いけど、ダンジョンは消えた

 すぐに、この辺りは魔物に呑まれて……かつて街だった場所に成り果てる」

 「じゃあ、そのまえにみなさんを……」

 

 その言葉に頷いて、剣聖は弟子を床にゆっくりと下ろし、その頭をぽん、と叩く。

 「その通り。早く行かないとね」

 ただ、何人生きてるかは……という言葉は飲み込んで、ファリスは弟子の手を引いた。

 

 「うぅ……しょんぼりです……」

 耳をへにゃんと垂らして、勇者は呟く。

 生き残りは……12人。生きていたと言える程度の存在を含めれば、15人。

 それが、あの街に残っていた人間の全てだった。

 

 「たった、12人……」

 「たったじゃないよ。寧ろ、12人生きてたことが凄いんだ

 かつて、私がディランと共に挑んだタウンダンジョンは……誰一人もう生きてなかったからね」

 「でも、でもです……」

 俯く弟子を勇気づける言葉は、ファリスには思い付かなくて。

 こうした思いは、幾らでもしてきた。だから、魔王を倒し、瘴気を弱めようと思ったのだから。

 

 悔しさを呑み込み続けることで戦った男には、始めての事に落ち込む少女へ向けた気のきく言葉なんて何も無く、ただ見守った。

 

 「……それに、ニアは」 

 半分溶けたヒトガタをおかあさんなんだ!と騒ぐ少年と、もう眠らせてやりなさいと言う兵を遠巻きに見つつ、少女勇者は言う。

 「なんにも、できなかったです……」 

 

 「大丈夫、ニア

 あれは、私にも何も出来ていないから」

 「……だいじょぶなんかじゃないです

 ニアが、聖剣の力をしっかり使えたら、治せるんですよね?」

 その言葉に、師たる青年は少しだけ言うべきか迷いつつも頷く。

 「群青の聖剣の力を上手く引き出せれば、恐らくね。

 ディランなら、何とか出来たかもしれない」

 「なら、ニアはできそこないです……

 だめだめゆーしゃです……どぶねずみです……」

 ますます沈む少女にあまり触れるのは良くない。

 そう考えつつも、ファリスに出来る慰めかたなんて、幼い頃に母にされた頭を撫でること以外、ロクに無くて。

 ただ、大丈夫だと弟子の頭を撫で続ける。

 

 「……大丈夫だよ、フェロニア」

 何時ものようにニアではなくその本名を呼び、剣聖たる男は語る。

 「確かに、今回の君は……正直役に立たなかったかもしれないね」

 ますます少女の耳と尻尾が垂れる。

 「おじゃまネズミだったです……」

 「でも、君は誰かを助けたいって、助けられたらって思ったから、着いてきた」

 「結果はどぶねずみで……」 

 「そう。君には力がまだ、無かった。足りなかった。

 ……でもね、ニア。力を得ることよりも、勇気の火を心に灯すことの方が、何倍も難しいんだ」

 

 「ゆーきの、火?」

 少女は、その大きな目で師を見上げる。

 「そう、勇気の火。誰かを護りたい、助けたい、そう思う他人の為に怒り、嘆き、努力したいと思う心の灯火。

 それはね、誰でも努力すれば身に付けられる力と違って、誰でもすぐに灯せるものじゃない」

 だから、と。ファリスは弟子に目線を合わせて、微笑(わら)う。

 

 「それは、勇者にとってきっと大事なこと。ディランは持っていて、私が暫く持ってなかった尊い光。

 大丈夫、君はそれをもうしっかりと持っている。強さなんて、後からでも手に入る、そんなに悲観しなくて良いよ」

 暫く、師を見て、

 不意に少女勇者は顔を上げる。

 

 「ししょー、ニア、強くなりたいです」

 「大丈夫。強くなれるよ。ディランみたいにね」

 その言葉に前は目を輝かせた少女は、今は逆に目を泳がせて。

 「……ニア?」

 「なんか、やです」

 「強くなるのが?」

 「そうじゃないです。でも、ニアはニアで、前のゆーしゃさまじゃなくて

 ……ししょーが、勇者って括りでニアとあの人を一緒にするの、なんかやです」

 それは、幼い少女の心に初めて芽生えた嫉妬。

 

 けれど、笑って師は流す。

 ファリスは筋金入りの童貞である。これまでにまともに女性と関わったことなんて、母親、感覚のズレにズレた姉弟子ネージュの二人と、後は勇者の事が好きな相手だけ。当然、少女の心の機微など知る筈もない。

 

 だから、少女の幼く小さな嫉妬はそのままに、語る。

 「強くなりたい、か。

 そう言えば、良い場所があった。もっと早くに思い付くべきだったね」

 「ししょー?」

 「あのふざけた彼等がまず来れなくて、ニアが強くなれる場所。ちょっとだけ、環境としてキツいけど、良い?」

 「行きます!」

 強くなれるなら。もうこんな思いをしなくて良いなら。その思いに突き動かされるように、少女勇者は力強くちょこんと頷いた。

えーっと、おっす?ニアはフェロニアっていいます。13さいです。


まずは、これまで読んでくださった皆様ありがとうございますです。これからも、出来ることならニアとししょーの話をよろしくです。


さて、次回からですけど……

ししょーのおすすめの場所にいったニアたちなんですが


「ししょー!ここって」

「そう。私が昔お世話になった場所。此処ならば、あの汚いのは来ないよ」


って感じで、ステキなばしょに来た……はずなのに?


「まさか、再び対峙することになるなんて、ね

いや、寧ろ……運命か」


安全なはずのばしょに降り立つのは、【紅き終焉】。下手したらまおーすら越えた伝説の存在。皇龍

(ソラ)に住む、神さまにも等しいとされるおそろしいドラゴン

それが、流れ星のように、ニアたちの前に降り立つです


「フェロニア。これは、私の因縁だよ

私が決着をつける」

「ししょー、しんじゃだめです!」


次回、ニアのドキドキししょーと二人旅、『紅焉来降~襲来、皇龍ヴリエーミア~』


ししょーとの旅は、ここで終わっちゃうですか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ