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勇者パーティを追放され一人取り残された剣聖は、次代の勇者を育てる  作者: 雨在新人/星野井上緒
ネズミ勇者、剣聖と旅する~ドキドキししょーと二人っきりの逃亡生活編~
27/65

ネズミ取り

「……だれかー!いないですかー!」

 そう、弟子の可愛らしい声が響き渡る。

 

 「みなさーん!わたしは、じゃなくて、ししょーはすごい人なんですー!

 あの剣聖さまで、みんなを助けに来てくれたんですよー!

 だからー、出てきてくださーい!」

 そう、手でメガホンを作って少女は必死に呼び掛けるも……

 

 「ギャギャギャッ!」

 出てくるのは緑の肌をしたゴブリンばかり。人らしき影は一切見えない。

 「……聞き間違いじゃないのか、ニア?」

 幾度目かのゴブリンの脳天を貫き、ファリスはだんだんとご機嫌に立っていた耳がしょぼくれてきた弟子にそう問い掛ける。

 

 元は助けられる人いるかもです!していた弟子の声も、今では諦めが混じっていて

 「……諦める?」

 空を見上げて、剣聖は問い掛ける。

 「あきらめたくないです!」

 「……じゃあ、探し続けようか」

 そう言って……

 

 「でも、その前に」

 剣聖は、そろそろ神聖魔法の力も切れるなと思い、弟子を手招きする。

 「え?なんですかししょー?」

 とてとてと寄ってくる弟子を軒下に入れて、師は聖剣を出すように告げた。

 

 「えっと、聖剣ですか?

 別にいいですけどどうしたんですかししょー?」

 「聖剣の使い方をちょっとね」

 弟子の頭を撫でながら、師たる青年は告げる。

 それに対して、弟子の少女は不思議そうに首を傾げた。

 

 「ししょーが教えてくれるのはうれしいですけど、今ですか?」

 「今だからだよ、ニア。」

 「今だからです?」

 「そう。君の魔法がちゃんと意味を持つ時。成功が良く分かる時。そんな時だからレクチャーするんだ

 人々を助けたいからついてくると言ったのは君だから。人々を助けるのは君だよ、ニア」

 その言葉に、はっとしたように少女はちょっと落ち込んだ顔をキリっとさせる。

 言われたままに手に持っているだけであった群青の聖剣をぎゅっと逆手に握り、真面目な表情で耳を立てた。

 

 「……そうです。ニアが、わたしがやらなきゃです!」

 「そう、その意気だよニア」

 「お願いします、ししょー!わたし、何すれば良いですか!?」

 「……まずは、呼吸かな」

 「はえ?」

 キリッとした目が、とたんにへにゃっとなった。

 

 「魔法をしっかり使うにも、呼吸は重要だよ。すぐに息が上がるようじゃ困るからね。

 ディランはその辺り得意だったけど、馴れてないなら意識して頑張ろう」

 「前の勇者さんがやれたなら、頑張るです!」

 やけに闘志を燃やし、それでも13歳の女の子らしく可愛くきゅっと手を握って。少女勇者はやる気を出して剣を握る。

 そして、大きく深呼吸をした。

 耳が震え、尻尾がピン!と立ち、その13歳故にほぼ起伏のない胸が空気で膨らむ。

 

 「その調子だよ、ニア

 吸って、吐いて。息を整えて……

 まずは、自分が……」

 感覚でやってるから言葉にすると難しいね、と師たるファリスは頬を掻いて。

 

 「鳥になるイメージは、出来る?自由に空を舞う、何にも束縛されないような……」

 「鳥さんこわいです」

 その言葉に、しまったねとファリスは苦笑いする。

 スミンテウス種とはネズミだ。鳥はネズミを捕食する。猫ほどでなくとも、ネズミな少女にとって鳥とはあまり考えたくない存在であったのだろう。

 

 「じゃあ、ドラゴン。最強生物のイメージ」

 あまりに隔絶したイメージを、ならばとファリスは要求する。

 ファリス自身、届いたと思った剣、命懸けの一撃すらも多少の傷でしかなかった皇龍相手には格の違いを思い知ったものだ。もはや逆に怖いも何もないだろうと、その名を出す。

 

 「ドラゴンさん?」

 「そう。自分は何物にも縛られないってイメージ。それが、こうして……」

 ばさりと。少女勇者の持つ聖剣の加護を、かつての勇者と共に戦った頃の杵柄でもって展開し、剣聖は語る。

 「聖剣の加護の力を解放するんだよ

 ニア。神聖魔法を使うには、こうして翼を展開できなきゃいけないんだ。頑張ってやってみて」

 「やります、ししょー!」

 そう言って、弟子であるネズミ勇者はその形の良い眉をひそめて……

 

 「む、むむ、むむむーっ!」

 可愛らしく唸ってみせて。

 その背にちょっとだけ光が見えて、でもやはりすぐに消える。

 「……できないです!」

 そう、匙を投げた。

 

 「……君が決めた事。つまり、君がやるべき事

 本当に無理なら私がやるのは良いけれど、もうちょっと頑張ろうか」

 「うう、ごめんなさいです……」

 しゅんとして耳を垂らし、片耳に引っ掛けた帽子を深くして、少女は項垂れる。

 

 「って、諦めちゃししょーに捨てられちゃいます!」

 「いや捨てないけどね?」

 私は君に残りの人生を使う気だから、という心の中は言わず。剣聖はころころと表情の変わる弟子を見守った。

 

 と、その耳がピン!と立つ。

 今度は、ファリスにもその声は聞こえた。

 助けて、誰か助けてと。

 

 「やっぱり居たんですよししょー!」

 「……確かにね

 でも、気を付けるんだよニア。魔物は基本的に、瘴気て歪んだ形で産まれ落ちるこの世界の生き物。その中でも……ゴブリンは特に醜悪ないきも……」

 弟子はその言葉を聞く事は無く。

 

 「今助けにいくですよ!」

 師を先導するように、その大きな耳を言葉の聞こえた方に向けて駆け出していく。

 

 「……待つんだ、ニア」

 「ししょー!ししょーも急いでです!」

 そして……

 「はえ?」

 カチリと、少女勇者の足元で魔方陣が光を放つ。

 「……あ、」

 一瞬後には、罠に巻き込まれて、少女勇者の姿は消えていた。

 

 「……だから言ったろう、ニア」

 と、ファリスは溜め息を吐いて、

 「今行く」

 轟くのは、落雷が可愛く見える音。

 

 剣聖は、世間知らずな弟子をフォローすべく全速力で駆け出した。

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