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勇者パーティを追放され一人取り残された剣聖は、次代の勇者を育てる  作者: 雨在新人/星野井上緒
ネズミ勇者、剣聖と旅する~ドキドキししょーと二人っきりの逃亡生活編~
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ダンジョンコア

「ししょーししょー」

 と、ネズミの勇者は今日の分の薪を小さく屈んで拾いつつ、更にファリスに声をかけた。

 

 「ししょー、だんじょん?ってなんですか?」

 その言葉を聞いたのは、ちょうどファリスの目がダンジョン化した森の一角を目撃したところであった。

 「気になる?」

 「はい、多くのだんじょんは変な場所だーって書かれてるんですけど、変だなーって」

 「変なんだ」

 弟子の言葉を促すように、弟子にダンジョンを悟られないように、師はちょっとだけダンジョンの在処と違う方向へと歩みを進める

 

 「でもですよ?リガルくんもニアの村の近くにだんじょんがーって言ってましたし、そこにあるんですよね?

 なのに、どーしてみんな、まぐまっていうすっごく熱い川だとか、天井をあるくーとか、変なことばっかりいうのかなって」

 その言葉に、ああとファリスは頷く。

 

 「ニア。この世界の法則は知ってる?」

 「ほーそく、ですか?」

 「そう、法則。例えば、人は地上を歩く。

 ジャンプしても、すぐに地面に落ちる」

 と、ファリスの言葉に合わせて幼い弟子はぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 「スカートまくれちゃうよ、ニア」

 「……あっ!」

 と、慌てて少女はスカートの端を抑え、跳ぶのを止める。

 「でも、だとしたら不思議じゃないかな、ニア

 お空には太陽や、沢山の星がある。人は……人だけじゃなく基本的にあらゆるものが、地面に落ちるのに、どうして星は落ちてこないんだろうね」

 「そういえば不思議ですねー

 ししょー、こたえを知ってるんですか?」

 「知ってるよ。霊気の作用。どんな形かは知らないけれど、この世界のあらゆる事は霊気が決めている。

 果物が木から落ちるのも、暖めると水が蒸気になるのも、部屋として板で囲った空間の大きさが、囲う前と変わらないのも。全部霊気が作用してるんだ」

 それぞれの細かい理屈は知らないけどね、と前置きして、ファリスは続ける。

 

 「そしてね、瘴気は汚染された霊気。それが一定以上集まると、濃くなりすぎるとね。

 霊気が決めている世界の法則が壊れるんだ。そして、瘴気が支配する新しい法則の世界が産まれる。

 そこが、ダンジョン。世界と異なる理の世界。

 ちなみにだけど、楽園の鐘の影響下も、本来の法則とは違うという点ではダンジョンの1種だよ。まあ、魔物は入れないって法則しか無いし、瘴気の影響じゃないんだけどね。寧ろ、瘴気が0な影響かな。

 でも、逆に言えば、あそこは魔物は存在できないっていう特別な法則が適用されたダンジョンなんだ」

 「……見てみたいです」

 「ニアには……」

 まだ早い、そう言おうとしたその瞬間。

 

 不意に、風が吹いた

 それに帽子が飛ばされかけ、振り向いた弟子の目に、歪んだ森の姿が映った。

 「ししょー!あれ!」

 「……ダンジョンだね」

 「ダンジョンですよダンジョン!」

 「ダンジョンだね」

 見つかったかぁ……と、ファリスはこめかみを抑える。

 

 「ししょー!ダンジョンって危険なんですよね?」

 「当然。一定以上の瘴気が溜まればダンジョンになる。ダンジョンは瘴気の塊。

 とても危険だよ」

 「なら、こーりゃくしましょう!」

 と、無邪気に、ネズミの女の子はキラキラした目でそう言った。

 

 「……ニア。ダンジョンは素敵な場所じゃない。何が起こるか分からない未知のダンジョンは、Cランク以下の冒険者は存在の報告だけするようにっていうのが、冒険者の鉄則」

 「……そうなんですか?」

 「法則が違うからね。例えば私はこうしてオーラを纏えば無視できたけど、魔王城は空気が全部人が吸ったら死ぬ毒だっていう法則になってた世界だったよ

 こうしてその法則を否定できる方法がないと、入って息をしたら死ぬ」

 「こ、こわいですね……」

 と、肩を縮こまらせて震えるネズミの女の子。

 小さな少女には、ダンジョンの実情はちょっと怖いものだったのだろう。

 

 「まあ、魔王城は水がマグマだったり、他にも色々と法則が頭可笑しかったから、あそこまでのはそう無いとして。

 でも、危険なのは分かった?」

 「……はい」

 

 「ニア。君が危険だからってダンジョンを何とかしようって思うのは偉いことだよ。本当にね。

 でも、自分の身を危険に晒すことになる。だから、今回は自分で何とかするのは諦めよう?」

 少しだけしゅんとして、勇者は師に頷きを返した。

 

 「ごめんなさい、ししょー」

 「謝らなくて良いよ、ニア。君は言いたいことは間違ってないから。

 確かにダンジョンは危険で、早く潰せるなら潰すべき」

 解説のために纏ったオーラはそのままに、ファリスはそう呟く。

 

 「少しだけここで待てるかな、ニア。

 ……潰してくるよ」

 

 「……ってことで、潰してきたよ」

 と、剣聖が戻ってきたのは30分後であった。

 「はやっ!?はやすぎですよししょー!?」

 「仮にも剣聖だからね、私」

 言いつつファリスは、手にした澱んだ珠を弟子の前に差し出す。

 「これは?」

 「ダンジョンコアと呼ばれてるものだよ。

 ダンジョンの核。ダンジョンをダンジョンとして形成させ続けている瘴気の収束点」

 「危ないですよししょー!捨てましょうよ」

 そんな弟子の言葉を、剣聖である師は遮る。

 「ダメだよニア。ダンジョンコアは文字通りの瘴気の塊なんだ。下手に壊すと……

 ボン、だよ」

 「ぼ、ボン……」

 「周囲を吹き飛ばす爆発と共に瘴気が蔓延して、新しいダンジョンの出来上がり。

 特に街中で爆発させたら、下手したら街一個消えるよ」

 「ひっ!」

 「だからね、コア解体専門の人がギルドに居るから、ギルドにちゃんとコアは引き渡すんだよ

 きちんと浄化すれば、とても良い霊気珠になるから」

 まあ、それはそれとして、とファリスはそのダンジョンコアを天高く放り投げ、腰貯め逆手に剣を構える。

 

 そして……

 「王我剣・朔嵐賦雪(さくらふぶき)

 無数の剣閃が炸裂する力すら粉微塵に切り裂き、散らす。

 

 「って感じで、慣れれば一応個人でも処理できるけど、それはよっぽどの人だけだね」

 「って処理出来るんですかししょー!?」

 「Aランクは全員出来るよ」

 目を真ん丸に見開く弟子に、ファリスは事も無げにそう言った。

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