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勇者パーティを追放され一人取り残された剣聖は、次代の勇者を育てる  作者: 雨在新人/星野井上緒
ネズミ勇者、剣聖と旅する~ドキドキししょーと二人っきりの逃亡生活編~
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勇者、ゴブリンを見る

「オッケー、入って良いよ、ニア」

 とりあえず、空気に異常はない。槍の雨が降るようなこともない。

 

 そうした最低限弟子が死なないことを確認して、ファリスは……出入り口たる門のある空間を切り裂き、外へ戻りながら言った。

 「じゃ、じゃあ……おじゃまします?」

 「邪魔どころか、壊しに来たんだけどね、私達は」

 どこかズレた弟子の文言に、でも礼儀正しいね良いことだよとフォローしながら、剣聖は周囲を見回した。

 「ししょーししょー!門の先が変ですよ!?」

 と、ネズミの弟子にくいくいと袖を引かれ、ファリスは背後を見る。

 

 入ってきたはずの門はそのまま其所にあって。けれども、見える外の景色は完全に別物。

 歪んだ空、天地が90度回転した大地。明らかな異界。

 「ああ、それ?

 ダンジョンがダンジョンと呼ばれる由縁の一つだよ。

 ダンジョンの中は瘴気によって他と隔絶される。だから、法則が違うんだ。」

 「え、じゃあニアたち、もう帰れないんですか?」

 なら、私が大丈夫って顔を出せないよ、とファリスは不安がる弟子を元気付ける。

 そして、オリハルコンの剣を抜くと、門の先の空間を指した。

 

 「といっても、入り口は繋がりがあるし、隔絶も薄い。

 その気になれば……切り裂けば元の世界に戻れるよ。戻る?」

 「い、いえ!頑張ります!」

 「その意気だよ、ニア」

 小さな弟子のがんばりますよー!という小さな気合いに少しだけ昔を思い出しながら、剣聖たる青年は……

 

 「そこかっ!」

 オーラを纏ったまま、飛来する石を剣を掲げて二つに断ち割った。

 「ししょー?」

 敵襲に気がつかないままに、幼い顔で此方を見上げる勇者には気にせず、ファリスは剣を構えて街外壁の内側に広がる菜園を見渡す。

 直ぐに異変は見つかった。菜園の向こう、果樹に隠れるようにして、幾つかの投石機が設置されている。

 当然だが、街中に投石機など無い。基本的に、街は鐘に護られている。外に出て魔物と戦うのは冒険者のみ。

 こんな世界では、かつて魔王がおらず平和だった頃は人同士の争いに使われていたような兵器の大半は此処100年で処分されている。特に、投石機等の持ち運びが面倒なものは解体されて資源にされているのが殆どだ。

 あったとして100年前のもの、使える状態ではない。

 

 すなわち……あれは、魔物と共に瘴気から産み出されたものである。世界に満ちる霊気が汚染されただけあって、割とダンジョンは何でもありだ。時には罠だってあるし、人工物だって生成される。その全てはダンジョンの一部ゆえ、コアを破壊すると消えてしまうが……

 

 「成程、ゴブリン達のダンジョンだったコアが爆発したんだな」

 その投石機にキャッキャと言いながら二発目の石を装填する緑色の小鬼の姿を確認して、ファリスはうなずく。

 彼等はゴブリンソルジャー。兵士の名の通り、武器を使いこなすゴブリン種の魔物である。

 

 この世界において、人に近い魔物は何種か産まれるが、下劣で、そして良く産まれるのがゴブリン種。

 かつて人々が騎馬に乗って駆けていたように、狼に乗るナイトゴブリンや、精霊術法を操るゴブリンエレメント、果ては神に祈って奇跡を起こすように魔神に祈って奇跡を呼ぶゴブリンジャーマンまで、幅広い種が産まれる。

 その強さはピンキリ。弱いゴブリンは本当に弱く、冒険者にも弱い魔物とされるが……強いゴブリンはファリスでも何度か手を焼くぐらいに強い。出会った中でも一番強かったゴブリンは、何と四足の竜に乗り、飛竜に乗ったゴブリンライダーを指揮して襲ってきた。

 

 だが、今のファリスの敵ではない。

 一拍の後に三度の刃が閃くと、ゴブリン達は瘴気となって消えていく。

 「……あれ?敵さんだったですか?」

 「ニア。ここは……」

 と、剣聖と呼ばれた青年は、ダンジョンそのものが初めてである少女の目線で、辺りを見回してみる。

 

 とりあえず、変わったところは……門の外が変なこと。果樹の後ろにゴブリンが隠れていたこと。そして、空が暗く、星もないこと。

 ぱっと見、街そのものはそう変わっていない。マグマの噴水が噴き出していたり、建物が全て趣味の悪いトゲトゲだの骨の家だのに変わっているわけでもない。

 

 確かに、初見では緊張感なんて無いだろう。そこは、少女を責めることは出来ない。

 だが

 「いいかい、ニア。確かに一見割と平和に見えるけど、此処はもうダンジョンの中。

 人間は……もう何人生きているか分からない異界。基本的に出てくるのは殆ど全部が魔物って思った方が良いよ」

 「ししょーがいなかったらあぶなかったです」

 反省したように頷く少女勇者

 反省の気持ちを込めてか、重いから消していた聖剣を手元に呼び戻し、勇者たる少女は頑張ります!と改めて道の先を見た。

 道を通ってくる人影。いや、かなり小さなフェロニアが大きく見える、100cm無い大きさの緑の鬼、ゴブリンである。

 

 「ニア。とりあえず……危険だから、絶対にゴブリンに近付いちゃダメだよ」

 「はい!」

 少女に言い含めて、ファリスは駆け出した。

明日の投稿は……無いです(サボり)

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