表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者パーティを追放され一人取り残された剣聖は、次代の勇者を育てる  作者: 雨在新人/星野井上緒
ネズミ勇者、剣聖と旅する~ドキドキししょーと二人っきりの逃亡生活編~
21/65

呼吸と修業

「それじゃあ、授業を始めようか」

 翌朝。もぞもぞとちょっとだけ何かを気にしてテントから出てきた少女に、ファリスはそう語りかけた。

 

 「……大丈夫、ニア?」

 「ししょー、ニアあんまり替えの服ないです……」

 しゅんとする少女に、そういえばと剣聖は己の失策を理解した。

 

 剣聖ファリスも勇者ディランも、服にはそこまで頓着はない。流石に返り血まみれの服は捨てるし変えるが、多少は気にしていない。

 だが、年頃の女の子は違う。しっかり洗ってローテーション出来るなら良いかもしれないが、同じ服を着続けるなんて嫌だろう。

 「ごめん。そこまで考えてなかった。

 街に行ったとき、買おうか」

 「街に入ってだいじょぶです?」

 「大丈夫。泊まりとか長くすると、彼等が来るかもしれないけど……彼等だって仕掛けてくるまでは周囲に溶け込まないといけないんだ。問題行動を起こせない以上、街に入った瞬間は直接的な襲撃をするくらいしか策がない筈だよ」

 剣聖は弟子にそう笑いかけた

 「それにね、ニア。

 そもそもだけど、街で買い物すら出来ないようなら、私はもっと焦ってるよ」

 一晩徹夜して、来たのは魔物一匹。やはり、街の外にはそこまで手が及ばず、街中も数時間ならばそう酷い目には逢わないのだろう。

 

 逃亡生活……と呼ぶには、それなりに緩いがゆっくりは出来ない、そんな生活。

 「あ、そです」

 さすがししょー!と此方を見てくる弟子の頭に、ファリスは片耳に引っ掻けるように帽子を被せてやった。

 

 「じゃあニア。私が一昨日、簡単な伸び代があるって言った言葉は覚えてるかな?」

 こくこくとネズミの女の子はファリスの膝上で頷く。

 「じゃあ、どういう点かは分かる?

 これはちょっと難しい話だから、分からなくても仕方ないけど……ちょっと、考えてみて」

 

 師に言われてネズミ勇者は考えを巡らせる。

 が、集中なんて師の膝ではあまり出来なくて。

 「分かんないです」

 と、お手上げする。

 それに苦笑して、剣聖の青年は弟子の為に横に布を敷いた。

 「……こっちの方がいいですか?」

 「膝の上の方が教えやすいといえば教えやすい事なんだけどね。近いと集中できなさそうだから」

 「そです?」

 「うん。そう。分かった?」

 その言葉に、もう一度ちょっと眼を閉じて、ネズミ勇者はすぐに改善できる点を考えてみる。

 

 ヒントは沢山。簡単に解決できる事で、歩きながらでも出来て、そして師匠の膝の上の方が教えやすいこと。

 つまり、筋力だとかの能力面ではない。

 「あ、神聖まほー!」

 「違うよ、ニア?」

 「ちがうですか?」

 「いや、その方向性は考えてなかったね……間違ってはいない答えなんだけど。

 実際、聖剣の加護の力を上手く扱えるようになれば、その分身体能力も上がって強くはなれるんだけど、誰でも出来る方法を教えてあげようと思ってたからね」

 と、剣聖は頬を掻いた。

 

 「それとも、もっと剣を使いこなしたい?

 そっちの修行を早くって言うなら先に教えるけど」

 「ししょーの考えをしんじるです」

 そのネズミ勇者の答えに、勇者の師は良しと頷いた。

 

 「答えはね、ニア。呼吸」

 「こきゅう?」

 「そう。呼吸

 剣を振るには基礎体力はやっぱり必要なんだけど、それだけじゃない

 もっと効率良く力を使う呼吸。燃費の良い息のしかたっていうのかな、そういうのがあるんだ」

 「ニア、ふつうに息してますよ?」

 「でも、すぐに息が上がる。それは、ちょっと息のしかたが悪いんだ。

 深呼吸ばっかりしろって話じゃないけど、もっとしっかり空気中の霊気を吸うように」

 

 と、剣聖はぽん、と己の弟子の頭に触れる。

 「といっても、場所にはよるけどね。呼吸するだけで危険な場所とか、逆に意識して浅い呼吸が必要だったりするし」

 「そうなんです?」

 「例えばだけどダンジョンなんかは、しっかりとした呼吸をしない方が長く無事でいられたりする事が多いね」

 そう解説したりしながら、師は弟子に自分なりの呼吸を教える。

 

 「最初は意識して深呼吸する感じで」

 「……はい!」

 

 「……もう少し、吐く息は弱く。一気に吐くだけじゃなくて、リズムを刻む感じ……は、難しいか」

 「や。やってみます……」

 

 「もうちょっと、吸う息をお腹に貯めるように意識してみて。

 ああ、実際はお腹に息がなんて事は無いんだけど、あくまでもそんなイメージ。吸ったものを全部すぐに吐くんじゃなく……」

 「すーっ、はー、すーっ、はー」

 

 「うん。結構上手いよ、ニア

 そう、時折全部吐く事も意識してね」

 「はいっ!」

 そして、数時間後。出来ましたよししょー!とまだまだ拙いが、前より確実に進歩したファリスの何時もしている呼吸をしてみせ、キラッキラした眼で見上げてくる弟子に、ファリスはご褒美としてチーズをひとかけ渡した。

 

 「ちーず!」

 「うん。今日は良く頑張ったからね。

 じゃあ、そのチーズを食べたら……今日も夕方まで歩こうか、ニア。

 あ、私の言った呼吸は歩く最中にも意識しながらね。大丈夫、そのうち何にも考えなくても勝手に出来るようになるから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ